最終回 いままでの話をまとめてみます・・・
こんにちは。もう5月の半ばを過ぎました。春も終わりになり、もう少しすると梅雨にはいるという時期になりました。そして、連載に関していえば、これを始めて一年が過ぎて、今回いよいよ最後となりました。
私の連載では、私は思いつくままに考え方やら、トピックを提示してきました。そこで、この最終回は、私がお話した内容について、ごく簡単にまとめてみようと思います。厳密には、「まとめる」というよりは、「こんな話をしましたよね」という確認と言ったほうが良いかもしれません。それともうひとつ、確認をすると同時に、これを読んでこの分野に関心を持った方がいらっしゃった場合に、これから何を行う必要があるか、ということについても触れます。その中で私の考えていることをお話しようと思います。
■ ロジスティクスの考え方 ―キーワードの見直し―
そこで、まずはいままでの話を簡単に思い出してみましょう。ここから読まれる方は、最初のところから読んでいただくことが(分量もそれほど多くないので)ベターです。もう既に読まれた方は、以下で一連のキーワードをご覧になりながら、これまでの話がどんなものだったかを思い出してみてください。
最初でお話をしたように、ロジスティクスとは、原材料の調達から、生産を行ない、最終消費者に至る一連のモノの流れを管理する考え方でした。そして、それを「論じる」というのは、何らかの目標に応じた基準というものを持ってきて、その基準から望ましい状態かどうかという評価を行なうというものでした。
この連載の中ではその目標として、利潤(収入から費用を引いたもの)を最大にするということを挙げていました。そして、利潤を最大にするという目標を達成するためには、費用を削減する、あるいは(モノの流れに関する)サービスの質を高めていく、という選択肢があるけれども、これらの2つの選択肢には時として「トレードオフ」の関係が生じるという話もしました。(このトレードオフという言葉については、第4回の中で説明しました。もし必要ならちょっと読み返してみてください。)
具体的に、モノの流れを管理するという見方のもとでの「トレードオフ」についていえば、サービスの質、必要なものが必要なときに入手できることと、そのためにかかる費用との間の関係、すなわち「在庫管理の問題」が主たる問題になる,ということも話しました。つまり、「欲しいモノが欲しいだけ欲しいタイミングで最終消費者のもとに届く」ということが、サービスの質の面では望ましいし、必要である一方で、そのためには時として製品の保管(在庫)が必要になってきて、それには費用がかかってしまいます。逆に、費用を削減しようとすると、上のようなサービスの質を下げなければいけない可能性もあります。そうであるならば、どのようなタイミングでどの程度の在庫を持つ必要があるかということが問題となり、それがいわゆる「在庫管理」の基本にある問題でした。また、「在庫管理」に関連して,実際の事例ということで、まったく在庫を持たない企業の例というお話もしましたね。
それに加えて、次のようなことについても言及しました。在庫管理の問題は、主として一つの企業の中での意思決定の問題として考えられるものです。しかしながら、最近では、サプライチェーン・マネジメントという、垂直的な関係にある企業の間でのモノや取引などの流れを最適化するという考え方が出てきました。この場合、一つの企業が直面する問題と比べて、取り組むべき問題がより複雑になります。
上のような話は、企業経営をベースとしたミクロの視点の話でした。こうしたミクロの視点に加えて、物流産業の分析や、輸送のためのインフラストラクチャーの整備・運営に関する政策的な視点、すなわちマクロの視点がある、ということもお話しましたね。私の連載では、あまりマクロの視点については多くをお話できなかったのですが、前回「総合物流施策大綱」という政府の物流に対する政策の概要をご紹介しました。また、物流産業に関しても、物流産業を取り巻く規制や市場の環境がここ十数年の間に変化しています。関心がある方は、これまでに紹介した文献のなかでこの点について触れているものもあるので、ご覧になってみてください。
最後に、この連載で言及したかったにもかかわらず、あまり深くお話しなかったこととして、国際的なモノの流れに関することがあります。例えば、最近では、日本の企業が中国に展開しています。それも、単に原材料や加工品を日本に輸入したりするだけではなく、中国という市場に対して参入をするということも進んでいるようです。こうした流れの中で、モノの流れ、あるいはサプライチェーンをどのように管理するか、ということも大きなテーマのひとつです。
■ 何をもとにして考えるか?
こうしていままでの話をみてみると、ロジスティクスであるとか物流という話の中には、本当にいろいろなトピックが入っていることがわかります。こうした内容の多さのために、私の一連の連載では、ロジスティクスに関して扱われている問題とキーワードの「さわり」を紹介する形になりました。
これをお読みになって、「ロジスティクスに興味をもったけれども、いったい何を勉強すればよいのだろうか?」という疑問をもたれた方もいらっしゃると思います。
この疑問に対する答えとしては、これは私の考えですが、次のように考えています。つまり、実際の実務にすでに携わっているような方は、実務を行う上で必要な知識(在庫管理のノウハウなど)を関心に応じて参照されることが必要かもしれません。それに対して、いま高校生ですとか大学生の皆さんは、そのような実際に物流やロジスティクスに携わるという経験がないと思います。(もちろん私もそうです。)ですので、こうした場合、企業の事例を調査するという作業も必要になってくるかもしれません。
ただ、私が考えるに、そうした事例を見つけてくるということ以上に、現象というものをどうやって評価するか、という評価の道具(さしあたって,ここではこれを方法論と呼ぶことにします)を身につけることが重要であると考えています。つまり、モノの流れというのは一つの現象であって、その現象に対してどのような方法(道具)をつかって考える(斬る)かが問題となります。単にある企業の事例のような現象だけを見ていても、それが果たしてどんな状態なのか、ということを客観的に判断することは容易ではありません。
そこで、上の疑問の答えとしては、モノの流れがどうなっているかという現象を観察するということと、観察を行なう前提として、何らかの評価をするための方法論を身につけるということがあります。その後、方法論を用いて現象を分析する、いいかえれば「(私の考えるところの)研究をする」ということになります。
■ 考えのもととなる研究分野とは?
なんだか最後になって抽象的な言葉が多くなってきました。方法論であるとか,分析の道具などといわれても、なかなかイメージがわきにくいと思います、そこで、ロジスティクスを論じるために参考となりそうな分野を思いつくままに挙げてみたいと思います。
まず、モノの流れというものは、同時に商品の流れという話を伴います。したがって、原材料の調達から、最終消費者までの財の流れの関係(垂直的な関係)についていえば、いわゆる「流通論」と呼ばれる分野がこれに該当すると思われます。ただし、流通を考えるという場合に、垂直的な取引関係をどのような見方で考えるか、ということについてはまたさまざまな見方があります。そこで、「流通論」だけではなく、経済学の中の「産業組織論」という分野ではこうした垂直的取引についての検討が行なわれています。私個人としてはもっと経済学的な話を入れたかったのですが、この中ではあまり触れていません。関心のある方は、「産業組織論」というタイトルのついた本をご覧ください。(ただし、注意すべきこととして、これらの本がロジスティクスや物流について触れているというわけではありません。)
一方で、「在庫管理」ですとか、「サプライチェーン・マネジメント」という話になってくると、「経営工学」の分野が大きく関係してきます。この連載の中で紹介した在庫管理のモデルよりも現状はもっと展開しています。また、「生産管理論」という分野にもつながりがあります。特に「経営工学」を勉強するには、きちんと「数学」を勉強する必要があると思います。もちろん他の分野でも数学的な考え方が重要であることは、いうまでもありません。
他にも、ロジスティクスという言葉、あるいは概念について、これまでどのように考えられてきたかという概念の変遷などを整理したものや、物流に関する具体的な諸手法などについては、これまでにご紹介したような本をお読みになると良いと思います。
マクロの物流に関していえば、道路や港湾などのインフラストラクチャーの整備・運営とモノの流れ、そして経済全体への影響などに関する分析や、物流産業を対象として分析を行うという方法もあります。物流産業に関しては、前述の「産業組織論」がこうした産業の分析をおこなうひとつの方法を与えてくれると思います。また、前者のインフラストラクチャーの整備に対する経済的な影響などの議論に関しては、「都市計画」などの分野や、他にも例えば、「交通経済学」と呼ばれる分野でも触れられています。
以上、思いつくまま、「こんな分野がありますよ」という感じで簡単な紹介をしました。ロジスティクスを論じるうえでの分析の方法論としては、実のところ、工学的なもの、マーケティング的なもの、あるいは経済学的なものなどさまざまなアプローチが混在している、という印象を私は持っています。
■ ロジスティクスを論じるために
さて、いま上で挙げたような研究分野の方法論からひとつ取り出したとしましょう。ロジスティクスを論じる場合、その道具を使って、現象に対して評価を与えることが求められる,といいました。このとき、観察の対象となる事例ですとかデータということが必要になってきます。つまり、道具をそろえたので材料を調達するようなイメージです。ロジスティクスを論じるということに関して、以前にも練習問題としていくつかの質問を設けました。こうした質問に答える形で話を進めても良いと思います。
ここで注意したいことは、繰り返しですが、何らかの評価を伴わない単なる事例や知識の紹介では、少なくとも分析としては(あるいは論じるという意味では)きわめて不十分であるということです。その一方で、単に分析の枠組みや仮説のようなものを提示して、それを裏付ける現象がなければ、応用をする上での説得力に欠けてしまいます。したがって、これら2つをバランスよく身につけることが、こうした現象を見るうえでは重要であると、私自身は考えます。その際、「何が問題となっているか」という問題を見つけることは、現象を観察する上で重要な項目のひとつです。
そして、上での方法論から提示される一連の論理と観察をして得られた現象との整合性をどのように持ってくるかということが、腕の見せどころです。その際、一見したところ直接的には関係しないように見えるかもしれませんが、数学のトレーニングが非常に役に立つと思います。(理由は,石井先生や安田先生の最終回のページで述べられています。必見です!)
さらに、より多くの情報などを手に入れるという意味で英語などの語学を身につけておくと良いですね。ものの見方の幅が広がると思います。もちろん、自分の考えを論文にまとめるということであれば、国語(文章力)も必要になってきます。こう考えると、なんだかやることが多いですね・・・・・・
■ むすびにかえて
以上のように、とりとめもない話をしてしまいましたが、研究をするという意味では、次のような段取りで進めると良いかと思います。
まず、このロジスティクスの連載をお読みになった方は、この一連の話の中のどのような点に関心を持ったかを考えてみてください。そして、研究のきっかけとして、これまでにご紹介した文献を読んでみるというのはひとつの手だと思います。その一方で、今回の最後にご紹介した分析の方法論、経営工学でもマーケティングでも経営学でも経済学でも結構ですので、ご自身の関心のある方法論を身につけてください。その後、事例などを調べて、ご自身の選択した方法論でその状態を評価してみてください。特に学生の皆さんは、本を読む時間が比較的確保しやすいと思います。ロジスティクスに限らず、いろいろな本を読んで、ご自身の引き出しを増やしておくといろいろと役に立つと思いますよ。
なんだか最後はロジスティクスというよりももっと広い話になってしまいましたね。
ここでの連載は、これで終わりです。ここまで読んでくださってありがとうございました。また機会があればお会いしましょう。
■ 参考文献
最後にいくつかの文献を紹介します。
本連載ではあまり触れなかった物流業の国際的な展開に関する分析については、以下の本をご紹介します。
宮下國生『日本物流業のグローバル競争』千倉書房
ロジスティクスを考える上で、次の本も参考になると思います。
苦瀬博仁『付加価値創造のロジスティクス』税務経理協会
また、マクロのとくに都市計画的な見地からロジスティクスを論じた本として次の本があります。
谷口栄一・根本敏則『シティロジスティクス』森北出版
また、ロジスティクスというわけではないのですが、経済学による産業分析の方法論として以下の本を紹介します。
植草益・井手秀樹・竹中康治・堀江明子・菅久修一『現代産業組織論』NTT出版
最後に、これもロジスティクスではないのですが、以下の本を紹介します。
山内弘隆・竹内健蔵『交通経済学』有斐閣アルマ
