数学の勉強からはじめよう!
第1回から第6回まで「ファイナンスの小部屋」を読んでいただいた方々には、ファイナンスの基礎が何であるのかをご理解いただけていると思います。
数学がファイナンスの基礎です。
したがって、まずは数学を勉強することから始めていただきたいのです。 「え~っ! (ToT)」という悲鳴(怒りも!!) が方々から聞こえてきそうです。 しかし、例えば、家やマンションなどを建築することを考えてみてください。 ちゃんとした立派な建物を建てようと思ったら、その基礎工事をきちんとすることが必要です。 他の例では、プロスポーツ選手たちの派手でカッコイイプレーの背後には基礎トレーニング(ランニングや筋力トレーニングなど) が不可欠です。 それらと同様に、ファイナンスを勉強するためには、その基礎である数学の勉強を必要とします。ただし、数学を勉強することに未だ消極的な人々もいるでしょう。そこで、
ファイナンスに限らず、数学の応用範囲の広さや有用性をその
人たちに知ってもらい、積極的に数学を勉強してもらう
という目的で、以下3 冊を紹介しておきます。
[1] 藤田岳彦(2000)、『これでなっとく金融数学の基礎知識』、講談
社。
[2] 芳沢光雄(2005)、『数学的思考法- 説明力を鍛えるヒント』、講
談社。
[3] 小島寛之(2005)、『使える! 確率的思考』、筑摩書房。
それから、就職を強く意識している(ように私には思えた) 学生さんからは、
数学を勉強することが就職に有利な資格につながるのか?
といった質問も受けました。 同じ疑問を持った読者の方々もいらっしゃるかもしれませんから、ここでは「その一例として、数学を勉強することはアクチュアリー(actuary) 資格取得につながる」とだけ述べておきます。 アクチュアリーについては、
[4] 黒田耕嗣(2004)、「アクチュアリー数学入門」、『数学セミナー』
(2004 年5月号)、日本評論社。
[5] 黒田耕嗣、「アクチュアリー入門」、『数学セミナー』(2006年4月
号より連載開始)、日本評論社。
を読むことをお薦めします。
ほとんどの大学において、1・2 生向けに「微分積分」と「線形代数」という講義たちが用意されていることでしょう。 高校生読者の方々が大学生になったら、是非それらの講義を履修していただきたいです。 そして、その後、「確率統計」や「確率論」という講義を履修していただきたいです。もちろん、そのためにも、
高校生のときから、数学を熱心に勉強しましょう。
大学生になり「微分積分」、「線形代数」、「確率統計」などの講義を履修すれば、それぞれの講義でテキストを指定されることでしょう。 ただし、「必修科目との関係で微分積分の講義を履修できない」や「社会人になってから自力で勉強したい」という方々がいらっしゃるかもしれません(注)。 それで、ここでは、「微分積分」、「線形代数」、「確率統計」の初学者向けテキストたちを推薦させていただきます。 その推薦基準は
自分が大学1年生に戻って、そこからreplayできるなら、最初は
こういったテキストたちを用いて勉強したいな。
です。 なお、お勧めテキストたちを全て書き出していったらあまりに長くなってしまうので、「微分積分」、「線形代数」、「確率統計」のそれぞれについて1冊のみ推薦することにします。
[6] 難波誠(1996)、『微分積分学』、裳華房。
[7] 岩永恭雄(2005)、『入門線型代数学』、日本評論社。
[8] 森真・藤田岳彦(1999)、『確率統計入門- 数理ファイナンスへ
の適用- 』、講談社。
それから、
[9] 河野敬雄(1999)、『確率概論』、京都大学学術出版会。
を勉強して、「確率とはなんだろうか?」を再考することも楽しいと私は思います。それから、連載第1回で「コインを投げたり、サイコロを投げたりする例だけを用いることにより、皆さんの興味を引きつけておくことが私にはできません。」と私は書きました。しかし、コイン投げを題材とした興味深い研究もあります。より正確には、コインを何回も投げつづけるという現象を表現するときに用いられるランダム・ウォークの性質に関する議論です。 これに関しては、
[10] 藤田岳彦、「ランダム・ウォーク」、『数学セミナー』
(2004 年4 月号~2005 年3 月号、2005 年7、8、9 月号)、
日本評論社。
をお薦めします。 [10]では、ランダム・ウォークの性質を説明するだけでなく、そのギャンブルへの応用やファイナンスへの応用についても丁寧に説明されています。 数学を熱心に勉強している高校生や大学生の皆さんならば、きっと興味を持って読めると思います。ついでに申し上げますと、少なくともここ数年間、『数学セミナー』4 月号では、大学新入生向けの特集が組まれています。大学1年生の方々、社会人でもう一度微分積分や線型代数を勉強しようという方々は是非その特集を読んでみてください。日本にあるほとんどの図書館では『数学セミナー』のバックナンバーを保管していると思います。
それでは、ファイナンスを勉強するための本たちを紹介していきます。
大学1・2年生のときに「微分積分」、「線形代数」、「確率統計」をしっかり勉強した、または、上記[6]、[7]、[8]の内容のほとんどを理解している方々で、ファイナンスの勉強をしたいというのであれば、
[11] 藤田岳彦(2002)、『ファイナンスの確率解析入門』、講談社サ
イエンティフィク。
[12] 藤田岳彦(2003)、『ファイナンスの最適化入門』、講談社サイ
エンティフィク。
をお薦めします。これら2冊を勉強すれば、デリバティブ価格評価とポートフォリオ選択問題をしっかり学ぶことが可能でしょう。「学生たちが数理モデルの意味と具体的な理解を得ること」を目的として[11]と[12]は書かれています。まじめに自分の手を動かして練習問題を解く学生ならば順次理解が進んでいくように、著者はこれらの本を構成されています。
私立大学社会科学系学部に所属する3・4年生で大学1・2年生のときには不幸にして全く数学の勉強をしてこなかったという方々、大学1・2年生のときに「微分積分」、「線形代数」、「確率統計」の各講義を一応履修したがしっかり勉強したというほどではない方々、そういえばしばらく数学の勉強をしていないなという社会人の方々、こういった方々がファイナンスを勉強したいという気持ちを持っているならば、
[13] 宮崎浩一(2004)、『証券分析への招待− 高校数学からのアプ
ローチ−』、サイエンティスト社。
をお奨めします。この本では、証券投資、デリバティブ価格評価、コーポレートファイナンスという広範な内容を学習できます。もちろん、これと同時に「微分積分」、「線形代数」、「確率統計」をしっかり勉強することを強くお奨めします。
もしかしたら、とても残念なことに高校3 年生のときから数学の勉強をしていない、しかし、なんらかの事情で「ポートフォリオ選択問題とデリバティブ価格評価の簡単なところだけでよいから学習しなくてはならない! 早くなんとかしてぇ~」という方々もいるかもしれません。そういう方々には、
[14] 藤田岳彦(2005)、『道具としての金融工学』、日本実業出版
社。
を紹介いたします。 ただし、この場合も、やはり[14] を勉強すると同時に、「微分積分」、「線形代数」、「確率統計」をしっかり勉強することをツヨク・つよく・強くお奨めします。
大学1・2 年生のときに「微分積分」、「線形代数」、「確率統計」をわりとしっかり勉強したなという気持ちの大学3・4 年生で、ファイナンスを本格的に勉強し始めることをまだ迷っているという方々に
[15] 三浦良造(2005)、『金融工学入門講話リスクとデリバティブの
統計入門』、日本評論社。
をご紹介しておきます。 分析に用いるモデルとそれに対応する現実のデータを用いながら、著者はファイナンスの魅力を紹介しています。
私はこの連載を「ファイナンスを勉強するということへの招待状」というつもりで書いてきました。 そして、ファイナンスを勉強してみようという気持ちになった方々に「何から手をつけるか」を示すことが出来ていれば、それはこの連載の成功の一つです。
ところで、この連載をどのような方々に読んでいただけているのか私には分かりません。 様々な方に読んでいただければ幸甚です。 それで、読者の方々を勝手に想定して、私からのメッセージを書かせていただきます。
高校生の方々へ、くり返しですが、とにかく数学を熱心に勉強し
ましょう。
大学生の方々へ、まず「微分積分」、「線形代数」、「確率統
計」などの科目を履修して、それらを熱心に勉強しましょう。
私が日ごろ接している大学生たちの間だけで見られる現象かもしれませんが、「何らかの役に立ちそうな成果を手軽に手に入れたい」という傾向が学生さんたちの間に見られます。いうならば、「努力無しで必殺技をマスターしたい。」という気持ちを多くの学生さんたちが持っているようです。
努力無しの必殺技など存在しません。時間はかかるかもし
れませんが、一歩ずつ数学の勉強をしていきましょう。
中高生のご父兄の方々、親戚・友人・知人の子供が中高生だと
いう方々へ、もし、ファイナンスに興味を持っていただけてファイ
ナンスを勉強することが彼らの将来に有用だと判断されたので
あれば、是非、まずは数学の勉強を彼らに薦めていただけな
いでしょうか。
数学を熱心に勉強する高校生を増加させることにこの連載が貢献できれば、やはりこの連載は成功ということになります。
数学それ自身の興味深さ・楽しさを中高生に伝えて、数学を熱
心に勉強する高校生を増加させよう
ということが数学をご専門とされる方々により行われています(注)。私は数学の専門家ではありません。数学を応用してファイナンスという現象を分析することが私の専門です。それで、この連載では、
数学を応用して現象分析することのおもしろさ、および、それと
企業経営とのつながりを高校生に伝えることにより、数学を
熱心に勉強する高校生を増加させよう
ということも私は意図していました。「数学を勉強する高校生たちが増加すればファイナンスを勉強する人たちが増加するのか?」と言われそうです。 これに対しては、
数学を熱心に勉強する高校生が増加すれば、その割合は小さ
いかもしれないがファイナンスを勉強する人たちも増加する
と私は思っています。例えば、数学を熱心に勉強する高校生たちの5%くらいの人たちにはファイナンスに興味を持ってもらえるとしましょう。 国立社会保障・人口問題研究所の人口統計資料集(2006年版) によれば、2006年において日本人の16、17、18 歳のどの年齢の人口も120 万人はいるようです。 そこで、もしその内の80%が数学を熱心に勉強するとするならば、単純計算で、今後3年間、ファイナンスに興味を持つ人たちが
1200000 × 0.8 × 0.05 = 48000(人)
ずつ毎年増加することになります。三井住友ファイナンシャルグループの平成18年3月期中間決算によると、その従業員数は約41500人だそうです。そうすると、人数だけに注目すると、ファイナンスを勉強した人たち48000人も集まれば、1つのファイナンシャルグループを経営できそうですね。
最後に、経済学はもちろんのこと、法律、経営学、マーケティング、ロジスティクス、会計を学ぼうとする学生さんたちにも数学を勉強することをお奨めします。 なぜならば、数学を勉強することが、論理的な思考だけでなく、状況を整理する能力や効率的な思考方法を身につけることにつながるはずだからです。
