石井 昌宏

  • Masahiro Ishii
    1969年10月24日、愛知県瀬戸市にて生まれる。 一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。現職は大東文化大学経営学部専任講師。 専門・専攻は、数理ファイナンス。

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数学の勉強からはじめよう!

 第1回から第6回まで「ファイナンスの小部屋」を読んでいただいた方々には、ファイナンスの基礎が何であるのかをご理解いただけていると思います。

   数学がファイナンスの基礎です。

 したがって、まずは数学を勉強することから始めていただきたいのです。 「え~っ! (ToT)」という悲鳴(怒りも!!) が方々から聞こえてきそうです。 しかし、例えば、家やマンションなどを建築することを考えてみてください。 ちゃんとした立派な建物を建てようと思ったら、その基礎工事をきちんとすることが必要です。 他の例では、プロスポーツ選手たちの派手でカッコイイプレーの背後には基礎トレーニング(ランニングや筋力トレーニングなど) が不可欠です。 それらと同様に、ファイナンスを勉強するためには、その基礎である数学の勉強を必要とします。ただし、数学を勉強することに未だ消極的な人々もいるでしょう。そこで、

   ファイナンスに限らず、数学の応用範囲の広さや有用性をその
   人たちに知ってもらい、積極的に数学を勉強してもらう

という目的で、以下3 冊を紹介しておきます。
 [1] 藤田岳彦(2000)、『これでなっとく金融数学の基礎知識』、講談
   社。
 [2] 芳沢光雄(2005)、『数学的思考法- 説明力を鍛えるヒント』、講
   談社。
 [3] 小島寛之(2005)、『使える! 確率的思考』、筑摩書房。
それから、就職を強く意識している(ように私には思えた) 学生さんからは、

   数学を勉強することが就職に有利な資格につながるのか?

といった質問も受けました。 同じ疑問を持った読者の方々もいらっしゃるかもしれませんから、ここでは「その一例として、数学を勉強することはアクチュアリー(actuary) 資格取得につながる」とだけ述べておきます。 アクチュアリーについては、
 [4] 黒田耕嗣(2004)、「アクチュアリー数学入門」、『数学セミナー』
   (2004 年5月号)、日本評論社。
 [5] 黒田耕嗣、「アクチュアリー入門」、『数学セミナー』(2006年4月
   号より連載開始)、日本評論社。
を読むことをお薦めします。
 ほとんどの大学において、1・2 生向けに「微分積分」と「線形代数」という講義たちが用意されていることでしょう。 高校生読者の方々が大学生になったら、是非それらの講義を履修していただきたいです。 そして、その後、「確率統計」や「確率論」という講義を履修していただきたいです。もちろん、そのためにも、

高校生のときから、数学を熱心に勉強しましょう。

 大学生になり「微分積分」、「線形代数」、「確率統計」などの講義を履修すれば、それぞれの講義でテキストを指定されることでしょう。 ただし、「必修科目との関係で微分積分の講義を履修できない」や「社会人になってから自力で勉強したい」という方々がいらっしゃるかもしれません(注)。 それで、ここでは、「微分積分」、「線形代数」、「確率統計」の初学者向けテキストたちを推薦させていただきます。 その推薦基準は

   自分が大学1年生に戻って、そこからreplayできるなら、最初は
   こういったテキストたちを用いて勉強したいな。

です。 なお、お勧めテキストたちを全て書き出していったらあまりに長くなってしまうので、「微分積分」、「線形代数」、「確率統計」のそれぞれについて1冊のみ推薦することにします。
 [6] 難波誠(1996)、『微分積分学』、裳華房。
 [7] 岩永恭雄(2005)、『入門線型代数学』、日本評論社。
 [8] 森真・藤田岳彦(1999)、『確率統計入門- 数理ファイナンスへ
   の適用- 』、講談社。
それから、
 [9] 河野敬雄(1999)、『確率概論』、京都大学学術出版会。
を勉強して、「確率とはなんだろうか?」を再考することも楽しいと私は思います。それから、連載第1回で「コインを投げたり、サイコロを投げたりする例だけを用いることにより、皆さんの興味を引きつけておくことが私にはできません。」と私は書きました。しかし、コイン投げを題材とした興味深い研究もあります。より正確には、コインを何回も投げつづけるという現象を表現するときに用いられるランダム・ウォークの性質に関する議論です。 これに関しては、
 [10] 藤田岳彦、「ランダム・ウォーク」、『数学セミナー』
   (2004 年4 月号~2005 年3 月号、2005 年7、8、9 月号)、
   日本評論社。
をお薦めします。 [10]では、ランダム・ウォークの性質を説明するだけでなく、そのギャンブルへの応用やファイナンスへの応用についても丁寧に説明されています。 数学を熱心に勉強している高校生や大学生の皆さんならば、きっと興味を持って読めると思います。ついでに申し上げますと、少なくともここ数年間、『数学セミナー』4 月号では、大学新入生向けの特集が組まれています。大学1年生の方々、社会人でもう一度微分積分や線型代数を勉強しようという方々は是非その特集を読んでみてください。日本にあるほとんどの図書館では『数学セミナー』のバックナンバーを保管していると思います。
 それでは、ファイナンスを勉強するための本たちを紹介していきます。
 大学1・2年生のときに「微分積分」、「線形代数」、「確率統計」をしっかり勉強した、または、上記[6]、[7]、[8]の内容のほとんどを理解している方々で、ファイナンスの勉強をしたいというのであれば、
 [11] 藤田岳彦(2002)、『ファイナンスの確率解析入門』、講談社サ
   イエンティフィク。
 [12] 藤田岳彦(2003)、『ファイナンスの最適化入門』、講談社サイ
   エンティフィク。
をお薦めします。これら2冊を勉強すれば、デリバティブ価格評価とポートフォリオ選択問題をしっかり学ぶことが可能でしょう。「学生たちが数理モデルの意味と具体的な理解を得ること」を目的として[11]と[12]は書かれています。まじめに自分の手を動かして練習問題を解く学生ならば順次理解が進んでいくように、著者はこれらの本を構成されています。
 私立大学社会科学系学部に所属する3・4年生で大学1・2年生のときには不幸にして全く数学の勉強をしてこなかったという方々、大学1・2年生のときに「微分積分」、「線形代数」、「確率統計」の各講義を一応履修したがしっかり勉強したというほどではない方々、そういえばしばらく数学の勉強をしていないなという社会人の方々、こういった方々がファイナンスを勉強したいという気持ちを持っているならば、
 [13] 宮崎浩一(2004)、『証券分析への招待− 高校数学からのアプ
   ローチ−』、サイエンティスト社。
をお奨めします。この本では、証券投資、デリバティブ価格評価、コーポレートファイナンスという広範な内容を学習できます。もちろん、これと同時に「微分積分」、「線形代数」、「確率統計」をしっかり勉強することを強くお奨めします。
 もしかしたら、とても残念なことに高校3 年生のときから数学の勉強をしていない、しかし、なんらかの事情で「ポートフォリオ選択問題とデリバティブ価格評価の簡単なところだけでよいから学習しなくてはならない! 早くなんとかしてぇ~」という方々もいるかもしれません。そういう方々には、
 [14] 藤田岳彦(2005)、『道具としての金融工学』、日本実業出版
   社。
を紹介いたします。 ただし、この場合も、やはり[14] を勉強すると同時に、「微分積分」、「線形代数」、「確率統計」をしっかり勉強することをツヨク・つよく・強くお奨めします。
 大学1・2 年生のときに「微分積分」、「線形代数」、「確率統計」をわりとしっかり勉強したなという気持ちの大学3・4 年生で、ファイナンスを本格的に勉強し始めることをまだ迷っているという方々に
 [15] 三浦良造(2005)、『金融工学入門講話リスクとデリバティブの
   統計入門』、日本評論社。
をご紹介しておきます。 分析に用いるモデルとそれに対応する現実のデータを用いながら、著者はファイナンスの魅力を紹介しています。

 私はこの連載を「ファイナンスを勉強するということへの招待状」というつもりで書いてきました。 そして、ファイナンスを勉強してみようという気持ちになった方々に「何から手をつけるか」を示すことが出来ていれば、それはこの連載の成功の一つです。
 ところで、この連載をどのような方々に読んでいただけているのか私には分かりません。 様々な方に読んでいただければ幸甚です。 それで、読者の方々を勝手に想定して、私からのメッセージを書かせていただきます。

   高校生の方々へ、くり返しですが、とにかく数学を熱心に勉強し
   ましょう。

   大学生の方々へ、まず「微分積分」、「線形代数」、「確率統
   計
」などの科目を履修して、それらを熱心に勉強しましょう。

私が日ごろ接している大学生たちの間だけで見られる現象かもしれませんが、「何らかの役に立ちそうな成果を手軽に手に入れたい」という傾向が学生さんたちの間に見られます。いうならば、「努力無しで必殺技をマスターしたい。」という気持ちを多くの学生さんたちが持っているようです。

   努力無しの必殺技など存在しません。時間はかかるかもし
   れませんが、一歩ずつ数学の勉強をしていきましょう。

   中高生のご父兄の方々、親戚・友人・知人の子供が中高生だと
   いう方々へ、もし、ファイナンスに興味を持っていただけてファイ
   ナンスを勉強することが彼らの将来に有用だと判断されたので
   あれば、是非、まずは数学の勉強を彼らに薦めていただけな
   いでしょうか。

数学を熱心に勉強する高校生を増加させることにこの連載が貢献できれば、やはりこの連載は成功ということになります。

   数学それ自身の興味深さ・楽しさを中高生に伝えて、数学を熱
   心に勉強する高校生を増加させよう

ということが数学をご専門とされる方々により行われています(注)。私は数学の専門家ではありません。数学を応用してファイナンスという現象を分析することが私の専門です。それで、この連載では、

   数学を応用して現象分析することのおもしろさ、および、それと
   企業経営とのつながりを高校生に伝えることにより、数学を
   熱心に勉強する高校生を増加させよう

ということも私は意図していました。「数学を勉強する高校生たちが増加すればファイナンスを勉強する人たちが増加するのか?」と言われそうです。 これに対しては、

   数学を熱心に勉強する高校生が増加すれば、その割合は小さ
   いかもしれないがファイナンスを勉強する人たちも増加する

私は思っています。例えば、数学を熱心に勉強する高校生たちの5%くらいの人たちにはファイナンスに興味を持ってもらえるとしましょう。 国立社会保障・人口問題研究所の人口統計資料集(2006年版) によれば、2006年において日本人の16、17、18 歳のどの年齢の人口も120 万人はいるようです。 そこで、もしその内の80%が数学を熱心に勉強するとするならば、単純計算で、今後3年間、ファイナンスに興味を持つ人たちが

   1200000 × 0.8 × 0.05 = 48000(人)

ずつ毎年増加することになります。三井住友ファイナンシャルグループの平成18年3月期中間決算によると、その従業員数は約41500人だそうです。そうすると、人数だけに注目すると、ファイナンスを勉強した人たち48000人も集まれば、1つのファイナンシャルグループを経営できそうですね。
 最後に、経済学はもちろんのこと、法律、経営学、マーケティング、ロジスティクス、会計を学ぼうとする学生さんたちにも数学を勉強することをお奨めします。 なぜならば、数学を勉強することが、論理的な思考だけでなく、状況を整理する能力や効率的な思考方法を身につけることにつながるはずだからです。

不確実性をデザインするための道具

この連載の第1回でお話したように、お金を増やすためには、

   お金(x円) →物たち→お金(y円)

という交換が必要です。もちろん「この交換を行うといつでもx ≤ y(お金が増える)」とは限りません。「x > y(お金が減る)」という場合もあるでしょう。最初の交換「お金(x 円)→物たち」を行なうときには、2回目の交換「物たち→お金(y円)」により得られるy円がいくらであるのかを予知できません。そこで、最初の交換「お金(x円)→物たち」において、

   x 円をどんな物たちと交換するのか?

ということが重要になります。それで、最初の交換「お金(x円)→物たち」において、

   (1) 次の交換「物たち→お金(y円)」により起こりうるすべての
    結果たち

   (2) 各結果が発生する確率

が重要な情報であることを説明しました。さらに、「より多くのy円を手に入れたい」などは単なる気持ちでしかなく、

   各結果が発生する確率を基礎として、x円と交換する物たちを
   選択する基準が作られている、

ということをお話しました。第3回では、 チョ~・ちょ~・超シンプルな例を用いて、「起こりうるすべての結果たち」と「各結果が発生する確率」という情報を基に、 各ポートフォリオについて「その6ヶ月後の価格としてとり得る値たち全て(起こりうるすべての結果たち) とその値が発生する確率(各結果が発生する確率)」を計算しました。そして、各結果が発生する確率を基礎として作られたある基準に従って、ある1つのポートフォリオを選択(不確実性をデザイン) しました。第5回では、

   現実社会における不確実性のデザインの重要性

をいくつかの例を用いてお伝えしたつもりです。そこで、

   不確実性をデザインする

より具体的には、

   ポートフォリオをデザインする、事業領域をデザインする、

などということに興味を持った人たちが読者の皆さんたちの中にいる(10 人くらいはいる!?) と信じて、今回は、

   不確実性のデザインに用いる道具たち(不確実性をデザイ
   ンするための基礎)
が何であるか

をお話していきます。例えば、インテリア、家具、建物、服飾、車等をデザインすることを思い浮かべてください。これらの中から1つを選び、

   ○○をデザインするための道具たちは何ですか?

と聞かれたら、きっと、皆さんは何かしら答えるでしょう。それに、○○をデザインする能力を身につけるためには、

   ○○をデザインするときに用いる道具たちが何であるかを
   認識すること

および、その認識に基づいて

   ○○のデザインに用いる道具たちの使い方をマスターする
   こと

が必要であることも皆さんは知っているでしょう。例えば、インテリアデザインを取り上げてみます。インテリアをデザインするための主要な道具たちといったら、

   (a) 自分が描いたイメージを顧客たち等に伝える道具。
    (現代的には、イラストレーターやフォトショップ。)
   (b) 詳細な寸法を考えながら、自分が描いたイメージを現実に
   機能させる設計道具。
    (現代的にはCAD。)

だそうです。もし「インテリアデザインの道具は野球のバットであり、インテリアデザイナーになるために毎日素振り1000回している」などという人がいたら皆さんはどのように思いますか?

   その人はインテリアデザインの能力を身につけるというgoal に
   は向かっていない、的外れな努力をしている。そもそも、そん
   な人はインテリアデザインをするための道具たちがなんで
   あるのかすら分かっていない。

と皆さんは思うのではないでしょうかね。
 そこで、「不確実性のデザイン」に興味を持った人たちが的外れな努力をしないためにも、「不確実性のデザインに用いる道具たちが何であるか」について説明します。
 第2回の内容を思い出してください。徳本さんのセールストークは

   当社(徳本さんが経営する企業) の株式をご購入ください。現
   在、当社の株式は1単位あたり100円で株式市場で売買され
   ています。当社の今後6ヶ月間の業績が良ければ、6ヶ月後
   には株式T の価格はぐっと上がりますよ。ただ、その間の当
   社の業績が悪ければ、6ヶ月後の株式Tの価格はほんのす
   こしだけ下がります。

でした。そして、最初の交換「お金(x円) →物たち」において、すなわち、 株式T を購入するかしないかを決定する上で、彼が言うところの「株式T の価格はぐっと上がる」や「株式T の価格はほんのすこしだけ下がる」などという言葉は全く役に立ちませんでした。
 次に、第4回を思い出してください。株式I を5単位(500円分) と株式Mを5単位(500円分) というポートフォリオ営業マンがいるとします。そして、 彼が

   ポートフォリオ(5, 5) を購入すれば、株式Iと株式Mがお互いの
   損失をカバーしあい、大きな損をすることがあまり起こらない。

というセールストークをしたとしましょう。しかし、6ヶ月後の株式Iの価格と6ヶ月後の株式Mの価格の同時分布が

表1
2_edited
であったとします。そうすると、第4回で見たように、ポートフォリオ
(5, 5) を購入する場合の6ヶ月後の受取額は

図1
_edited
となります。そうすると、図1で示された「ポートフォリオ(5, 5) を購入する場合の6ヶ月後の受取額」と「セールストーク“株式Iと株式M がお互いの損失をカバーしあい、大きな損をすることがあまり起こらない”から皆さんが想像した様子」とは一致しているのでしょうか? 先のセールストークには、これから投資をしようとする人の意思決定において役に立つ情報は全く含まれていないのではないでしょうかね。くり返しではありますが、

   これから不確実性をデザインしようという人たちに対して、 起こ
   りうるすべての結果たち
各結果が発生する確率その背
   後に持たない言葉たちは全くもって役に立ちません

を強調しておきます。
 それでは、第3回のことを思い出してください。ポートフォリオ(x, y) に対して、「6ヶ月後の自分の所持金額としてとり得る全ての値たち(起こりうるすべての結果たち)」と「それぞれの値が発生する確率(各結果が発生する確率)」を計算しました。そのためには何が必要だったのでしょうか? そうです、

   同時分布

です。具体的には、第3回において、

表2
2_edited1
を「6ヶ月後の株式Iの価格と6ヶ月後の株式Mの価格の同時分布」として用いていました。このとき、

   どちらの株式にしても、「6ヶ月後にとり得る価格が2つだけ」とい
   う設定はあまりに現実から離れているのではないか?

という気持ちになった人たちがいるかもしれません。それでは、6ヶ月後にとり得る株式Iの価格(たち) の全体と6ヶ月後にとり得る株式Mの価格(たち) の全体のいずれも{2, 4, 6, . . . , 198, 200}だとしましょう(注)。これまでの例から容易に分かると思いますが、 その同時分布をこれまでのような表で表現するならば100×100=10000個のマス(たち) を持つ表

表3
2_edited2
※黄色部分が「6ヶ月後の株式Iの価格と6ヶ月後の株式Mの価格の同時分布」を表わす100×100=10000個のマス(たち)です。

になります。こんな表は大きすぎませんか? しかも、皆さんたちの中には、

   たった2銘柄だけではなく、もっと多くの銘柄の株式(たち) を
   対象にしてポートフォリオ選択を行ってみたい!

と思っている人たちがいるでしょう。それでは、1 銘柄増やして3銘柄の株式(たち) をその対象にしてみますか。その株式が6ヶ月後にとり得る価格(たち) も先ほどと同じとしましょう。そうすると、これら3銘柄について6ヶ月後にとり得る価格の同時分布をこれまでのような表で表現するならば100×100×100=1000000個のマス(たち)を持つ表になります。この表を作るだけで1週間はかかりそうですね。その表をA4の用紙に書くとしたら、何枚必要になるでしょうかね。
 さらに、「各マスに記録する値をいくつにするのか?」という問題もあります。「各マスに記録する値ゎぁ、てきとぉ~」なんてことはありませんよね。「お金(x 円) →物たち→お金(y 円)」という交換によりお金を増やすことを希望しているという立場では、真剣なのですから。それでは、どのようにして各マスに記録する値を決定しますか? 説明文を短くする目的で2銘柄で考えていきます。過去1年分の株価データを用いて同時分布を作成してみます。単純には次のような作成方法を思いつくのではないでしょうか。各m, n = 2, 4, 6, . . . , 198, 200について、

  株式Iの価格がm円でありかつ株式Mの価格がn円であった日数

をカウントし、

株式Iの価格がm円でありかつ株式Mの価格がn円であった日数
250

   「株式Iの価格がm円となりかつ株式Mの価格がn円となる確
   率」を表すマス

へ記入しますか? これも確かに1つの方法でしょう。しかし、10000個のマス(たち) を持つ表ですから、それらの大半のマス(たち) には0を記録することになりますね。このようにして同時分布を作ったとします。そして、その一部において、

20060303_edited

という状態だったとします。つまり、(株式Iの価格, 株式Mの価格) = (108 円, 108円) の周りの値をとる確率は正であるにもかかわらず、

   「株式Iの価格が108円となりかつ株式Mの価格が108円となる
   確率」は0

とそこだけポッカリ穴が開いたようになっています。少し不自然な感じがしませんかね。もちろん、同時分布を作成するために、過去2年分のデータを使用する、過去3年分のデータを使用するなどしてデータの個数を増やしていけば、このようにポッカリ穴が開いたような場所は徐々に減っていくかもしれませんね。しかし、この場合には、例えば10年前などのあまりにも過去にさかのぼったデータを使用することにも不自然さを感じませんか? というのも、分析の対象(株式の価格) が経済や社会状態と深く関わっていて、現在の株価を生成する「現在の経済・社会状態」と10年前の株価を生成した「10年前の経済・社会状態」では異なる様相を呈している、もっと大胆に表現するならば、システムが異なると思えるからです。
 それに、思い出してください。目的は同時分布を作ることではありません。その同時分布を基にして

   「6ヶ月後のポートフォリオ価値としてとり得る全ての値たち
   (起こりうるすべての結果たち)」と「それぞれの値が発生
   する確率(各結果が発生する確率)」

を算出し、さらにそこから

   何らかの規準に従ってあるポートフォリオを選ぶこと

です。こう考えてくると、皆さんたちの中には

   ・もっと簡潔に同時分布を表現する方法は無いのか?
   ・データを効率的に利用して奇妙な穴が無い同時分布を作
    成する方法は無いのか?

   ・何らかの基準において最適なポートフォリオを効率的に見
    つける方法は無いのか?

という疑問を持った人たちもいるでしょう。これらの質問に対する答は、

   少なくとも1つある。それは数学の力を借りる
   こと!

です。これを言い換えれば、

   不確実性のデザインに用いる道具たちは数学で
   ある!

です。ここで注意をしておきます。「不確実性のデザインに用いる道具たちは数学である!」を言い換えれば、

   不確実性のデザインの基礎は数学である!

です。「道具」というと何か軽いもののように受け止める人たちもいるようです。しかし、ここでいう「道具」は「基礎」を意味しています。つまり、 「道具」という言葉に「不確実性をデザインするために数学は絶対に欠くことのできない根元を形成するもの」という気持ちを私は込めています。
 「不確実性のデザインの基礎は数学である」にもう少しだけ説明を加えます。これは、

   分析の対象とする現象を数学的概念たちを用いて表現し、その
   現象を分析する

ということです。これは

   ある現象をモデルで表現し、そのモデルの上でその現象を考察
   する

と言われることもあります。また、「モデルというメガネをかけて現象を見る」とも言えます。私がこれまで見てきた範囲内では、ファイナンスや経済学において、現実の全て(real system) を漏れなく記述するモデルはありません。モデルはその分析対象に焦点を当てて、ある程度シンプルになっています(modeled system)。現象をシンプルにしたモデルを用いることにより、ある程度容易に分析・考察できます。「モデルを用いて現象を分析する」をたとえて言うならば

   表面に多くの凸凹があるいびつな形の物体(real system) では
   なく、ある程度なめらかな形の物体(modeled system) を転が
   して、それがどのように転がるのかを観察する。

です。real system と異なりmodeled system には異なる様々な値たちを入力可能です。そして、その結果たちを分析し意思決定に利用することもあります。このイメージは

   転がし方を変えながら何度もmodeled system を転がし、その
   軌跡たちを観察し、そこからreal system の転がり方の特徴を
   推測したり、real system の転がし方を決める

です。
 もちろん、そのmodeled system が簡単すぎるという指摘がされることもあります。そのようなとき、私は、 Polya’s fundamental question of problem solving:

   What is the simplest question you can not solve?

を自分への言い訳として、少しずつ研究を進めています。
(最終回は5月7日更新予定)

現実社会におけるポートフォリオ選択の重要性

 この連載の第3 回では「不確実性のデザイン」の例としてポートフォリオ選択のお話をしました。皆さんの中には、

   現実社会のどんな場面(たち)で、 ポートフォリオ選択が
   重要な問題になるのだろうか?

と疑問を持った人たちもいるようですね。そこで、 今回はその疑問にお答えしていきます。そして、前回に引き続き多少の誤解を恐れず大胆になってお話ししていきます。

 さて、 みなさん、 お年玉をたくさんもらいましたか? 例年、 私の姉の娘は、 一族郎党からお年玉たちをちょこちょこもらいまくって、 その合計額は10 万円近くだそうです。うらやましいです。それにしても、 みなさんはお年玉としてもらったお金全額で何かを購入しますか? それとも、 その半分くらいの金額で何かを購入して残りを貯金しますか? もしかしたら、 もらったお年玉全額を貯金しているかもしれませんね。
 あっ、 ユカさんはお年玉合計額が10 万円でしたか。そうですか。それで、 その全額を貯金することを考えているのですね。現在 、 都銀のスーパー定期預金(1 年) の預金金利は0.030%らしいです。ということは、 明日から1 年間このスーパー定期預金へ10 万円を預けたとしても、 1 年後の受取額(税引き前) は

   100000 × 1.00030 = 100030 (円)

です。この1 年後の受取額を見て、ユカさんはどう思いますか?(注)

   他にもっとぉ金が増える方法とかなぃのぉ? 1年間だけ、 どこか
   の企業の株式を購入してみよぅか(株式投資をしてみようか)?!
   でも、 1 年後にお金が増えてくれるのはぅれしぃケドぉ、
   減らしたくなぃ。だからぁ、 株式たちを購入するとしてもぉ、
   ほどほどにお金が増えてくれる確率が高くて、 損する確率
   がちょ~低いようにしたい!

それでは、 ユカさん、 株式を購入するとしたらどの企業の株式を購入しますか?

   TOKYO Disney RESORTには多くの人たちが遊びに行っている
   ぢゃナイですカァ、そうするとぉ、 その売り上げも安定しています
   ヨネ。それぢゃ、 TDR を経営してぃるオリエンタルランドの株式
   を購入しょぅカナ。

ユカさん、 オリエンタルランドの株式を10 万円分購入しますか?

   デモ、 待って。このまぇ、「Tokyo Disneylandはちょ~込んでる
   ケドぉ、 TOKYO Disney SEAはぁりぇなぃくらぃ空ぃてるよ。」
   って友達が言ってたんですョォ。そうするとぉ~、TDL の
   売り上げが大きくてもTDS の売り上げがヤバイとぉ、オリエンタ
   ルランドの株価がぁんまり上がらなくなぃ。ぢゃ、オリエンタル
   ランドの株式を10 万円分買うのはやめま~す。

ユカさん、 それではどうしますか?

   そうだ、 人が集まる所といえば、 丸ビルじゃね! それに丸の内
   再開発も進んで、 あのあたり全体がキレイになって、 平日だけ
   ぢゃなくて休日にも丸の内にたくさん人が来るってニュースで言
   ってたヨネ! だとするとぉ、 丸の内にたくさんビルを保有している
   三菱地所には高額な家賃収入が安定的にぁるんのかな。
   よしっ、ぢゃぁ、 オリエンタルランドの株式を5 万円分と三菱地
   所の株式を5 万円分買いま~す。

そうですか。ユカさんのポートフォリオが決まったようですね。ここで、

   (a) ユカさんがこのポートフォリオを保有する前によく再考
     して欲しいこと

   (b) ユカさんがこのポートフォリオを保有する上での障害

がそれぞれ1点ずつあります。これらを説明していきます、 まず、 (a) についてです。ユカさんは

   オリエンタルランドの株式5 万円分と三菱地所の株式5 万円分
   というポートフォリオ

を選択しました。しかし、

   そのポートフォリオには「ほどほどにお金が増えてくれる確率
   が高くて、 損する確率がちょ~低いようにしたい!
」というユ
   カさんの気持ちが(何らかの意味で) 反映されているのでしょ
   うか?

次に(b) についてです。現在のオリエンタルランドの株価は6410 円、 三菱地所の株価は2005 円です。そこで、 オリエンタルランド株式8 株と三菱地所株式24 株を購入することにしましょうかね。そうすると、

   オリエンタルランド株式購入額 6410 × 8 = 51280、
   三菱地所株式購入額       2005 × 24 = 48120、
   合計金額              51280 + 48120 = 99400

ですから、 おおよそユカさんが希望するポートフォリオに近いという気持ちになれませんかね。しかし、 このポートフォリオを作成するにあたり一つの障害があります。それは株式の売買単位です。東京証券取引所で「オリエンタルランド株式8 株と三菱地所株式24 株」をユカさんが購入しようとしてもそれはできないのです。証券取引所では、 各株式銘柄ごとに「売買単位」が定められています。そして、 その売買単位の整数倍でのみ取引可能です。例えば、 オリエンタルランド株式の売買単位は100 株で、 三菱地所株式の売買単位は1000 株です。なので、 オリエンタルランド株式を購入する場合には少なくとも100 株を購入せねばならず、 現時点では、

   6410 × 100 = 641000(円)

を必要としますし、 三菱地所株式の購入であれば、 少なくとも

   2005 × 1000 = 2005000(円)

を要します。この計算から分かるように、 証券取引所のルールでは、 ユカさんのお年玉10 万円ではどちらの株式も購入できません。そうすると、 「ほどほどにお金が増えてくれる確率が高くて、損する確率がちょ~低いようにしたい!」という気持ちを託したポートフォリオをユカさんは保有できないのでしょうか? そんなことはありません。まだ、 投資信託があります。大雑把に言うと、投資信託とは、

   投資家たちから集めた資金(たち) をひとつにまとめ、 その資金
   の投資管理をその専門家たちに任せ、 その運用成果(マイナ
   スのこともあります) を各投資家の投資額に応じて分配する、

という金融サービスです。もちろん、 世の中の人々の気持ちはさまざまです。そこで、

   投資信託運用会社(運用を専門とする会社) が、 複数の運用方
   針たちを設定し、 それぞれの運用方針ごとに人々や企業たち
   から資金を集めてくること

がよくみられるようです。各運用方針に基づく契約、 その契約の下に集めた資金、 またはその運用方針に基づいて決定されたポートフォリオのことをファンドと呼んでいるようです。だから、

   さまざまなニーズに応えるために1 つの投資信託運用会社が
   複数のポートフォリオたちをデザイン・運用していること

が多いようです。もちろん、 それらのファンドたちの中に、 みなさんが「これだっ!」と思えるようなファンドがあるかもしれませんし、 そういったファンドは無いかもしれません。みなさんの気持ちを少しは反映しているファンドはあるかもしれません。そうすると、 「どの投資信託運用会社が提供しているファンドたちも帯に短し襷に長しダナっ!」と思った人たちが各自の気持ちにピタッと一致するようなポートフォリオを持とうとするならば、 各自でポートフォリオをデザインすることになるのでしょう。ただし、 上述の例からも想像がつくように、 各自でポートフォリオをデザインしそのポートフォリオで運用するためには多額の資金を要する場合も多々あります。
 ファンドへの投資を服の購入にたとえてみます。皆さんの中には、 4 月に入学する大学がもう既に決まっている人たちもいるかもしれませんね。その人たちが入学式のためのスーツを購入するために洋服屋へ行ったとしましょう。そこには、 素材・色・形などが異なるスーツたちがたくさん並べてあるでしょう。それらの中に自分が気に入ったスーツがあるかもしれません。「このスーツの形は気に入ったが、 色がちょっと...」とか、 「スーツの色と形はOK だけど、 スーツの布地が...」などとなんらかの不満を持つスーツたちばかりかもしれません。後者の場合、 他の店に行って自分の気に入るスーツを探しますか? それとも、 いっそのこと「布地を自分で選び、 スーツの形も自分でデザインする」カスタムメイドでスーツを作りますか? つまり、 この話において、

   ・スーツは「自分の資金を投じる対象」、
   ・お店においてあるスーツたちは「投資信託会社たちが提供して
    いるファンドたち」、
   ・カスタムメイドのスーツは「自分でポートフォリオをデザインする
    こと」、

をそれぞれたとえています。投資信託のイメージを形成していただけたでしょうか? そして、より多くの消費者たちに購入してもらえることを意識して、ファッションデザイナーたちが服・靴・バッグたちをデザインするように、

   より多くの人々や企業たちに投資してもらうことを目的として、
   投資信託会社たちやそこで働くファンドマネージャーたち
   はファンドたち、 すなわち、 ポートフォリオたちをデザイン

   しています。

 それでは、 日本の投資信託の現状をチラ見しておきましょう。ファンド(ポートフォリオ) に株式を組み入れることができるかそうでないかにより、 ファンドたちを大きく2 つに分類できます。その1 つは株式組み入れ可能な株式投信、 もう1 つは株式組み入れ不可の公社債投信です。2004 年末における投資信託の純資産総額は約41 兆円で、 その内訳は次の表1 です。

表1
                      (単位:億円)

タイプ 純資産総額
 株式投信      274,353
 公社債投信      135,615
合計      409,968

そして、 2004 年末における総ファンド数は2552 本で、 株式投信が2308 本、 公社債投信が244 本です。
 ここで、 2005 年3 月末におけるNTT DoCoMo の総資産額が約6 兆円です。そうすると、 2004 年末における投資信託純資産総額41 兆円という金額はおおよそNTT DoCoMo を6.8 社つくれるくらいの金額というイメージです。また、

   410000(億) ÷ 2552 = 160.65 ... (億)

ですから、 大雑把には、 1 ファンドの純資産額の平均は160 億円です。皆さん、 自分はある投資信託会社で働くファンドマネージャーで

   160億円を1年間運用することが自分に任されている

と想像してください。そして、 その運用方針は

   株式市場の変動の影響をなるべく排除し、 1 年後までに獲得
   できる収益が安定することをめざす

としましょう。皆さんはこの160 億円でどのようなポートフォリオをデザインしますか? 具体的には、

   (A) どの証券たちを購入するか?
   (B) 購入対象の証券たちに対して、 それぞれをいくらずつ購入
     するか?
   (C) もし、この1 年間の途中で証券たちの売買を行うならば、
     それをどのようなタイミングで実行するのか?

などを決定するということです。そして、 ユカさんから、

   私がこのファンドに10 万円を投資した場合に、 1 年後の自分の
   所持金額としてとり得る全ての値たち(起こり得る全ての結果
   たち) とそれぞれの値が発生する確率(各結果が発生する確率)
   を教ぇて!

と聞かれたら、 皆さんはどのように答えますか? この質問はあたりまえの質問ですよ。なにしろ、大事な大事な自分の財産の一部の投資管理を他人に任せるのですから。先ほどのたとえ話で言うと、皆さんは服を購入する前にその服の素材・色・形・サイズなどをチェックしますよね。投資においては、

   その投資期間の終わりに自分の所持金額としてとり得る全ての
   値たち(起こり得る全ての結果たち) とそれぞれの値が発生する
   確率(各結果が発生する確率) を確認すること

がそれに対応しています。現実の社会において、

   ポートフォリオ選択、 不確実性のデザイン、 ポートフォリオ
   のデザイン

が重要な問題となる一例はみなさんに伝わったでしょうかね。
 それでは今回のお話の最後に、 他の例たちをチラッと紹介しておきます。「みなさん自身がそれぞれを詳細に調べて考えること」をお薦めします。
(1) 生命保険会社
 生命保険会社はみなさんから保険料を集めます。そして、「みなさんのイザというとき」にはそのイザの程度に応じて保険金を払ってくれるはずです。みなさんから保険料を集めてから「みなさんのイザというとき」まで、 生命保険会社がそのお金を大事に大事に自社の金庫にしまっておくかというと、 そうではありません。その間、 保険料として集めたお金を何らかの運用をしています。ここでも、ポートフォリオ選択が重要な問題です。「みなさんのイザというとき」には、 生命保険会社はきっちり保険金を支払わなければなりませんから。

(2) 銀行
 みなさんから預かったお金を銀行はどこかの企業たちへ貸し出します。これを非常に単純な目で眺めると、

   (みなさんへ支払う利息額) < (企業たちから受け取る利息額)

ならば、その差額が銀行の利益になります。ただし、銀行からお金を借りた企業たちが元本と利息をきっちり返済してくれない場合には銀行には大きな損失が発生する場合もあるでしょう。したがって、銀行にとって、

   (A) どの企業たちへ資金を貸出すか?
   (B) 貸出し対象の各企業に対して、 それぞれいくら貸出しをす
     るか?
   (C) 貸出し先の企業がどのような状態になったら貸出しを中止
     してその貸していた資金を回収するか?

などというポートフォリオ選択は重要になるでしょう。

(3) プロダクトポートフォリオまたは事業領域
 マーケティングの小部屋「第1 回:ライバル製品に勝つには何をするべきだろう?」にあったプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントや、 経営の小部屋「第2回:ドメイン− 自社の事業は何か?−」で出てきた事業領域を思い出してください。そこでは、

   (A) 自社の事業領域をどの事業たちから構成するか?
   (B) 事業領域の各事業に対して、 企業が保有している資源
     (人材、物、 資金など) をそれぞれどれくらいずつ配分
     するか?
   (C) どういうタイミングで追加投資や事業からの撤退を行うか?

などというポートフォリオ選択が重要な問題ですよね。もちろん、 その目的は、

   将来(例えば、 1 年後とか5 年後) の企業収益は不確実性を伴
   う。それで、 その不確実性をデザインする、

です。

 この連載の第3 回のお話はこういった現実的問題たちをチョ~・ちょ~・超シンプルにして考えていたのです。
(次回は3月7日更新予定)

たすけ合う株式たち

 これまでにファイナンスの小部屋として私が書いたお話に対して、学生さんたち等にその感想を聞いたところ、

   • ファイナンスゎ長くて読めなぃ。
   • まじぃ量が多ぃんですけどぉ。
   • ファイナンス、 やけに長くねぇ。

などという感想を多くいただきました。 それで、 今回からは連載1 回分の量を減らします(減らせるように努力します)。 もちろん、 分量を減らすという目的のために

   (a) 1 つ1 つの事柄についての説明を少なくする。
   (b) 各回でお話しする内容を減らす。

のどちらかを実行することになります。 ここで、 この連載タイトル(目的) が「高校生から読める大学の授業」ですから、 (a) ではなく(b) を実行することにします。 さっそくですが、 今回は、 予告内容たちの中で、

   ポートフォリオ(5, 5) が魅力的に見えるカラクリ

だけをお話しすることにします。 そして、

   • 不確実性をデザインするために用いる道具たち。
   • ポートフォリオ選択問題の重要性。
   • 現実にポートフォリオを選択するために必要な情報。

を次回以降の話題とさせていただきます。
 なお、 今回は、 これまで以上に誤解を恐れず大胆になってお話しさせていただきます。
 第3 回を読んだ皆さんたちの中には、

   「株式I を5 単位(500 円分) と株式Mを5 単位(500 円分)
   というポートフォリオの購入」は「株式I を10 単位(1000 円
    分)購入する
」よりも魅力的な投資方法だなっ!

と思った人がいるかもしれませんね。 今回はそれが魅力的に見えたカラクリを説明したいと思います。 TV番組ふぅ~では、 その魅力の謎に迫りたい、 といったところですかね。
 まず、 前回の内容をさらりとおさらいします。 まず、 6ヶ月後の株式I の価格と6ヶ月後の株式Mの価格の同時分布は

表1
Hyou1_2

です。 そして、 表1 の水色部分とピンク色部分から、 株式I を10 単位(1000 円分) 購入する場合、 株式Mを10 単位(1000 円分) 購入する場合のそれぞれについて、 6ヶ月後の受取金額として起こり得るすべての結果たちと各結果が発生する確率は

図1
Zu1_2
 ということが分かります。 さらに、 表1 を基にすると、 ポートフォリオ
(5, 5) の6ヶ月後の受取金額として起こり得るすべての結果たちと各結果が発生する確率は

図2
Zu2_4

を得られます。 ここで、 ポートフォリオ(5, 5) と株式I の10 単位を比べて(図1 の株式I と図2 を見比べてください)、 株式I を10 単位購入すれば、

   確率0.7でど~んと儲かる(6ヶ月後の受取金額は1200 円)
   が、確率0.3でど~んと損する(6ヶ月後の受取金額は980 円)、

その一方で、 ポートフォリオ(5, 5) を購入すれば、

   儲かり方はそこそこだが、 ど~んと損する確率も0.05と小さい、

という気持ちになりませんかね。 そういう気持ちになれば、 10 単位の株式I ほどのリスクをとりたくないという人たちの中にも、 ポートフォリオ(5, 5) 程度のリスクであればとってもよいという人たち、 つまり、 10 単位の株式I よりもポートフォリオ(5, 5) が魅力的な投資方法と思える人たちがいるのではないでしょうか? そして、 その大きな理由は

   ポートフォリオ(5, 5) ではど~んと損する確率が小さい

ではないでしょうかね。 それでは、 株式I の10 単位と比較して、 なぜポートフォリオ(5, 5) ではど~んと損する確率が小さいのでしょうか? 表1 を見てください。 「6ヶ月後に株式I の価格が98 円になる」という事象が起こる確率は0.3 です。 ここで、 この事象を2 つに分割します。 1 つは「6ヶ月後に株式I の価格が98 円になるが株式M の価格が115 円になる」、 もう1 つは「6ヶ月後に株式I の価格と株式Mの価格が共に98 円になる」です。 ポートフォリオ(5, 5) を購入していて前者が起こったらその受取金額は

   1065= 98 × 5 + 115 × 5
      = 98 × 5 + 115 × 5 − 100 × 10 + 100 × 10
      = 98 × 5 − 100 × 5 + 115 × 5 − 100 × 5 + 1000
      = {(98 − 100) × 5 + (115 − 100) × 5} + 1000
      = {−10 + 75} + 1000

ですから、 株式I の価格下落によって生じる損失(−10 円) が株式Mの価格上昇によって生じる儲け(75 円) によりカバーされていることが分かります。 これとは反対に後者が起これば、

   980 = 98 × 5 + 98 × 5
      = 98 × 5 + 98 × 5 − 100 × 10 + 100 × 10
      = 98 × 5 − 100 × 5 + 98 × 5 − 100 × 5 + 1000
      = {(98 − 100) × 5 + (98 − 100) × 5} + 1000
      = {−10 + (−10)} + 1000

でありどちらの株式からも損失(−10 円) が生じます。 つまり、 ポートフォリオ(5, 5) を保有していれば、 6ヶ月後に株式I の価格が98 円になったとしても、 その状況下でいつでも損するのではなく、株式Mの価格が115 円になるケースでは、 株式I の価格下落により生ずる損失がカバーされるということです。 そして、 表1 より、 「株式I の価格下落により生ずる損失が株式Mの価格上昇によりカバーされる」、 すなわち、 「6ヶ月後に株式I の価格が98 円になるが株式Mの価格が115 円になる」が起こる確率は0.25 です。 同様に、 「6ヶ月後に株式Mの価格が98 円になる」という場合も2 つに分割でき、 ポートフォリオ(5, 5) を保有していれば、 株式I の価格が120 円になるケースでは株式Mの価格下落から生ずる損失をカバーできます。 そして、 表1 より、 「6ヶ月後に株式Mの価格が98 円になるが株式I の価格が120 円になる」が起こる確率は0.25 です。 以上を感覚的に表現すると、

   一方の株式の価格が下落したときにもう一方の株式の価格が
   上昇してその下落分をカバーして利益がでる確率が0.5である

です。 さらに、

   ポートフォリオ(5, 5) を購入していてど~んと損する確率は
   0.05

となります。 ただし、

   株式I を10 単位購入することと比較してポートフォリオ
   (5, 5) はそこそこしか儲からない

ということも注意しておきます。 「6ヶ月後に株式I の価格が120 円になる」という事象も次のように2 つに分割できます。 1つは「6ヶ月後に株式I の価格が120 円になり、 かつ、 株式Mの価格が115 円になる」という事象であり、 もう1 つは「6ヶ月後に株式I の価格が120 円になり、 かつ、 株式Mの価格が98 円になる」という事象です。 上記と同じく後者の事象が起こる確率は0.25 で、 前者が起こる確率は0.45 です。 あっ、 ユカさんの手が挙がりましたね。 どうぞ思ったことを言ってください。

   図1 だけを見てるとぉ、 株式Mに投資するのゎ意味なぃょうに
   思ぇるけど、 株式I と株式Mでポートフォリオ(5, 5) を作るとぉ、
   ぉ互ぃにたすけ合うってことがかなり起こるから、 すごぃ損する
   ことってぁんまりなぃんだ。 けどぉ、 その代わりに、 ポートフォリ
   オ(5, 5) でゎすごぃ儲かるチャンスも無くなってるし。

そうです。 そういう気持ちであれば、 私の話を理解していただけているのでしょう。
 それではもし、 6ヶ月後の株式I の価格と6ヶ月後の株式Mの価格の同時分布が表2 で与えられていたら、 ポートフォリオ(5, 5) を購入する場合の6ヶ月後の受取額はどうなるでしょうか?

表2
Hyou2_1
表2 より、

図3
Zu3_3

 となります。 この場合にも、

   一方の株式の価格が下落したときにもう一方の株式の価格が
   上昇してその下落分をカバーして利益がでる

ということも起こり得ますが、 その確率は0.02(= 0.01 + 0.01) と先ほどの1/25しかありません。 この場合には、 10 単位の株式I よりもポートフォリオ(5, 5) が魅力的な金融商品に見えるという人たちは先ほどよりも減るのではないでしょうかね?
 以上は非常に単純なモデルを用いた考察ですが、 これを基にして次のような疑問を皆さんは抱くのではないでしょうかね。

   個別に見たらハイリスク・ハイリターンの株式たちであっても、
   これらを用いて、 ある株式たちの価格が下落したとき他の株式
   たちの価格が上昇してその下落分をカバーする(ポートフォリオ
   に組み込んでいる株式たちが互いにたすけ合う) ということが
   起こりやすいポートフォリオを作れるならば、 ローリスク・ロー
   リターンやミドルリスク・ミドルリターンを実現できるのではない
   だろうか。

この漠たる疑問を問題にして答えを出した最初の研究が

   Markowitz, H. M., “Portfolio selection”, Journal of
   Finance, 7, 1952, 77-91.

です。 なお、 Markowitz 氏は1990 年にノーベル経済学賞を受賞されています。
(次回は2006年1月7日更新予定)

ポートフォリオを選ぶ

 前回の最後に予告したとおり、 今回は「ポートフォリオを選ぶ」ということを考えてみます。まず「ポートフォリオ」を説明します。複数の証券などを合わせて持っている場合に、 その組合せを指してポートフォリオという言葉が用いられることが多いようです。その例をあげます。前回のことを思い出してください。現在、 国債R、 株式I、 株式Mのいずれについても、 1 単位の値段は100円です。そして、

   国債R、 株式I、 株式Mの中からいずれか一つだけを選び、
   それを1000 円分購入する

という投資を比較しました。もちろん、 1000 円分の証券の買い方(投資方法) はこれらだけではなく、

   国債R を2 単位(200 円分)、 株式I を5 単位(500 円分)、
   株式Mを3 単位(300 円分) 購入する

という方法もありますよね。これがポートフォリオの一例です。上記のように、 自分の資金1000 円で国債R、 株式I、 株式Mを購入しているとき、 その状態を

   国債R、 株式I、 株式Mから構成されるポートフォリオへ投資
   している、

や、

   国債R が2 単位、 株式I が5 単位、 株式M が3 単位から構
   成されるポートフォリオへ投資している、

などと表現します。このように複数の証券たちを組み合わせて保有するとき、 その組み合せの対象となっている証券たちやその組み合わせ方を表わす量がポートフォリオという言葉で表現されています。もちろん、 「株式I を10 単位(1000 円分) 購入する」も

   国債R を0 単位(0 円分)、 株式I を10 単位(1000 円分)、
   株式Mを0 単位(0 円分) 購入する

という一つのポートフォリオです。
 以下では、 株式I と株式Mで構成されるポートフォリオを購入したら6ヶ月後の自分の所持金はいくらになるのかを考えていきます。
 x とy は100x + 100y = 1000 を満たす非負の整数とします。ここでは、 x を株式I の購入数(または保有数) とよび、 y を株式Mの購入数(または保有数) とよぶことにします。現在の株式I の価格は100 円ですから、 100x は「株式I をx 単位購入するための金額」を表現しています。現在の株式M の価格も100 円ですから、 100y は「株式M をy 単位購入するための金額」を表現しています。そして、 100x + 100y = 1000 は「株式I の購入金額と株式Mの購入金額の和が自分の所持金額1000 円と等しい」ということを表現しています。なお、 「ポートフォリオ(x, y)」を

   x 単位の株式I とy 単位の株式Mから構成される
   ポートフォリオ

と解釈することにします。それでは、 現在、 ポートフォリオ(x, y) を購入する場合、

   6ヶ月後の自分の所持金額としてとり得る全ての値たち
   (起こり得る全ての結果たち)  

   それぞれの値が発生する確率(各結果が発生する確率)

を考えていきましょう。
 まず、 株式I と株式Mのそれぞれについて、 現在の価格と6ヶ月後の価格に関してこれまでに得た情報は、

図1
zu1 でした。では、 これを基にして上述の問題たちを考えて見ましょう。

   問題1 現在、 ポートフォリオ(x, y) を購入する場合、 6ヶ
   月後の自分の所持金額としてとり得る全ての値たち(起こり
   得る全ての結果たち) を求めてください。

[解答] 6ヶ月後に株式I の価格がとり得る値は120 と98 のみで、 6ヶ月後に株式Mの価格がとり得る値は115 と98 のみです。これより、 6ヶ月後のこれら2 つの株価の組として

shiki1




という4 つが考えられます。それでは、

   (6ヶ月後の株式I の価格, 6ヶ月後の株式Mの価格)
   = (120 円, 115 円)

となった場合の自分の所持金額を求めてみます。現在、 ポートフォリオ(x, y) を購入して、 それを6ヶ月間保有しているのですから、 6ヶ月後にも株式I をx 単位と株式M をy 単位持っています。そして、 保有している株式たち全てを売るといくらを得られるかを計算します。株式I を売却したら

   (6ヶ月後の株式I の価格) × (株式I の保有数)
   = 120 × x
   = 120x 円

を得られ、 株式Mを売却したら

   (6ヶ月後の株式Mの価格) × (株式Mの保有数)
   = 115 × y
   = 115y 円

を得られますから、 これらを合計して

   120x + 115y 円                       (2)

が自分の所持金額です。
 同様に計算すると、 (6ヶ月後の株式I の価格, 6ヶ月後の株式Mの価格) = (120 円, 98 円) となった場合の自分の所持金額は

   120x +98y 円                        (3)

で、 (6ヶ月後の株式I の価格, 6ヶ月後の株式Mの価格) = (98 円, 115 円) となった場合の自分の所持金額は

   98x + 115y 円                       (4)

で、 (6ヶ月後の株式I の価格, 6ヶ月後の株式Mの価格) = (98 円, 98 円) となった場合の自分の所持金額は

   98x + 98y 円                        (5)

です。以上をまとめると、

shiki6 です。

   問題 2 現在、 ポートフォリオ(x, y) を購入する場合、 6ヶ
   月後の自分の所持金額としてとり得る値たち全てについて、
   その値が発生する確率(各結果が発生する確率) 求めてくだ
   さい。

さて皆さんこの問題に答えることができますか? 簡単な場合から順番に考えてみましょう。y = 0ならばポートフォリオ(10, 0) であり、 x = 0ならばポートフォリオ(0, 10) です。それぞれ、 株式Iを10 単位(1000 円分) 購入する場合と株式Mを10 単位(1000 円分) 購入する場合です。これらの場合についてはもう答えはでていますね(図1)。そこで、 以下ではx ≠ 0かつy ≠ 0の場合について考えていきます。
 まず、

   (6ヶ月後の株式I の価格, 6ヶ月後の株式Mの価格)
   = (120 円, 115 円)                    (7)

となれば、 6ヶ月後の自分の所持金額が120x + 115y 円となります。逆に、 6ヶ月後の自分の所持金額が120x + 115y 円となるのは(7) という結果になるときのみです。したがって、 “結果(7) が発生する確率” が分かれば、 その値が

   6ヶ月後の自分の所持金額が120x + 115y 円となる確率

と等しいです。しかし、 (7) という結果になる確率を図1 で与えられた情報から求めることができるでしょうか? 単純に

tuika1


を計算すれば、 それが“結果(7) が発生する確率” と等しいでしょうか? すなわち、

tuika2 が成立つのでしょうか? (8) はどのような現象の表現になっているのでしょうか? 株式I の価格と株式Mの価格が全く別個に決まるのであれば、 すなわち、 乾さんが経営する企業の業績と三原さんが経営する企業の業績が全く関係がないのであれば、 (8) が成立つと思うことにしてもかまわないかもしれませんね。例えば、 乾さんが経営する企業が自動車メーカーで、 三原さんが経営する企業が漫画喫茶チェーンだとしましょう。そうすると、 これら2 社の業績は無関係であると思えるかもしれません。
 そうではなく、 乾さんが経営する企業が自動車メーカーで、 三原さんが経営する企業が鉄鋼メーカーであり、 乾さんが経営する企業が三原さんが経営する企業から自動車用鋼板を大量購入しているならば、 これら2 社の業績は無関係であると思えないでしょう。そうであるならば、

   (8) は成り立たない

と皆さんたちの多くは判断するかもしれませんね。
 さらに極端な例として、 “三原さんが経営する企業” が“乾さんが経営する企業” の下請け部品メーカーで、 三原さんが経営する企業の製品たち全てを乾さんが経営する企業が買い取っているとします。このような場合には、 2 社の企業業績の間に

   乾さんが経営する企業の業績が良いときには三原さんが経営
   する企業の業績も良くて、
   乾さんが経営する企業の業績が悪いときには三原さんが経営
   する企業の業績も悪い、

という関係になるかもしれませんね。もしそうであるならば、 (8) が成り立つとは思えないどころか、

   株式I の価格が120 円になるときには必ず株式M の価格が
   115 円になり、 株式I の価格が98 円になるときには必ず株
   式Mの価格が98 円になる

と皆さんは考えるかもしれません。そしてこの場合には、

tuika3 が成立つと判断されるのでしょう。もちろん、 このとき、

   (6ヶ月後の株式I の価格, 6ヶ月後の株式Mの価格)
   = (120 円, 98 円) という結果や
    (6ヶ月後の株式I の価格, 6ヶ月後の株式Mの価格)
   = (98 円, 115 円) という結果が発生する確率はいずれも0
   です。

 ここまでの考察から、 問題2 に答えるためには図1 で与えられる情報だけでは不十分ということが分かります。ここで、 前回、 ユカさんが照夫君(将来を見通せる神様) にどのような質問をしたのかをもう一度確認しましょう。それは、

   6ヶ月後に株式I の価格が120 円になる確率と6ヶ月後に株式
   Mの価格が115 円になる確率を教えて欲しいんだけどぉ。

でした。たしかに、 図1 はこの質問に対する答えとしては十分ですね。それでは、 問題2 に答えるために十分な情報を得られる質問をどなたかから照夫君にしてもらいましょう。あっ、 サヤさんの手が挙がりましたね。では、 サヤさん、 皆さんを代表して照夫君に質問してください。

   6ヶ月後の株式I の価格と6ヶ月後の株式Mの価格の同時分布
   を教えてください。

この質問に対して、 照夫君は

tuika4


と答えてくれました(注)。この答えを表1 にまとめてみました。

表1
hyou1
 表1 の見方を説明します。115 円の行と120 円の列が重なるところに0.45 とあります。これは(9) の第1 行と同じ意味です。98円の行と120 円の列が重なるところに0.25 とあります。これは (9) の第2 行と同じ意味です。115 円の行と98 円の列が重なるところに0.25 とあります。これは(9) の第3 行と同じ意味です。98円の行と98 円の列が重なるところに0.05 とあります。これは(9)の第4 行と同じ意味です。
 次に、 表1 すなわち(9) から得られる情報は図1 から得られる情報を含むことをチェックしておきます。表1 の115 円の行右端にある0.7(= 0.45 + 0.25) は「6ヶ月後に株式Mの価格が115 円になる確率」です。表1 の98 円の行右端にある0.3(= 0.25 + 0.05) は「6ヶ月後に株式M の価格が98 円になる確率」です。同様に、 表1 の120 円の列下端にある0.7(= 0.45 + 0.25) は「6ヶ月後に株式I の価格が120 円になる確率」で、 表1 の98 円の列下端にある0.3(= 0.25 + 0.05) は「6ヶ月後に株式I の価格が98 円になる確率」です。したがって、 表1 または(9) が与えられればそれを基に図1 を作れます。
 これでやっと問題2 に答えられます。
[問題 2 の解答] 100x + 100y = 1000 をみたす非負の整数x とy に対して、

2nokaitou です。
 問題1 と問題2 で得られた結果を図2 にまとめておきます。

図2
zu2










さらに、 ポートフォリオ(x, y) を現在購入した場合の6ヶ月後の自分の所持金額の平均を計算すると、

   (120x + 115y) ・ 0.45 + (120x + 98y) ・ 0.25
   + (98x + 115y) ・ 0.25 + (98x + 98y) ・ 0.05
   = (113.4)x + (109.9)y                 (10)

になります。ここで、

   (x, y) = (0, 10), (1, 9), (2, 8), (3, 7), (4, 6), (5, 5),
        (6, 4), (7, 3), (8, 2), (9, 1), (10, 0)

の各ポートフォリオを現在購入した場合に、

   6ヶ月後の自分の所持金額としてとり得る全ての値たち

   6ヶ月後の自分の所持金額の平均、 すなわち、 (10)

を具体的に計算してみました。その計算結果を表2 にまとめてあります。

表2
hyou2  株式I と国債R の比較では、

   株式I への投資では6ヶ月後に自分の所持金が1050 円より小
   さくなる確率が30%と大きい。だから、 株式I ではなく国債R
   へ投資しよう。

という気持ちの人たちが多数いるのではないでしょうか。一方、 表2 を見ると、

   ポートフォリオ(4,6) やポートフォリオ(5,5) を現在購入す
   れば、 6ヶ月後の自分の所持金額が1050 円以下となる確率は
   0.05

ということがただちに分かります。そうすると、 先ほどの人たちの中にも

   ポートフォリオ(4,6) またはポートフォリオ(5,5) への投資
   では6ヶ月後に自分の所持金が1050 円より小さくなる確率が
   5%しかない。だから、 国債R よりもポートフォリオ(4,6) ま
   たはポートフォリオ(5,5) へ投資しよう。

と思う人たちもいるのではないでしょうか。この気持ちをもう少し形式的に整理しておきます。
 1000 円分の証券たちを購入するときの規準を

   6ヶ月後の所持金が1050 円よりも小さくなる確率が0.05 以
   下のポートフォリオたちがあれば、 その中から6ヶ月後の所
   持金の平均がもっとも大きいポートフォリオを選ぶ。そうい
   ったポートフォリオたちが存在しなければ、 国債R を選ぶ。

とします。ポートフォリオ(10,0) すなわち株式I、 ポートフォリオ(0,10) すなわち株式M、 国債Rだけを対象にすると国債R が選ばれます。しかし、 表2 に掲載されている全てのポートフォリオたちを選択肢に加えればその選択は異なります。ポートフォリオ(4,6) やポートフォリオ(5,5) を現在購入すれば、

   6ヶ月後の自分の所持金額が1050 円以下となる確率は0.05

ということがただちに分かります。そして、 6ヶ月後の自分の所持金額の平均値はそれぞれの1113.0円と1116.5 円です。これより上記の規準では、

   国債R ではなくポートフォリオ(5,5) を選ぶ

ことになります。
 最後に、 不確実性のデザインに関して、 一言述べておきます。もちろん、 ポートフォリオ(x, y) への投資でもその結果に不確実性はあります。ただし、

(a) 株式I に1000 円投資する場合の「起こり得る全ての結果たち」と「各結果が発生する確率」(図1)

(b) 株式Mに1000 円投資する場合の「起こり得る全ての結果たち」と「各結果が発生する確率」(図1)

(c) ポートフォリオ(x, y) に1000 円投資する場合の「起こり得る全ての結果たち」と「各結果が発生する確率」(図2)

これらは異なります。「損することを気にしないで、 ど~んと大きく稼ぐチャンスが欲しい」という気持ちであれば、 その人は株式I を選択するかもしれません。「とにかく損をすることを避けたい」という気持ちであれば、 その人は国債R を購入するでしょうかね。そして、 「それほど大きく稼げなくともかまわない、 その代わり、 損する確率を小さくしたい」という気持ちの人はポートフォリオ(5,5) を選択するかもしれません。「少しくらい損する確率が高くなっても、 ポートフォリオ(5,5) よりも稼ぐチャンスが欲しい」という人はポートフォリオ(7,3) を選ぶかもしれません。このように、 ポートフォリオを考えることは選択肢を広げます。そして、 ある範囲内において“より自分の気持ちに合った不確実性” をつくることを可能にします。こういったことを指して、

   不確実性をデザインする

と私は言っています。
 さ~て次回は、

(i) ポートフォリオへの投資により、 なぜ上記のようなことが起こるのか。
(ii) 不確実性のデザインに必要なこと。
(iii) その他の付け加えたいこと(落穂ひろい)。

という3 点についてお話しする予定です。

(次回は11月7日更新予定)

1つの投資対象を選ぶ

 前回の最後に、この連載において中心となる問題を私は述べました。まず、それを確認します。

皆さんは「お金(x円) →物たち→お金(y円)」という交換をこれから行おうとしています。そこで、皆さんは「x円をどのような物たちと交換するか?」を考えます。

 早速、あるお話を通じてこの問題を具体的に考えていきます。
 今、皆さんは1000円を持っているとしましょう。そして、皆さんは1000円分の証券(たち)を購入しようとしているとしましょう。そして、1000円で購入した証券(たち)を6ヶ月間保有し、6ヶ月後にその全ての証券たちを売却し現金化することを皆さんは予定しているとします。つまり、皆さんは「お金(1000円)→証券たち→お金(y円)」という交換をこれから行おうとしているのです。
 皆さんの前に最初に現れたのは園田さんです。園田さんは「R国財務省の職員証」を皆さんに見せて、

R国財務省が発行する 6ヶ月国債(国債R)をご購入ください。現在、この国債1単位の販売価格は100円です。6ヶ月後にはR国財務省がその国債1単位を105円であなたから買戻します。

と言いました。次に、菊池さんがやってきました。菊池さんは、K国財務省に勤務しています。菊池さんは、

K国財務省が発行する6ヶ月国債(国債K)をご購入ください。現在、この国債1単位の販売価格は100円です。6ヶ月後にはK国財務省がその国債1単位を103円であなたから買戻します。

と言いました。まず、国債Rと国債Kを比べてみましょう。どちらの国債を皆さんは購入しますか? 「お金(1000円)→証券たち→お金 (y円)」という交換を通じて、より多くのy円を得たいと気持ちが皆さんにあるならば、皆さんは国債Rを選ぶことでしょう。その理由は明らかでしょうが、それを述べておきます。どちらの証券も6ヶ月後の買い戻し価格が現時点で確約されています。ということは、国債Rを購入した場合には、国債Kを購入した場合と比較して、1 単位につき、

105(円)  -     103(円)  = 2(円)
(国債Rを購入した場合の6ヶ月後の受取額) (国債Kを購入した場合の6ヶ月後の受取額 )

多く6ヶ月後に受取れます。この比較から次のことに皆さんから同意を得られるのではないでしょうか。

R国財務省職員園田さんが皆さんの前に現れてしまっています。このとき、どこかの国の財務省職員が皆さんの前に現れて「6ヶ月後の買い戻し価格を現時点で確約した国債」を皆さんに1単位につき100円で販売しようしています。もしその買戻し価格が 105 円未満であれば、皆さんはその国債を購入することはありませんね。

 それでは、菊池さんには帰ってもらいましょう。その他、いくつかの国々の財務省職員の方々が皆さんの前に現れました。しかし、「6ヶ月後の買い戻し価格」として105円より大きい金額を提示する人たちはその中にいませんでした。その中には「6ヶ月後の買い戻し価格を105円とする」と言った人はいました。しかし、それは国債Rと同じことですから、皆さんの前には園田さんだけに残っていただくことにして、やはりその方々には帰っていただきましょう。ここで、図1は国債Rの価格変化を表現しています。

【図1】

fz1
 皆さんの前に次に現れたのは徳本さんと新井さんです。彼らはそれぞれある企業の経営者です。まず、徳本さんが言いました。

当社(徳本さんが経営する企業)の株式(株式T)をご購入ください。現在、当社の株式は1単位あたり100 円で株式市場で売買されています。当社の今後 6ヶ月間の業績が良ければ、6ヶ月後には株式Tの価格はぐっと上がりますよ。ただ、その間の当社の業績が悪ければ、6ヶ月後の株式Tの価格はほんのすこしだけ下がります。

 しかし、皆さんが株式Tを購入するか否かを決める際に、この説明はその判断材料としてはあまりに不十分ではないでしょうかね。なにしろ、「当社の今後6ヶ月間の業績が良ければ、6ヶ月後には株式Tの価格はぐっと上がりますよ。」といわれても 、 徳本さんが経営する企業の今後6ヶ月間の業績が良ければ、

6ヶ月後の株式Tの価格が200円になる

というのか、それとも、

6ヶ月後の株式Tの価格が101円になる

というのか、徳本さんの発言ではその金額が不明なのです。同様に、徳本さんが経営する企業の今後6ヶ月間の業績が悪ければ、

6ヶ月後の株式Tの価格がいくらになるのか?

が不明ですね。すなわち、徳本さんの説明では、

起こり得る全ての結果たち

が不明なのです。ここで、将来を見通せる神様(以下では, この神様を照夫君と呼ぶことにします。)が皆さんの耳元で「徳本さんが経営する企業の今後6ヶ月間の業績が良ければ、6ヶ月後の株式 T の価格は102円です。そうでなければ、6ヶ月後の株式Tの価格は99円です。」とささやいてくれました。ただし、

徳本さんが経営する企業の今後6ヶ月間の業績が良いかという結果が起こるか、それともそれが悪いという結果が起こるか

については照夫君は何も話さないそうです。株式Tの価格変化の様子を図2に表現してみました 。
【図2】zu2


今度は 、 新井さんが皆さんに自社株式を売り込むため 、

当社(新井さんが経営する企業)の株式(株式A)をご購入ください。現在、当社の株式は1単位あたり100円で株式市場で売買されています。当社の今後6ヶ月間の業績が良ければ、6ヶ月後の株式Aの価格は105円です。しかし、その間の当社の業績が悪ければ、6ヶ月後の株式Aの価格は100円です。

と言いました。図3は新井さんの説明の概略です 。
【図3】zu3


ここで、照夫君は「新井さんの言っていることに間違いはない。」とだけ皆さんにささやいてくれました。
 それでは、 ここで一旦、国債R、株式T、株式Aを投資対象という観点で比較してみましょう 。 皆さんは「お金(1000円) →証券たち→お金(y円)」という交換を行います。このときには「より多くのy円を得たい」という気持ちを皆さんは持っています。

これら3つを対象としたとき、皆さんはどのような交換を行いますか?

皆さんを代表して、ユカさんの考えを聞いてみました。

国債Rを10単位(1000円分)購入したら、6ヶ月後に1050円を確実に受取れる。 ぢゃ、もし株式Tを10単位(1000円分)購入したらー、徳本さんが経営する企業の調子が悪いと、6ヶ月後の手持ち金額は990円、って今よりも減るし。しかも、徳本さんが経営する企業の調子が良くてもそれは1020円(<1050円)にしかならないし。株式Tだめじゃん。やばいよね。「6ヶ月後の所持金が今の手持ち金額よりも10円小さくなるかもー」って危険をおかしてまで株式Tを購入するなんてありえなくねー。つーか、 国債Rを1000円分購入して6ヶ月後に確実に1050円を受取る方が得だし。
ぢゃ、もし株式Aを10単位(1000円分)購入したらどうなるかっていうと、新井さんが経営する企業の調子が悪ければ、6ヶ月後の所持金額は1000円のままだし、でも、新井さんが経営する企業の調子が良ければ6ヶ月後に1050円を得られるのか。うーん、6ヶ月後の所持金額が今(1000円)よりも小さくなることはないけど、株式Aも駄目駄目だし。だぁって、 (自分にとって)うれしい結果になったとしても1050円だから、園田さんが国債Rを売ってくれるっていうんだから「利益50円を得られないことがあるかもしれない」っていうリスクをおかしてまでわざわざ株式Aを購入するとか意味無いし。そんなのありえないし。

 そうすると、上記3つの投資対象たちの中では国債Rを皆さんは選ぶということですかね()。 そうすると 、皆さんは「園田さんにはそのまま残ってもらって、徳本さんと新井さんには帰っていただこう。」という意思決定ですかね。もしかしたら、皆さんは徳本さんや新井さんに再度現れて欲しいと思うことがあるかもしれませんが、さしあたり、彼らには帰ってもらいましょう。
 皆さんの前に経営者たち2人がさらにやってきました。一人は乾さんです。もう一人は三原さんです。乾さんは、

当社 (乾さんが経営する企業) の株式(株式I)をご購入ください。現在、当社の株式は1単位あたり100円で株式市場で売買されています。当社の今後6ヶ月間の業績が良ければ、6ヶ月後の株式Iの価格は120円です。しかし、その間の当社の業績が悪ければ、6ヶ月後の株式Iの価格は98円です。

と自らが経営する企業の株価を説明しました。図4はその説明を表現しています。
【図4】zu4


 三原さんは自社の株価について、

当社(三原さんが経営する企業)の株式(株式M)をご購入ください。現在、当社の株式は1単位あたり100円で株式市場で売買されています。当社の今後6ヶ月間の業績が良ければ、6ヶ月後の株式Iの価格115円です。しかし、その間の当社の業績が悪ければ、6ヶ月後の株式Mの価格は98 円です。

と説明しました。図5はその説明を表現しています。
【図5】zu5


 なお、照夫君は2人の説明に間違いはないと皆さんにささやいてくれました。それでは、皆さんお尋ねします。

「国債R、 株式I、 株式M」の中からどれか一つをその投資対象として選んでください。

 今与えられている情報だけから、上記の質問に答えることは難しいのではないでしょうかね。「国債R、株式I、株式M」の中からどれか一つを選べ 、と言われても皆さんはその答えを出し難いのではないでしょうか。もちろん私もそうです。今、「国債R、株式I、株式M」のいずれについても、

それを購入した場合の起こり得る全ての結果たち

すなわち、

6ヶ月後の所持金がとり得る全ての値たち

を皆さんも私も知っています。それを見ると、一瞬、株式Mよりも株式Iは魅力的に映りませんか? しかし、

「乾さんの経営する企業の業績が良い」ということの起こりやすさ

 すなわち、「6ヶ月後に株式Iの価格が120円になる」ということの起こりやすさ
はどれだけでしょうか? 言いかえると、

6ヶ月後に株式Iの価格が120円になる確率はいくつか?

という疑問が皆さんの中に生まれませんかね。同様に、

6ヶ月後に株式Mの価格が115円になる確率はいくつか?

という疑問があるでしょう。例えば、次の2つを比較してください。

(a)6ヶ月後に株式Iの価格が120円になる確率は0.99であり、6ヶ月後に株式Mの価格が115 円になる確率は0.01である。
(b)6ヶ月後に株式Iの価格が120円になる確率は0.01であり、6ヶ月後に株式Mの価格が115円になる確率は0.99である。

 (a)であるのか(b)であるのかに依存して、皆さんの選択は全く異なるのではないでしょうか。(a)であれば、株式Iと株式Mの比較では、皆さんは株式Iを選ぶのではないでしょうか。(b)であれば、皆さんはそれとは反対の選択するのではないでしょうか。つまり 、投資対象を選ぶという視点では、乾さんと三原さんの説明には、

各結果の起こりやすさ

すなわち、

各結果(事象)が発生する確率

が不足しているのです。それで、さきほどのユカさんが「6ヶ月後に株式Iの価格が120円になる確率と6ヶ月後に株式Mの価格が115円になる確率を教えて欲しいんだけど。」と照夫君に尋ねました。照夫君は次のように答えてくれました。

6ヶ月後に株式Iの価格が120円になる確率と6ヶ月後に株式Mの価格が115円になる確率の両方とも0.7である。

そうすると、これまでの情報を総合し、それを図で表わすと、
【図6】zu6


となります。それでは、再度、皆さんにお尋ねします。皆さんは「お金(1000円)→証券→お金(y円)」という交換をこれから行おうとしています。

「国債R、株式I、株式M」の中からどれか一つをその投資対象として選んでください。

多くの方々は国債Rか株式Iのいずれかを選ぶのではないだろうかと私は予想します。皆さんは「より多くのy円を手に入れたい」という気持ちでしょう、この場合、それは単なる気持ちでしかなく証券を選択する規準とはならないことをここでも注意しておきます。

国債Rを購入すれば6ヶ月後の所持金は株式Iを購入する場合よりも
確実に(いずれの結果が起こっても) 大きくなるか?

という質問に対する答えはNO!ですね。確率0.7で「乾さんが経営する企業の今後 6ヶ月間の業績は良い」であり、その場合には株式Iの価格は120円 (>105円)です。同様に、

株式Iを購入すれば 6ヶ月後の所持金は国債Rを購入する場合よりも
確実に(いずれの結果が起こっても)大きくなるか?

という質問に対する答えもNO!ですね。確率0.3で「乾さんが経営する企業の今後 6ヶ月間の業績は悪い」であり、その場合には株式Iの価格は98円 (<105円)です。つまり、

「より多くのy円を手に入れたい」といっているだけでは何も選択できませんね。

それでは、

何をその選択基準として用いることができるのでしょうか?

例えば、

(c1) 各証券を購入した場合の6ヶ月後の所持金の平均(期待値)を計算し、その値のもっとも大きい証券を選ぶ。
(c2) 6ヶ月後の所持金が1050円よりも小さくなる確率が p 以下の株式たちがあれば、その中から6ヶ月後の所持金の平均がもっとも大きい株式を選ぶ。そういった株式たちが存在しなければ、国債Rを選ぶ

などです。では(c1)を用いて、証券を選択してみましょう。国債Rを1000円分購入した場合には、確実に(確率1で)6ヶ月後に 1050円を受取れるのですから、その平均は、

1050・1=1050                              (1)

です。次に、株式Iを1000円分購入した場合の6ヶ月後の所持金の平均は、

1200・(株式Iの価格が120円になる確率)
+980・(株式Iの価格が98円になる確率)
=1200・0.7+980・0.3=1134                (2)

です。最後に、株式Mを1000円分購入した場合の 6ヶ月後の所持金の平均は、

1150・(株式Mの価格が115円になる確率)
+980・(株式Mの価格が98円になる確率)
=1150・0.7+980・0.3=1099                (3)

です。そうすると、(c1)を選択の規準として用いると、株式Mへ投資することになりますね。今度は(c2)を選択の規準として用いてみましょう。p=0.1とします。この場合には、

株式Mと株式Iのどちらに投資しても6ヶ月後の所持金が1050円より小さくなる確率は0.3>0.1=p

なので、国債Rを選択することになります。p=0.31とすれば、

株式Mと株式Iのどちらに投資しても6ヶ月後の所持金が1050円より小さくなる確率は0.3<0.31=p

なので、(2)と(3)を比較して、株式Iへ投資することになります。
なお 、

どの選択基準を用いるのか? 例えば、(c1)にするか(c2)にするか? 
(c2)の場合にはpをいくつにするか?

を決めることはまた別の問題ですね。皆さんの置かれた状況に依存するでしょう 。
それでは、これまでの内容をさらっと見直してみましょう。皆さんは、

国債R、株式I、株式Mなどを対象にしてどれを選ぶか?

という問題に直面しました。その選択に必要な情報は、

起こり得る全ての結果たち

各結果(事象)が発生する確率

の両方でした。そして、

「お金(1000 円)→証券たち→お金(y円)」という交換を行うことでより多くのy円を手に入れたいっ!

は単なる気持ちでしかなく、証券たちを選択する規準にはならないことを見ました。そして、

各結果(事象)が発生する確率を基礎として、証券たちを選択する規準は作られていました。

さ~て、次回のファイナンスの小部屋では複数の投資対象たちを選択するということを説明する予定です。

「不確実性」とは何だろう?
−企業経営と賭けの共通点−

この講座では、ファイナンスという現象において見られる「不確実性のデザイン」の例(たち)を紹介していきます。 「不確実性」という言葉で、私がどういったことを指しているのでしょうか? まず、それを皆さんにイメージしてもらいます。そのために、ファイナンスという現象ではなく、皆さんにとってもっと身近であろう例から話を始めていきます。 コイン投げやサイコロ投げを思い浮かべてください。 これらを行う前にその結果を知ることはできませんよね。例えば、あるコインを今から1 回だけ投げることとします。このコイン投げの前に、
そのコインを投げたら表と裏のどちらが出るか
を知ることはできませんよね。同様に、あるサイコロを1回だけ投げることとします。やはり、このサイコロ投げの前に、
そのサイコロを投げたらどの目が出るか
を知ることはできませんよね。もちろん、何らかの情報を用いて、コイン投げの結果やサイコロの出目を予想することは可能でしょう。ただし、それは「知る」とは異なると私は思っています。 その一方で、どちらの行為についても、それにより起こり得る全ての結果たちを皆さんは前もって知っていますよね。 コイン投げにより起こり得る全ての結果たちは、
表、裏
の2つです。サイコロ投げにより起こり得る全ての結果たちは、
1、2、3、4、5、6
の6つです。つまり、どちらの行為にしても、それにより起こり得る全ての結果たちを前もって知ることは可能です。しかし、様々な要因たちが複雑に作用し合うため、どの結果が起こるかを知ることができるのはその行為の後に限ります。こういった状況などを指して「その結果に不確実性を伴う」と私は言っています。
コインを投げたり、サイコロを投げたりする例だけを用いることにより、皆さんの興味を引きつけておくことが私にはできません。
そこで、次は、宝くじで考えて見ます。皆さんがある宝くじを1枚買ったとします。それは図1-1の宝くじだったとします。

【図1-1】

Scan0010その宝くじには番号555106が記載されています。しかし、この宝くじを購入した時点では、
将来、この宝くじから得られる金額(この宝くじの獲得賞金額)
を知ることはできません。 しかし、
抽選の結果、555106が、
“1等の番号” に選ばれれば1億円を受取れ、
“2等の番号” に選ばれれば1000万円を受取れ、
・・・・
“7等の番号” に選ばれれば300円を受取れ、
1等から7等のどの番号にも選ばれなければ受取り金額はゼロ、

ということは宝くじが販売されたときから既に決まっています。
次に、競馬の例を見ます。
ある5頭立てのレースが行われると思ってください。便宜的に、そのレースに出る5頭の馬たちを1番の馬、2番の馬、3番の馬、4番の馬、5番の馬と呼ぶことにします。皆さんはこのレースの馬券(図1-2)を買ったとします。

【図1-2 】

Scan0011この場合、 皆さんは「このレース結果は、“1着が3番の馬で2着が5番の馬”、または“1着が5