丸山 正博

  • Masahiro Maruyama
    拓殖大学商学部専任講師。昭和45年生まれ。一橋大学商学部を卒業し三井信託銀行、(財)流通経済研究所を経る。筑波大学大学院経営政策科学研究科企業法学専攻修了。専攻は流通論、マーケティング論。

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第7回:社会や環境を意識したマーケティング

(1)マーケティングは誰のため?
 はじめにこれまで説明してきたことを簡単に復習しておきますが、マーケティングとは企業が自分たちの扱っている商品の売上を増やすための仕組みづくりです。そしてその商品の特徴によって、製品、価格、流通チャネルや広告といった分野に関する具体的な戦略を立てていきますが、どのような戦略を立てられるかはライバル企業との知恵比べということになります。つまりマーケティングの目的は、ライバルに打ち勝って自分たちの利益を増やしていくことにあるわけです。
 もっともこうした目的を達成するためには、お客さんが商品を買ってくれなくては話になりません。商品の売り手である企業が独りよがりなマーケティングを行っても意味がなく、商品を買うお客さん一人一人に満足してもらう必要があります。そのための仕組みづくりの一つが、前回説明したOne-to-Oneマーケティングです。この場合は、企業は自分たちの利益を増やすために、顧客の満足を高めることにも注目しているわけです。
 ところがマーケティング活動を行うたくさんの企業が、自分たちの利益や自分たちの顧客の利益だけを図ろうとすると、そのツケが誰かに回ってしまうことになりかねません。マーケティング活動によって特定の企業や人々の利益だけでなく、社会全体の利益を図ることはできないのでしょうか。これが今回のテーマです。

(2)環境保護をマーケティングに活かす
 1960年代から1970年代にかけて、汚水の垂れ流しとか大気汚染といった公害や、石油価格の高騰によるオイル・ショックが大きな社会問題となりました。そしてこのころから今日に至るまで、大量の商品を生産し販売することで利益をあげている企業が、社会的責任をどのように果たすかということが議論されています。企業が自分たちの活動を通じてどのように社会に貢献するかという点では、マーケティング活動のあり方も問題になります。企業がマーケティングによって自社の利益を図り顧客ニーズを満たす一方で、ライバル企業や顧客ではない一般の人々、社会や地球環境にどれだけ悪影響を及ぼしても構わないということにはならないからです。
 社会全体の利益や環境の保護というと、コストはかかるが自分たちの利益にはつながらない非営利的活動であるように思いがちです。しかし環境を意識した商品であるとアピールすることでお客さんの支持が増えるケースは少なくありません。
 そのひとつの例が、スキンケア商品や化粧品を製造・販売しているザ・ボディショップです。この企業は社会的利益や環境保護に取り組む企業として有名で、天然の原料を主な成分にした商品をつくっています。また容器は各商品共通のシンプルなものにしたり、使い終わった容器をお店で回収して植木鉢にリサイクルしたりすることで、ムダを省くこともしています。もちろん化粧品はおしゃれをするための大事な道具ですから、「環境に優しい」というだけでは、利用してくれるお客さんはなかなか増えません。しかしザ・ボディショップは、過度に飾り立てることはしないけれども、お客さんが買い物に来て楽しくなり、商品を使って心地よくなれるように、さまざまな色や香りを使って明るく華やかになるような演出をしています。そしてこのような雰囲気作りをした上で、新商品を開発するときのテストに際して動物実験を行っていないとか過剰な包装を行わないといった、動物愛護や環境保護を重視しているというメッセージをアピールしています。このような取り組みをすることによって、天然素材で身体に優しく、環境にも優しい商品を求めるお客さんを増やしているのです。
 もうひとつの例が、洗わずにそのまま炊くことのできる無洗米というコメです。これはコメをとぐ手間を減らすという点で画期的な商品です。しかしこうした特徴をアピールしていた発売当初は、炊事の手抜きをしているとか、米をとぐことができないと思われることを嫌って、利用する人がなかなか増えませんでした。手間いらずというメリットが強調されるあまり、かえって利用がためらわれる商品だったのです。しかし無洗米には「環境に優しい」というメリットもあります。あらかじめ精米段階でコメのヌカを効率的に落としてから販売しており、家庭でヌカを含んだとぎ汁が出ないので、下水処理の負担をかけないからです。そこで最近では、環境に優しい商品であるという特徴もアピールすることで、無洗米を購入する人が増えています。
 このように「環境に優しい」ことは社会全体の利益や環境保護につながるだけでなく、それをマーケティング活動に結びつけることのできた企業の利益につながることもあるわけです。

(3)新商品を売るだけがマーケティングではない
 これまで企業は、新しい商品を消費者に買ってもらうためにさまざまなマーケティング戦略を考えていました。商品の流通という点では、図のようにメーカーがつくった商品が、卸売業者や小売業者を経由して消費者にたくさん売れるような仕組みを考えていたわけです。とくに近年は新商品が発売されるサイクルが短くなり、お店にはたくさんの商品があふれかえっていますが、買い替えによって使わなくなった商品や売れ残った商品はどうなるのでしょうか。これらをゴミとして処分していたら、埋め立て場はすぐに一杯になってしまうでしょう。そこでゴミの削減や材料の無駄遣いを減らしたり、使い古しの商品を再利用したり、原材料にまで分解して再資源化したりする取り組みが増えてきました。これらは省資源化・削減する(Reduce)、再利用する(Reuse)、再資源化する(Recycle)という英単語の頭文字をとって3つのRといわれることがあります。企業はマーケティング活動によって自社の売上や利益を増やすだけではなくて、3つのRを気にかけることで社会的責任を果たす必要ができてきているのです。

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 企業の中には3つのRに関するビジネスを積極的に行っている場合もあります。たとえばサントリーやキリンビバレッジといった飲料メーカーはペットボトルの重さを軽くしています。これはペットボトルの原料である原油価格が高騰しているのでその影響を抑えることや、軽量化による配送コストを削減することにつながるからです。生産や配送に要する費用を抑えられれば、商品の値上げを防ぐことができる点で顧客の利益につながるし、それによって売上が増えれば企業の利益にもつながるでしょう。しかしこのような取り組みは、限りある石油資源の利用を減らすという環境面への貢献も大きいのです。
 また古本の買い入れと販売を行っているブックオフは、書籍の再利用をビジネスにしています。日本では新しい書籍を値引き販売することは原則として認められていませんが、ブックオフは書籍を安く買いたいという人と、読み終わった書籍を処分したいという人のニーズを合致させたのです。あるいは富士フィルムの写ルンですという商品は、カメラ店に現像に出されるとフィルム以外の部品は最終的に生産工場が回収します。そしてレンズやフラッシュなど多くの部品は検査・洗浄後にそのまま繰り返し再利用され、紙箱や樹脂素材のカバーは溶解・破砕後にリサイクルされます。こうした取り組みは使い古しの商品をゴミにせず、まだ使えるものはそのまま再利用し、使えないものでも資源として再生するという点で、「環境に優しい」のですが、ビジネスとして成り立っている点が大きな特徴です。

(4)社会と共存できるマーケティングのあり方
 たしかに「環境に優しい」ことは素晴らしいことです。しかしそれだけでは環境に特別に関心の高い人々の共感しか得ることができない場合が少なくありません。より多くの人に受け入れられるためには、ザ・ボディショップや無洗米のようなマーケティング活動が必要となります。環境保護をマーケティングの材料にするべきだというのではなく、自分たちの社会や環境に対する取り組みを的確に消費者に伝えることが望ましいのです。大勢の人々が商品を利用することで「環境に優しい」ことのメリットもより大きくなるからです。
 自分たちが利益をあげられれば、あとはどうなっても構わないということではいけません。しかし社会全体の利益や環境保護を図ることが負担になるばかりでは、企業は何もしないでしょう。社会的責任を果たしつつ企業が利益を得ることのできる仕組み、そのような社会と共存するマーケティングのあり方が求められているのです。

(5)終わりに
 さて、以上で「マーケティングの小部屋」の授業は終わりです。最後に全体をまとめておくと、第1回では、企業が自分たちの商品を売るための仕組みづくりであるマーケティングについて考える上で、自分たちにはライバル企業と比較してどのような強み・弱みがあるのかを判断し、自分たちが取り扱うたくさんの商品のうちで、どの商品にどれだけの力を注げるのかを判断することの重要性について説明しました。そして具体的なマーケティング手法を4つに大きく分けて、第2回で製品戦略、第3回で価格戦略、第4回で流通チャネル戦略、第5回で販売促進戦略、について解説してきました。このようなマーケティング戦略は企業の激しい競争の中で、どんどん進歩しています。その一例として、第6回ではお客さん一人一人の満足度を高めるためのOne-to-Oneマーケティング、この第7回では社会全体の利益を高めたり環境保護にも役立てたりできるようなマーケティングについて説明しました。
 ここまでの7回の解説で、マーケティングがどんな役に立つのか、大まかには分かってくれたことと思います。しかし、マーケティングはたくさんの企業がライバルに勝つために知恵を絞っている分野なので、この7回の説明だけではまだ充分とはいえません。マーケティングについて興味をもった人は、「参考文献・おすすめの1冊」で紹介したような本を読んでみてください。そうすればマーケティングに関して、もっとたくさんの知識や、新しい考え方が身につくと思います。

参考文献・おすすめの1冊
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西尾チヅル『エコロジカル・マーケティングの構図』有斐閣、1999年。環境は守られなくてはならないという道徳的な視点だけでなく、環境を意識したマーケティング活動によって企業にどのようなメリットがあるのかという視点を盛り込んでおり、企業活動と環境保護に関して多面的な考え方ができる書籍です。

第6回:One-to-Oneマーケティング

(1)お客さんの満足度の高め方
 前回までで基本的なマーケティング戦略はお話したのですが、多くの企業がいろいろなマーケティング手法を実際に行っているものの、思ったような効果がなかなか出ないのが現実です。
 実は先日、振り込み手続きで新宿西口の駅前にある大手都市銀行に行ったのですが、ここで少し驚くような経験をしました。午後2時頃、窓口には20人以上のお客さんが立ったままで長蛇の列です。ところが手続きを受け付けるはずの窓口は半分近くが閉まったままで、開いている窓口では銀行員が座ったままでお客さんに対応をしています。僕も含めて多くの人々はイライラしていて不満顔です。銀行側の説明としては昼休みを交代で取っているとか、立って並んだままの方が素早く窓口に来てもらえるとか、いろいろ理由があるようなのですが、お客さんのことを考えているという感じではありません。
 もちろんこの銀行は、お客さんを怒らせようとしているわけではないでしょう。しかし良かれと思ってしたことが独りよがりになることは少なくないのです。こうしたすれ違いが売り手と買い手の間に生じると、大事なお客さんを失うことになってしまいます。
 今回お話しするのはお客さんの満足度が高まるような、言い換えると顧客の視点に立ったサービスを提供するためのマーケティングの方法です。これをロイヤルティ・マーケティングということがあります。ロイヤルティとは日本語では忠誠心と直訳しますが、つまりお客さんにお店のファンになってもらう、お客さんをお店に囲いこむマーケティングという意味です。こうしたマーケティングをこころがけると、究極的にはお客さん一人一人に合ったサービスを提供することが必要になります。それがOne-to-One(ワン・ツー・ワン)マーケティングです。そこで以下では、お客さん一人一人のニーズにあったマーケティングはどのようにすれば提供することができるのかを考えていくことにしましょう。

(2)個別対応はうれしいもの
 第一の方法は、お客さんそれぞれの希望を聞いてそれに適した商品をその都度作るというものです。シャツやスーツのオーダーメード、一戸建ての注文住宅がその例です。希望にあう最適な商品を作るという意味で、カスタマイズということもあります。
 カスタマイズで成功した企業の代表例がパソコンメーカーのデルです。パソコンを買う人のニーズは千差万別です。インターネットにしか使わないという人もいれば、高度なデータ分析をするので処理能力の高いパソコンが必要な人もいます。テレビを見られるパソコンでなければ意味がないという人も、持ち運びに便利な小型のノートパソコンを希望する人もいるでしょう。一方、電器店で売っているパソコンには使う予定のないソフトウェアや余分な機能のついているものが少なくありません。そこでデルは、お客さんが自分の欲しいパソコンの部品を組み合わせて注文する仕組みを作りました。パソコンはメモリーやハードディスク、モニターやソフトウェアといった部品の組み合わせをかなり自由に変えられるので、このような売り方が可能になったのです。しかし、大量生産で作られた定型的な商品であれば安いけれど、オーダーメードやカスタマイズをすると非常に高価になってしまうという商品は少なくありません。
 そこで第二の方法が、すでに作ってあるたくさんの既製品の中からお客さんの希望に合うような商品をすすめるというものです。漫画のサザエさんを見ていると「三河屋さん」が磯野家によく出入りしています。最近はスーパーマーケットでの買い物が増えたのであまり町では見かけませんが、昔は「御用聞き」といわれる店員さんが定期的にお客さんの家を訪ねて、注文をとったり、お奨めの商品を紹介したり、希望の時間に配達をしてくれることが少なくありませんでした。今でも、自動車販売店や宝石店のような高価な商品を取り扱う店では、時間をかけてお客さんの要望を聞き出し、それに合った商品は何か一緒に考えてくれる場合が多いです。高級ホテルでも、前に泊まったお客さんの情報 -たとえば高層階の禁煙部屋とか、ルームサービスの朝食を希望するといった- を蓄積してサービスを提供しているところがあります。このようなお客さんの個別のニーズに対応するには、一つ一つの要望を聞き出す人手や時間が必要です。つまり人件費やその他さまざまなコストがかかるので、高価な商品を売るような場合でないとなかなか割に合いません。ただ、こうした個々人に合ったサービスを提供できれば、お客さんはきっとそのお店のファンになり、ライバル店を利用する可能性は低くなるでしょう。
 他のお店と競争しているのは食品スーパーやドラッグストアでも同様です。しかしこうしたお店が扱う商品は単価や利益率が低いですから、お客さんの満足度を高めるためとはいえあまり費用をかけられません。それでは低コストでお客さんの個別ニーズを満たすにはどうしたらよいでしょうか?

(3)ポイントカードは誰のため、何のため
 ヤマダ電機のような家電量販店、ツタヤなどのレンタルショップ、そして多くの百貨店やスーパーマーケットが会員カードを発行しています。買い物の時にこうしたカードを見せると、次の買い物に利用できるポイントが購入金額の1~10%程度の割合でつくことが一般的です。これは買い物客にとっては実質的な値引きと同じですから、大きなメリットであることは言うまでもありません。それではポイントをつけているお店の側には何かメリットがあるのでしょうか。
 その一つのメリットは、ポイントがあるから「またあのお店で買おう」と頻繁に買い物に来てくれるお客さんが増えるという可能性です。現金で値引きをするのではなく、次の買い物の支払い金額に充当するカードのポイントを使うには、また買い物に行く必要があるからです。
 もう一つの大きなメリットは、お客さん一人一人が今までに何を買ったかという買い物データを蓄積して、それに合わせたおすすめ商品を案内したり、特別なサービスを提供したりできるということです。これが先ほど紹介した、高級店が行っているOne-to-Oneマーケティングの低コスト版です。
 会員になっているお店から郵便や電子メールで広告が届くことがありますが、すべてのお客さんに郵便でダイレクトメールを送るのはかなりの費用がかかります。電子メールなら費用はあまりかかりませんが、あらゆる商品の広告を送りつけていたら、不要な広告として片端から削除されてしまうことでしょう。そこでお客さん個々人の買い物データを分析した上で、一人一人が興味を持ちそうな商品の広告だけを選んで送った方が効果的です。たとえばハリーポッターのDVDのパート1を借りた人にはパート2のレンタル開始の広告を送るとか、ナイキのシューズを買った人だけを対象に次の新製品のお知らせを送るといった方法です。
 あるいは百貨店がよく行っているのですが、1年間の購入金額に応じてプラチナ・ゴールド・シルバーといった会員のランク付けをして、翌年のポイントの付与率を高くしたり、駐車場の無料利用券をサービスしたりする方法も効果的です。お客さんの中には来年の特別サービスを期待して、今年中にあと何万円の買い物をしようと考える人も出てくるからです。
 このようにすれば一人一人に合った情報を提供したり、頻繁に利用してくれるお客さんに特別サービスを提供したりすることで、お客さんにまた自分たちのお店を利用してもらい、ファンになってもらうことができるでしょう。ポイントカードは、あまり人手を使わずに買い物データを集計し分析することでOne-to-Oneマーケティングを可能にするから、実はお店にとっても大きなメリットがあるのです。

(4)お客さんを平等に扱わない
 なぜお店はファンづくり、お得意様づくりに真剣になるのでしょう。その理由は、新しいお客さんを増やすには、現在のお客さんを満足させて次の買い物をしてもらう5倍のコストがかかると言われているからです。一度買い物をしたお客さんにリピーターになってもらうぶんには、いつも他店を利用している人に自分たちのお店を知ってもらうための派手な広告や大安売りをする必要はないわけです。
 またマーケティングに携わる人たちの間では、2:8の法則とか3:7の法則ということばがよく知られています。これはお客さん全体のうち購入金額の多い上から2割か3割の人たちで、売り上げや利益の7割か8割を占めるというものです。だからこうした2割か3割のお客さんをお店につなぎとめることに真剣になるわけです。「お客様は神様です」ということばがありますが、ロイヤルティ・マーケティングでは必ずしもお客さんを平等には扱うわけではありません。One-to-Oneマーケティングはお客さん一人一人にあったサービスを提供していくのが重要なわけですから。
 次回はいよいよ最終回で、商品の流通が環境に与える影響や、エコロジー・マーケティングについて説明します。4月13日にアップデートする予定です。

参考文献・おすすめの1冊
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 フィリップ・コトラー著、木村達也訳『コトラーの戦略的マーケティング―いかに市場を創造し、攻略し、支配するか』ダイヤモンド社、2000年。世界的に有名なマーケティング研究者が「顧客の視点」に立つとはどういうことなのか、具体例を取り上げながら説明しています。どちらかというとビジネスマン向けなのですが、実践的なマーケティング手法を多く取り上げており、分量が多い割には読みやすい本です。

第5回:テレビ広告をすれば売上は増えるの? 販売促進(Promotion)戦略

(1)買いたくなるような刺激づくり
 テレビを見ているといろいろなコマーシャルが流れています。会社が自分たちで取り扱っている商品の売上を増やすために行う活動を販売促進といいます。テレビコマーシャルは僕たちがふだん最もよく目にする「広告」という販売促進の一つですが、これ以外にも商品の売上を増やす販売促進活動があります。その一つがスーパーマーケットで商品を大量陳列したり、おまけをつけて目立たせる「セールスプロモーション」という方法です。また、デパートなどで販売員が接客をするのも「販売員活動」という販売促進の一つの方法です。
 これら3つの販売促進は、消費者に情報を提供することで買いたい気持ちになってもらうという点は共通しています。しかしどの方法が商品の売上を増やすのに最も適しているかは、いつの時点の売上を増やしたいかや、販売する商品の性質によって異なります。そこで今回は販売促進戦略をいま挙げた3つの方法に分けて考えていきましょう。

(2)メディアを使って大勢の消費者に伝える ~ 広告・パブリシティ
 たくさんの会社が消費者の購入意欲を刺激するために、テレビやラジオ、新聞や雑誌、インターネットといったさまざまなメディアを通じて、自社商品をアピールしています。こうした宣伝活動のうち有料で行われるものを広告といいます。広告は商品の優れた面をコンパクトにまとめて繰り返し伝えることができるので、新商品を発売したときなど大勢の人々に短期間で商品を知ってもらうには有効な方法です。また広告が繰り返し行われることによって人々の記憶に残りやすく、長期間にわたる売上の拡大やブランドイメージの確立に役立つといったメリットがあります。
 もっとも、広告は単に有名なタレントを使って賑やかにすればよいわけではなく、その商品に興味をもつ人が共感をもてるような内容にしなくてはなりません。たとえば高校生に人気の出そうなゲームソフトの広告に、中高年に人気の高い大物演歌歌手を使ってもあまり意味がないですし、さまざまな人が利用する携帯電話のコマーシャルに出てくるのは、老若男女を問わず誰からも好かれそうなタレントが多いでしょう。自動車の広告であれば、スピード感を強調するだけではなく、安全性を伝えることも大事です。
 どのメディアで広告を行うかも重要な問題です。テレビや新聞は、さまざまな人々が目にする機会が多いので、一般的な商品を広告するのに適しています。たとえばデジタルカメラや冷蔵庫、自家用車のように大勢の人が興味を持ったり家族みんなが使っていたりする商品がこれに当たります。テレビ広告ならば15秒で百万円単位の費用が、全国紙の新聞で一面広告を掲載すれば千万円単位の費用がかかりますし、これ以外に製作会社への支払いも必要なので、多額の費用がかかることになります。しかしテレビや新聞を使うと大勢の人々に一度に情報を伝えることができるので、一人当たりに換算すればむしろ低額の広告手段であるということができます。雑誌やラジオは、「金融業界に勤めるビジネスマン」や「深夜放送の好きな高校生」というように読者やリスナー層を明確に絞ることができる場合が多いので、専門的な商品を広告するのに適しています。たとえば高級スーツや音楽ソフトのように、興味を持ちそうな人があまり多くなくターゲットを絞って広告を伝えたいときによく使われます。
 ところで、広告費を支払うことなく無料で記事として取り上げてもらう方法もあり、これをパブリシティといいます。パブリシティの大きなメリットは、商品の特徴や長所を自分たちで広告するのではなく、第三者がニュースという形で取り上げてくれるので、信憑性が増し、宣伝効果が高まるという点です。たとえばトヨタ自動車のプリウスのように、電気とガソリンを併用するハイブリッドカーが環境対策に有効であるというニュースが流れれば、値段が高くてもこうした自動車に興味を持つ人が増えるかもしれません。また納豆が健康維持に有効であるとテレビの情報番組で取り上げられると、翌日のスーパーマーケットで納豆が飛ぶように売れていることはよくあります。もちろん広告費を支払わずに宣伝してもらえるという点もメリットです。ただし記事に取り上げられるには、新商品の発売に当たって各種イベントを開催したり、さまざまな展示会に参加するなど地道な努力が不可欠ですし、思ったとおりの記事にしてもらえるとは限らないリスクもあります。

(3)店舗内で商品を目立たせる ~ セールスプロモーション
 広告やパブリシティは上手く宣伝できれば、消費者の間で商品の認知度が高まり、長期間にわたって売上の増加やブランドイメージの向上を見込むことができます。しかし、今日中に在庫の商品を全て売ってしまいたいとか、来週は1週間の売上目標を達成したいというように、短期間に売上を増加させたいときには広告やパブリシティでは遠回りです。これらの宣伝活動は、消費者がそれを目にした時点と実際に商品を買う時点にかなりの時間があいてしまい、とくに食料品や日用雑貨品のように低価格で日常的に買い物する商品の場合は注目度が低いために記憶にさえ残っていない場合が多いからです。
 そこで行われるのがメディア経由の宣伝ではなく、店舗内で商品を目の前にしている消費者に向けて行われるセールスプロモーションです。これは日本語に訳すと販売促進となりますが、広告や販売員活動を除いた狭い意味での販売促進のことを指しており、これらを含めた広い意味での販売促進と区別するために「販促」と略称されることもあります。たとえば店舗内での商品の大量陳列や、パネルやポスターの掲示による商品の強調、試供品やおまけの提供、期間限定の値引きクーポンの配布、などがこれに当たります。
 このようにセールスプロモーションは、商品を売っているその売場で消費者を刺激するという点で短期的な売上拡大をねらうものです。しかしセールスプロモーションは、やり過ぎると目新しさがなくなって、売上拡大の効果が薄れます。一般的に言って、スーパーマーケットの試食販売によってその食品の売上が増加するのは数日間ですし、値引きクーポンをいつでもどこでも配っていたら、値引き前の価格では商品は売れなくなってしまうでしょう。セールスプロモーションで売上を増やすためには、その実施方法や期間を適切に選ぶことが重要なのです。

(4)人からすすめられると買いたくなる ~ 販売員活動・クチコミ
 ところで広告やパブリシティ、セールスプロモーションは、メーカーや小売店といった売り手側から消費者への一方通行の情報伝達になってしまうというデメリットがあります。伝えられる情報量はテレビなら15秒とか雑誌なら1ページというように限られているわけですし、大量陳列やポスター掲示では商品を目立たせることはできても、顧客一人一人の質問に個別に対応することは難しいのです。
 そこで、3つめの販売促進方法として、営業部員や販売担当者のような人々が顧客にじかに接してセールスをするという販売員活動があります。衣料品店ではピンクのブラウスには何色のスカートが似合うか尋ねたり、革コートのお手入れ方法を確認したい場合もあるでしょう。デパートでは、さまざまな商品の使い方を説明する実演販売がよく行われています。もちろん消費者向けだけではなく、メーカーが営業部員を通じて小売店や、商品流通の仲介を行う卸売業者に自社商品の特徴を説明して売り込みをすることも重要な販売員活動です。こうした活動のメリットの一つは、商品の特徴の中から、顧客ごとに異なるそれぞれの知りたいことを優先的に伝えられる点です。また顧客から寄せられた質問やクレームを会社内に集めることで、自社商品の問題点を整理し、新商品の開発に活かすことが可能になる点もメリットです。
 販売員活動の難点は高コストになりやすいことです。販売員が顧客に一人ずつ個別対応で商品内容を宣伝していくのですから、顧客一人当たりに換算すると、その費用は低いものではありません。この対策としては、高額な商品の販売についてだけ接客をすることや、正社員だけではなくアルバイトやパートタイムの従業員にも販売活動を任せることが考えられます。
 ところで人がすすめることで商品の売上拡大につなげるという点で、販売員活動に似ているのがクチコミです。クチコミは、商品を販売している会社が行うのではなく消費者が行うという点と、販売員への給料や広告費のような対価を要せず無償でなされるという点に特徴があります。1990年代後半に大流行したバンダイの「たまごっち」という商品は、特別な広告をすることなく学校や塾での子供たちのクチコミによって人気が高まりブームとなりました。もともとクチコミは、このように友人とか家族といった身近な人を経由していたのですが、最近ではインターネットによって見ず知らずの人からのクチコミも増えています。たとえば、様々な商品価格の比較をしている価格.comや競売を行っているヤフーオークションでは、クチコミ評価が商品内容や取引相手を判断する重要な情報になっています。
 販売員活動やクチコミは、個々の消費者のニーズに合わせた情報提供がなされ、消費者の側からの質問もできるため、個別的アプローチや双方向のコミュニケーションが可能であるという点が大きな特徴です。

(5)消費者の指名買いをねらうか、商品を店舗に押し込んでいくか

 販売促進活動は以上のように3つに分かれますが、別の視点からのように2つに分けることも可能です。それは広告やパブリシティを通じて消費者に「この商品がほしい」と探してもらう方法と、小売店での大量陳列や接客を通じて「この商品がおすすめです」と売り込んでいく方法です。

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 前者はプル戦略といい、メーカーが直接的に消費者に商品をアピールすることで、その消費者が小売店で指名買いをしてくれるように仕向け、さらに小売業者が商品流通を仲介する卸売業者にその商品を指名注文させ、卸売業者もその商品を仕入れざるを得なくさせるものです。これは、商品へのニーズを消費者の側から引き寄せさせる(pull;プル)ことから、プル戦略と名付けられています。
 後者はプッシュ戦略といい、メーカーが卸売業者に対して、そして卸売業者が小売業者に対して、売上金額に応じてリベートという報奨金を支払ったり、商品陳列や販売を手伝うための人員を派遣することによって、ライバル商品ではなくて自社商品を積極的に販売してもらうものです。これは、自社の商品を営業力を使って、小売店つまり消費者の側に押し込んでいく(push;プッシュ)ことから、プッシュ戦略と名づけられています。
 今回までの4回で、マーケティング戦略に重要な製品・価格・流通チャネル・販売促進という4つのP(Product、Price、Place、Promotion)について説明してきました。会社はこうした戦略の組み合わせを基本に、商品の売上を増やす手法を考えているわけですが、時代とともにその手法も少しずつ変化しています。そこで2月7日に更新予定の次回は、新しいマーケティング戦略の中でもOne-to-Oneマーケティングについて紹介していきたいと思います。それでは皆さん、良いお年をお迎えください。

第4回:どこの店で売るか? 流通チャネル(Place)戦略

(1)売ってもらう店をあちこちに広げるか、絞り込むか
 だんだん涼しい季節になってくると暖かいものを食べたくなってきますが、皆さんはカップラーメンだったら何を買いますか。いつも決まった商品を買う人もいるでしょうが、店で目にとまったものを買うので毎回のように違う商品を買うという人の方が多いでしょう。僕たち買い手がこのような選び方をできるのは、どこの店に行っても、一つの店でたくさんのメーカーのカップラーメンを並べて売っているからです。ところが新しい自家用車を買おうという時はこうはいきません。新車を取り扱っているほとんどの販売店では、どこか1社の自動車しか売っておらず、トヨタと日産とホンダの車を並べて売ってはいないからです。エルメスやルイ・ヴィトンといった海外の高級ブランド品も同様で、メーカーの直営店がそのブランドの商品だけを販売しています。
 このように商品によって、たくさんの店で競うように並べて売っていたり、1社の商品しか売っていないといった違いがあるのはなぜでしょう。これは商品をつくっているメーカーが、商品を販売してもらう小売店を選んでいることがあるからです。このような売る場所(Place)にかかわるマーケティング戦略をチャネル戦略といいます。

(2)商品の特徴に応じた3つのチャネル戦略と最近の傾向

 4つのP戦略のうちのPlaceとは、販売の「場所」の意味ですが、より正確には商品の流通や販売の経路(マーケティング・チャネル)のことを意味するので、流通チャネル戦略といわれることが一般的です。そして、メーカーから卸売や商社といった中間流通業を経由して食品スーパーなどの小売業へと商品を流通させる経路のことをチャネルと言いますし、コンビニエンスストアやドラッグストア、百貨店といったいろいろな小売の販売業態のこともチャネルと言います。それではメーカーは自社商品を販売してもらう小売業をどのように決めているのでしょうか。このようなチャネル戦略には3つの方法があります。
 まず、食料品や日用雑貨のような低額の商品では開放的チャネル戦略がとられることが多いです。これはメーカーが自社商品の販売について、商品の販売先を選別することなく広く開放してどの小売店でも販売できるようにするものです。言い換えると、自社商品を販売してくれる小売店であれば、どこにでも商品を供給するというものです。この方法では、自社商品が多数の小売店で販売されるので、僕たち買い手の目に付きやすく売上の拡大につながりやすいというメリットがあります。一方、自社商品の販売を優先してもらうような融通はききにくく、ライバル企業の商品と並べて販売されるので、価格競争に巻き込まれやすいというデメリットもあります。
 次にこの対極にあるのが、新車や高級服飾ブランドのような高額の商品で行われることの多い、専属的チャネル戦略です。これはメーカーが一定の地域ごとに小売店を厳選してその地域での自社商品の独占的販売権を与える代わりに、その店が自社以外の商品を販売することを認めないものです。この方法では、開放的チャネル戦略の場合と比べてメーカーが小売店をコントロールすることが容易になるので、価格設定や販売方法などで融通がきくというメリットがあります。一方、自社商品の販売店が少ないので、知名度が高くないと買い手の目にさえ留まらないおそれがある点、ディスカウントストアが海外から並行輸入した有名ブランドの商品を販売しているように商品供給を完全にコントロールすることは困難である点がデメリットです。
 そして両者の中間的な方法が、化粧品や高品質の衣料品など比較的高額な商品で用いられることの多い、選択的チャネル戦略です。これはメーカーが長年の取引関係があったり、自社商品の取り扱いに協力的な一部の販売店を選別して優先的に商品を供給するものです。たとえば化粧品メーカーの中には比較的高価格の商品はドラッグストアのような価格競争の厳しい小売業者には供給せず、百貨店や商店街の化粧品店などいくつかの業態を選んで取り扱いを任せているところがあります。
 これら3つのチャネル戦略はどれが最適というものではなくて、それぞれ一長一短があります。たとえば自動車メーカーは安全性や乗り心地など細かな説明をして価格以外の長所を強調するために専属的チャネル戦略をとることが多いのですが、もし欠陥商品を製造し続けていたことが明らかになれば、そのメーカーの販売店を訪れる人がとだえて売上が激減するかもしれません。このようなリスクは、販売先を厳選しているために商品が買い手の目に付きにくいという点で、開放的チャネル戦略よりも高くなるでしょう。また、かつては専属的チャネルや選択的チャネル戦略をとっていた化粧品メーカーは、近年急増したドラッグストアの化粧品の販売力を無視することができなくなったので、比較的低価格の商品については開放的チャネル戦略をとってドラッグストアにも供給するようになっています。
 20年、30年という大きな流れで言うと、以前は家庭電化製品や化粧品といった専属的チャネルが一般的であった商品分野でも、開放的チャネルが増える傾向にあります。こうした傾向となっている理由の一つは、モノ不足の時代が終わってモノ余りの時代になったことや、大型店舗が増えて大量仕入れをするようになったことで小売業者のメーカーに対する優位性が増したからです。また海外商品の並行輸入や通信販売などさまざまな販売方法が可能になってメーカーの商品供給や販売方法のコントロールが困難になったことも理由の一つです。
 そこで次に、新しい販売方法の一つであるインターネット通信販売(以下、ネット通販といいます)について、今までの小売店での販売との違いについて考えてみましょう。

(3)ネット通販は街中の小売店での販売と何が違うの?

 ネット通販は街中に出店している店舗販売とは何が異なるのでしょうか。実際に店を構えているか、インターネット上の仮想店舗で販売しているかという店舗の有無が最大の違いですが、ここから以下のような相違点が出てきます。
 第一の相違点は、ネット通販は店の建築費や土地の賃借費といった多額の費用が不要で、Webサイトを開設して商品の画像を表示するという若干の費用を負担すれば取扱商品を容易に増やすことができるので、店舗規模や品揃えの制約がほとんどないということです。このことは売主にとっては、低コストで開業ができるとか取扱商品を容易に増やすことができるといったメリットになりそうですが、実際にはむしろデメリットとなるおそれの方が強いのです。
 店舗販売で多額の費用をかけて店舗を大型化し品揃えを豊富にするのは、他の店舗と差別化してより広範囲から来店客を集めるためです。しかしネット通販では品揃えを増やすことが容易であるために、この点で他社と差別化をするのは困難になるわけです。また品揃えをあまりに増やすと、買い手が欲しい商品を探すのに手間取るおそれも増えてきます。これを防ぐためには商品検索のシステムを向上させるとか、顧客が前に買った商品から次に買ってくれそうな商品を推測して画面に表示するシステムを導入するといった工夫が必要になりますが、そのためには多額の費用がかかります。たとえば書籍のネット通販で有名なアマゾン社はもともと書籍の販売しか行っていませんでしたが、現在では音楽ソフトやおもちゃ、家庭電化製品など品揃えを大幅に増やすとともに、顧客ごとに以前買った商品にもとづいた「おすすめ商品」を表示しています。このようなシステムづくりには多額の費用がかかるので、よほどの大手企業でなければネット通販市場で他社と差別化して生き残ることは難しいのです。
 第二の相違点は、ネット通販は買い手が交通費や時間をかけて来店するのではなく、パソコンの前に座ったままで欲しい商品を捜すことができるので、商圏の制約がない、つまり買い物をする際に買い手は自分の住んでいる場所や生活範囲にとらわれることがない、ということです。それでは売り手である企業にとって日本中、世界中の人びとを相手にできるというのはメリットなのでしょうか。実は商圏の制約がないということも売主にとってはデメリットである場合の方が多いのです。
 僕たちは街中の店で買い物をするときは、雑誌を買うなら近くのコンビニエンスストア、受験参考書を買うなら駅前の大きな本屋とか、学校の前のパン屋は近所で一番の人気店、というふうに自分の生活範囲に応じて自然と店を選んでいます。つまり店舗販売では、小さな店でもその地域ごとに顧客の人気を得て事業を続けていくことが比較的容易でしょう。しかしネット通販では商圏の制約がないために、あるネット通販企業の人気が高いとその商品分野では他の企業に買い手がなかなか集まらなくなるというおそれが強いのです。つまりネット通販市場では店ごとの順位づけが明確になってしまい、ある店が顧客の人気を得て高い売上シェアを獲得すると、他の店が売上を確保することは店舗販売の場合よりも難しくなってしまいます。ナンバー1よりオンリー1ということばがありますが、店舗販売では地域の一番店というオンリー1があちこちに生まれますが、ネット通販ではナンバー1にならないと生き残ることが難しいのです。
 そして第三の相違点は、ネット通販では売り手が提供できるサービスに制約があることです。店舗販売では実際の商品を見たり触れたり匂いをかいだりして、その商品の内容や品質を知ることができるでしょう。また店舗の立派な外観や内装、店員の商品知識といった様々なサービスを受けることもできるでしょう。ところがネット通販では、買い手は文字情報による詳細な商品の説明や商品画像を入手できても実物に接することができませんし、店舗の雰囲気や店員の接客態度によってお気に入りの店を選ぶこともできません。その結果、ネット通販ではサービス面での差別化が難しく、価格の安さが店舗選択の基準になりやすいのです。売り手である企業は一般的には価格競争を好まない、というのは第三回で解説したとおりです。
 このようなリスクを避けるため衣料や貴金属などの高級品メーカーでは、インターネット上で自社商品の紹介はするものの、ネット通販は行なわないというところが少なくありません。自動車や不動産のように安全性や使い心地など価格以外に伝えたいことがたくさんあるという商品分野でも、インターネット上である程度の情報入手はできても、商品購入まではできないことがほとんどです。もちろん低価格を武器にパソコンや家庭電化製品の販売をする店舗もあります。価格.comのような価格比較サイトを見ると、こうした企業がたくさんあることが分かります。このようなネット通販企業が増えてきたので、メーカーが専属的チャネルや選択的チャネル戦略を続けることが難しくなっているわけです。
 結局ネット通販は実際の店舗を構える必要がないので、低コストで事業に参入できるという点はメリットなのですが、企業間で差別化できる要素が少ないために、価格競争に行きつきやすいという点がデメリットなのです。そして価格競争で打ち勝つためには多額の資金力が必要となるので、小規模企業がネット通販で事業を継続することは容易ではありません。

(4)商品によって異なるチャネル戦略と販売促進戦略の選び方

 今回の説明したかったことの一つは、商品分野の特徴によって、ライバル商品と競わせてでもたくさんの店舗で売ってもらう方法と、独自のマーケティング戦略を貫くために直営店のようなごく限られた店舗にしか商品を供給しない方法があるということです。そしてもう一つは、最近盛んになっているネット通販は今までの店舗販売と異なり新規参入は比較的容易だけれども、価格競争に行きつきやすく、事業継続には多額の資金がかかるということです。
 ところで商品分野によって異なるのは流通チャネル戦略だけではありません。販売促進(Promotion)戦略も商品によって異なります。たとえば、テレビ広告が適している商品と、販売している店舗内での試供品の提供が適している商品とは違うのです。これについては次回、12月7日に更新する内容で紹介することにしましょう。

参考文献・おすすめの1冊
Basic







原田英生、向山雅夫、渡辺達朗『ベーシック流通と商業』有斐閣、2002年。小売業態が多様化した理由や流通の国際化の影響など最近の話題にもふれています。私が大学2年生向けの流通総論という授業で使っている教科書です。
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丸山正博『電子商取引入門』八千代出版、2004年。ネット通販で安全に買い物するには何に気をつけるべきか、オンライン・ネットワークを利用した売買に適している商品は何か、といった問題を分かりやすく解説した、私が大学3、4年生向けの電子商取引論という授業で使っている教科書です。

第3回:安く売ればいいの?価格(Price)戦略

(1)低価格で販売数を増やすか、高価格で儲けを増やすか
 もし、みなさんがフリーマーケットで自分の持ち物を売るとしたら、どのような価格をつけますか。いらなくなったものを処分するのだから安くても売れた方がいいという場合もあるでしょうが、高い値段で買ったものや愛着があるものなので安い値段では売りたくないという場合もあるでしょう。
 今回はマーケティングの4つのP戦略のうちで、商品にどのような価格を設定するかという価格戦略について考えます。低価格で販売すれば、商品の売上個数は増えるように思えます。しかしこのような方法では商品1個あたりの利益があまり出ないし、売れると信じてつくった商品を大幅に値引き販売していたのでは、企業イメージや商品のブランドを損ないかねません。そこで以下では企業のとる価格戦略について、①十分な利益を確保しつつお客さんに買ってもらえるような価格設定の方法、②ライバル商品との価格競争を避ける方法、という2点に分けて考えていきます。

(2)商品の値段はどうやって決まる?

 企業が行う商品の値段のつけ方のうちで単純なものは、商品を作るのに要した原材料費に、テレビ・コマーシャルなどの広告宣伝費や従業員への給料などの人件費といった販売管理費を加え、さらに商品1個あたりで稼ぎたい利益を加えた合計額を商品価格とする方法で、これをコストプラス法といいます。しかしこの方法は、お客さんのニーズに基づく買いたい値段ではなくて、企業の売りたい値段で商品価格を設定するという発想ですから、お客さんがその価格を高いと感じて、商品がほとんど売れないおそれがあります。モノや情報があふれた現在では、同程度の品質でもっと安い他の商品を選ぶことは容易ですし、値段の高い商品ならば安心して買うことができると単純に考えるほどお客さんは甘くないのです。
 そこでお客さんのニーズや競合商品の価格設定といった市場の状況をもとに商品価格を設定する方法が今日では一般的であり、これを市場価格基準法といいます。この方法は売りたい価格ではなくて、買ってもらえる価格に設定しようという発想です。
 ところで例外はありますが一般的に、お客さんにとって商品価格は安いほど好ましいはずです。一方で商品価格が安いと、たくさん売ることで商品1個あたりの少ない利益を積み重ねるという薄利多売を成功させない限り、企業にとっては十分な利益を確保することが難しくなります。そこで企業は値段のつけ方を工夫して、お客さんに「高くない」という値ごろ感をもってもらうことを考えます。
 そのひとつが、298円や9,800円といった端数価格です。300円ではなくて298円という価格にすることで値ごろ感を演出し、200円台で安いという印象を与えることを期待しているわけです。また、うなぎ屋や寿司屋のように松・竹・梅と商品の品質や内容に応じて値段を変えることも有効です。これは段階価格とよばれ、高い「松」に比べれば安いという値ごろ感や、最低価格の「梅」を選ぶのは格好悪いという見栄を利用することで、中位の「竹」を買ってもらうための方法です。実際にこのような段階価格をつけると、中程度の価格の商品の売上が最も高くなることが一般的です。さらに、かみそりやポラロイドカメラのように定期的に部品の交換が必要な商品では、本体の価格を低くして、交換を要する変動部分の価格を高くする方法もあります。これは、とりこ価格といわれます。低価格で初回の商品購入を促しておいて、使用回数が進むうちに必要となる交換代金で利益を回収するという方法です。携帯電話は毎月の使用料が必要ですが、新規加入時の電話の本体価格をとても安くしているのもこれに似た発想です。このようにして実際には企業が利益を損なうほどの低価格をつけずに、安さや値ごろ感を演出していることがよくあります。
 もっとも、安ければお客さんが常に買ってくれるわけではありません。例外的ではありますが、むしろ値段が高い方が売れる商品もあるのです。たとえば宝石や毛皮、伊勢海老やウニといった高級魚介類のように、高価だけれども品質の良し悪しが一見しただけでは分かりにくい商品の場合は、低価格をつけると「安かろう、悪かろう」と誤解されて、かえって売上が伸びないおそれがあります。ブランドイメージや高級感でお客さんに支持されている商品は、低価格がかえってマイナスになるわけです。また消費ニーズが多様化する中で、たとえば食事代を徹底的に切り詰めて腕時計のコレクションをするとか、最新鋭のホームシアター設備を購入するために衣服には全くこだわらないといった、個性的な買い物をする人が増えています。あるいは平日の昼ご飯はあり合わせのもので済ませているけれど、時にはコンビニエンスストアの高級おにぎりを食べるという人や、週末に家族が揃う食事のためにはデパートの地下の食品売場で豪華な惣菜を買ってくるという人もいるでしょう。このように低価格をつけなくとも、お客さんのニーズやこだわりに合った商品を売ることができれば、企業にとっては利益を確保しやすく望ましい状況となります。

(3)企業が避けたい価格競争

 企業が低価格をつけたくない理由の一つは十分な利益を確保できなくなるおそれがあるからですが、もう一つの理由は価格競争にはキリがないからです。A社が値段を下げればライバルのB社はより値下げをして、それに対抗するためにA社はさらに値段を下げる・・・。価格競争は、結局どちらか一方が利益をすべて失うまで徹底的・破滅的に行われやすいことから、相手の喉を切り裂くという意味でカット・スロート・コンピティションということがあります。
 それでは価格競争を避けるためにはどのような方法があるでしょうか。極端な方法としては、企業間で談合してライバル関係にある商品の値段をともに高く維持しておくやり方や、自社の商品を販売している卸売や小売企業に、あらかじめ決めた価格での販売を強制し、その価格を守らずに値引き販売をする企業にはその商品の取り扱いをさせないやり方があるでしょう。しかしこうした方法は原則として独占禁止法をはじめとする法律に違反するので、罰せられかねません。
 そこで価格競争を避けるためによく行われる方法は、ライバル商品とは異なる機能をつけたり、高品質にしたりといった価格以外の面で競争をすることです。ここではもう少し具体的に、二つの方法に触れておきます。
 一つは新商品の開発です。ライバル商品の存在しないような新商品を開発できれば、高価格でも売れることが多いでしょう。新商品の開発には膨大な研究費がかかっていることが一般的なので、こうした費用を回収するために高価格をつけて十分な利益を確保する必要もあるでしょう。このような商品は、前回取り上げた製品ライフサイクルの図では導入期に該当します。実際に、2・3年前の薄型テレビや、SONYのアイボのようなロボット型商品をはじめとして、導入期の商品には簡単に手を出すことができないような高価格がつくことが多いです。これは優れた新商品は相当高い値段でも購入するという消費者が高所得者を中心に少ないけれど存在するからで、このような少数のお客さんだけを対象にして、研究費などの費用を回収できるほどの高価格を設定することを上澄み吸収価格といいます。
 もう一つはブランド力の利用です。新商品とは異なり、製品ライフサイクルが成長期に入ると、ライバル商品が増えて価格競争が激しくなることが多いです。とくに売上を一気に増やして圧倒的な売上シェアを獲得してしまうために、ライバル商品に比べて非常に低い価格を設定する戦略をとる企業も出てきます。このように、今まで無関心だった人々さえもその商品を買いたくなるような圧倒的な低価格の設定を浸透価格といい、電卓やデジタル式腕時計を思い切った低価格で販売して売上シェアトップに躍り出たカシオの例が有名です。
 こうした価格競争を避けるためにはブランド力が有効となります。これは前回の内容の復習ですが、有名なブランドには、何度もその製品を買い続ける「お得意さま」がいるものです。たとえばルイ・ヴィトンなどの欧米の高級ブランドには、高くてもいろんな商品を何度も買ってくれるお客さんがいるわけです。こうしたリピーターがたくさんいれば価格競争とはほとんど無縁でいられまる。ブランドづくりは高級品に限らず重要です。皆さんもレンタルCDショップの会員カードや、いろいろなお店のポイントカードを持っていませんか。ああいう会員カードもお得意さまをつくるために重要なマーケティング戦略なのですが、これについては第6回目のOne-to-Oneマーケティングのところで説明していくことにしましょう。

(4)まとめ

 最近利用者が増加しているインターネット通販では、価格ドットコムのような価格検索サイトを利用するなどして、価格競争が激化する傾向にありますが、あえて高い価格で商品を販売するという戦略も有効であることが分かっていただけたかと思います。次回はインターネット通販も含めて、企業が商品を売る場所・お店をどのような基準で選択しているのかというチャネル(Place)戦略について考えていきます。

参考文献・おすすめの1冊
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上田隆穂編『ケースで学ぶ価格戦略・入門』有斐閣、2003年。価格戦略について、マクドナルドやユニクロなど身近な具体例を豊富に取り上げていて、とても読みやすいです。

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小原博『基礎コース マーケティング第2版』新世社、2004年。価格戦略に限らずマーケティング全般を体系的に、最新の話題も含めて分かりやすく説明している教科書です。

第2回:何をつくれば売上が増える? 製品(Product)戦略

(1)新製品を開発するか、すでに存在する製品の生産を増やすか?
 今回はマーケティングの4つのP戦略のうちで、何をつくれば売上が増えるのかという製品戦略について考えます。たとえばスナック菓子メーカーで売上がトップのカルビーは「かっぱえびせん」や「ポテトチップス」で有名ですが、その他にもたくさんのスナック菓子を製造し販売しています。しかしチョコレートやガムといった種類の菓子はつくっていません。
 これはなぜでしょうか。 
 たくさんのスナック菓子を取り扱っている理由は、もしごく少数の製品だけしか生産していないと、それらの製品が顧客に飽きられた等の理由で売上が大きく減少した場合に、会社の事業が成り立たなくなってしまうからです。

 一方でスナック菓子以外の製品をほとんど生産していない理由は、今ある経営資源を有効活用するためです。生産活動には資金が不可欠ですが、お金があれば何でもすぐにできるわけではありません。製品開発に関するノウハウや販売のための卸売・小売店とのコネクション、そして顧客への知名度を築き上げるには時間が必要なのです。
 このように製品戦略にはおさえなければいけない重要なポイントがあります。

 一つはすでに知名度の高い少数の製品だけを生産するのではなく、製品ラインアップを適度に広げて新製品の開発も続けていくことです。

 もう一つはやみくもに製品開発をするのではなく、経営資源を有効活用して売れる製品作りに力を注いでいくことです。

 そこで今回はこの二つのポイントに絞って考えてみましょう。

(2)「買いたい」と思われる製品をつくり続ける

 メーカーは何をつくれば製品の売上を増やしていくことができるのでしょうか。製品づくりは、いま売られている既存製品の生産を増やす場合と、まったく新しい製品の生産を開始する場合とに分けることができます。既存の製品がとてもよく売れているからといって、その製品だけを生産していれば良いわけではありません。
 その理由は、製品の売上には寿命があるので継続的に新製品をつくっていかないと、ある日突然に製品が売れなくなってしまう危険があるからです。新製品の評判がよくて当初は十分な売上があっても、流行の変化や技術の進歩により他社のさらに新しいライバル製品に売上を奪われることは少なくありません。このような環境変化が起こっても事業を継続的に行うために、多くの会社は製品売上の衰退期を予測して、その製品を改良して売上の寿命を延ばしたり、まったく新しい製品を開発したりしています。
 たとえばポテトチップスに「うすしお味」のほかに「バーベキュー味」や「バターしょうゆ味」といった様々な味つけがある理由のひとつは顧客に飽きられないためですし、自動車メーカーが多様な車種を製造するとともに、それらのモデルチェンジを分散させているのは、製品売上が同時期に衰退するのを避けるためです。
図1:製品ライフサイクル
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 製品が誕生してから最終的に売れなくなって生産を終えるまでの製品の売上の寿命のことを製品ライフサイクルといいます。ライフサイクルは製品によって異なりますが、図1のように、
①新製品が開発されたがまだ売上の少ない導入期
②製品の認知度が増すにつれて売上が急成長する成長期
③製品の普及率が高まり売上の成長率が止まる成熟期
④流行の変化などにより売上が年々減少していく衰退期
の4期に分けることが一般的です。
 製品ライフサイクルの変化は食品よりも電気製品で顕著なので、映像機器を例に挙げて考えてみましょう。
 導入期の製品としては、高画質での長時間収録が可能な次世代DVDがあります。この段階の製品は生産量が少ないために販売価格が比較的高く、知名度もあまりありません。製品本体での収録が可能なHDD(ハード・ディスク・ドライブ)内臓DVDレコーダーは、成長期の製品といえるでしょう。価格競争で販売価格が徐々に下がってきて、ボーナスで思い切って買ってみようかなと考える人が増えてくる段階です。
 成熟期の製品としては、収録はできずに映像を見ることだけができるDVDプレーヤーが当たります。この時期には、各家庭への普及率が相当高くなってくるでしょう。VHSビデオプレーヤーは衰退期の製品で、この段階になると特定のマニアや仕事で必要な人を除けば、新技術を利用した他の製品に買い換える人が増えるので売上は年々減少していきます。 こうした製品ライフサイクルがあるので、会社は新製品を継続的に開発していく必要があるのです。もっとも製品を生産しても、それを買ってもらえなければ意味がありません。そこで必要なのが顧客ターゲットの絞り込みです。性別や年齢、趣味や職業などから、その製品を買ってくれそうな人々の好みに合わせることは売上増加に効果的だからです。
 スナック菓子の場合、小学生を対象にするならば甘い菓子が好まれるでしょうし、高校生が対象ならば辛いほうが良いかもしれません。20~30歳代の女性をターゲットにするならば健康に気をつけてノンフライにする必要がありそうです。
 食品は地域によっても好みが異なります。総務省が全国約1万世帯の家計簿を集計して毎月公表している家計調査を見ると、マグロやサケといった赤身の魚は関東から北海道の東日本、アジやサバといった白身の魚は西日本の購入額が多い傾向にあり、かまぼこは仙台市、かつおは高知市の購入額が全国平均と比べて突出して多いことが分かります。こうした地域差を考えると、製品によっては販売地域を絞り込むことが有効となるかもしれません。

(3)ブランドづくりで「お得意さま」を増やす

 新製品をつくれば目新しさから当初は売上が増えることも多いです。しかし新製品はやみくもにつくれば良いわけではありません。それは研究開発や製造といった生産活動や、知名度を上げるための広告宣伝などの営業活動には、多額の資金や多大な労力が必要となるからです。また他に知名度の高いライバル製品があると、ためしに買ってくれたお客さんでも継続的に購入してくれる可能性は低くなります。
 一方、いま売られている既存製品やその関連製品の生産を増やすのであれば、大がかりな研究開発の必要性は低いでしょう。また、顧客への知名度もある程度あるはずなので活発な広告宣伝を行う必要性もそれほど高くありません。とくに売るための仕組みづくりというマーケティングの観点からは、知名度があるというのは大きな武器になります。
 顧客への知名度を向上させるために大事なのが、ブランド戦略です。ブランドとは自社の製品であることを示すためにつけられた名称のことで、日本語では商標とか銘柄と訳されます。カルビーの「かっぱえびせん」や花王の「エコナ」、トヨタの「カローラ」といった名称がこれに当たります。このような有名なブランドであれば、その知名度や信用力の高さから、顧客に選択してもらえる可能性が他社の製品よりも高くなります。またある製品のブランド名が有名になれば、他の製品にもそのブランドをつけることがよくあります。
 たとえば花王の「エコナ」はサラダ油の代替品として健康志向の強い顧客に支持を受けましたが、健康に良いというイメージがあるので、現在は同社のドレッシングやマヨネーズといった製品にも「エコナ」のブランド名がついています。このように有名なブランドには、何度もその製品を買い続ける「お得意さま」がいるものです。こうしたリピーターを増やすことができればブランドづくりは成功といえるでしょう。
 知名度を向上させるためには、ネーミングやパッケージも大事です。製品名には、顧客の興味を引くために一度聞いただけでは意味の分かりにくいものにする場合や、逆にストレートに製品内容の特徴を表すものにする場合もあります。分かりやすいネーミングで売上を増やした例としては、エステー化学のにおわない防虫剤「ムシューダ」や、小林製薬の喉の消毒薬「のどぬ~る」を挙げることができます。
 パスタやパスタソースの包装は赤、緑、白の三色が使われているものが多いです。これはイタリアの国旗をイメージしています。缶ビールの外見は琥珀色が圧倒的に多いです。もっとも最近は、たくさんの商品が並んでいる売り場で目立たせるために、あえて違う色を使う場合も増えています。スーパーの食品売り場に行けば、パスタの濃紺の包装や、赤や緑の缶ビールをすぐに見つけることができるはずです。 このようにいろいろな方法で製品の知名度を上げ、それによってリピーターとなる「お得意さま」を増やすブランドづくりをすることが大事なのです。そのためにはむやみに新製品を作るのではなく、自社のノウハウや知名度がある製品分野に絞って新製品をつくることが効率的なのです。

(4)大事なのはターゲットの絞込み

 今回の製品戦略をまとめると重要なのは絞りこみということになります。顧客ターゲットを絞り込んでそのニーズにあった製品をつくること、自社のノウハウや知名度がある分野を中心に新製品をつくることが大事なのです。その結果、顧客が買ってくれる製品をつくることが可能になるわけです。 もっとも顧客がどの製品を購入するかは、製品の内容に加えてその販売価格も重要な要素です。
 そこで次回は価格戦略について考えることにしましょう。

【参考文献・おすすめの1冊】
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沼上幹『わかりやすいマーケティング戦略』(有斐閣・2000年)
業界ごとの特徴や会社全体の経営戦略に注目し、具体例を豊富に取り上げることでマーケティング手法を分かりやすく説明しています。

第1回:ライバル製品に勝つには何をするべきだろう?

販売部長から新入社員への指令
  「スナック菓子の売上を増やす戦略を立案せよ!

もし、あなたがある食品会社に勤めていて、上司の販売部長から
わが社が販売しているスナック菓子部門の売上を増やす戦略を考えるように
と指示を受けたらどうしますか?
おいしい商品を開発する、低価格で販売する・・・・・・。
このようなアイデアを、マーケティング戦略といいます。
このコーナーで解説していくマーケティングとは、一言で説明すると、“会社が自社の取り扱う商品の売上を増やすための仕組みづくり”なのです。

それでは指示を受けたあなたは、どのようにしてマーケティング戦略を立てていけばよいでしょうか。実は、具体的なアイデアをいろいろと考える前に、一つ確認しなければならないことがあるのです。
そこで次のような質問をしてみることにしましょう。

新入社員から販売部長への質問
  「ライバル会社と比べた自社の位置づけは?

まずマーケティング戦略を検討する商品分野について、自分の会社をライバル会社と比較しておかなければなりません。ライバル会社と比べて売上高が多いか少ないか、商品開発の技術力が強いか弱いか、といった競争環境によって戦略が変わってくるからです。
ところで、日本で売られているスナック菓子のうちで、最も売上の多い会社はどこでしょうか? 
日本経済新聞社の推定によると2003年のトップはカルビーで以下、湖池屋、明治製菓と続き、このほかたくさんの会社がスナック菓子を製造・販売しています。
あなたの会社が売上首位の場合と、2位や3位の2番手グループの会社の場合、それよりもっと下位の会社の場合とでマーケティング戦略は大きく異なります。

たとえば売上トップの会社ならばそれに見合って、新商品を開発するスタッフや営業スタッフが多数配属されているでしょうし、十分な研究開発費や広告費を投じる余裕もあるはずです。
このように大きな力を持つ会社は、
リーダー
とよばれます。

次に2番手グループの会社は首位に立つためには、トップ企業のやることをまねして、さらにその会社が作っていない新商品を売り出すなど差別化をする必要があります。
このような会社はトップ企業への挑戦者ですから、
チャレンジャー
とよばれます。

さらに下位グループの会社は、売上高が多くないために利益も少なく、人材やお金といった経営資源を十分に割り当てることができない場合が一般的で、何もしないでいると力の強い上位の会社の販売攻勢に打ち負かされてしまいます。そこでこうした会社が生き残るためにとる戦略は、大きく二つに分けられます。
一つは売上トップや2番手グループの会社をまねして同じような商品をつくり、それを安く販売する方法です。あまり知名度のない商品であっても低価格をつければ、お店に置いてもらえ、お客さんに買ってもらえる可能性が増えてきます。
このような会社は上位企業をまねする追随者ですから、
フォロワー
とよばれます。

もう一つの方法は他社とは全く異なる商品をつくって、特別なこだわりのあるお客さんだけを相手にすることです。たとえばスナック菓子は油で揚げて塩味をつけたものが一般的ですが、キャラメル味にしてみるとか、駄菓子屋向けの商品を専門につくるのがこれにあたります。
このような会社は他の会社が相手にしないような、すきま(英語でニッチという)市場で生き残りを図るので、
ニッチャー
とよばれます。

マーケティング戦略を検討するときは、対象となる商品分野について、自分の会社が売上トップの「リーダー」なのか、首位を狙う2番手グループの「チャレンジャー」なのか、あるいは下位グループなら、大手のまねをして生き残りを図る「フォロワー」と、すきま市場で個性を発揮する「ニッチャー」のどちらを目指すのか、自分の会社をライバル会社と比較して位置づけた上で、その特徴にあった戦略を立てることが重要なのです。
それからもう一つ確認しなければならないことがあります。そこで次のような質問をしてみることにしましょう。

新入社員から販売部長への質問
  「この商品分野に会社はどれだけ力を注げるのか?

今度はマーケティング戦略を検討する商品分野を、会社の他の商品分野と比べてみなければなりません。会社が有する人材や資金力には限りがあり、それをどれだけ投入できるかによって、立てる戦略が変わってくるからです。
たった一つの商品だけを作っているという会社は、ほとんど存在しません。なぜならその商品が他社との競争や技術革新によって売れなくなった時に、会社が受けるリスクが大きすぎるからです。そこでほとんどの会社は複数の商品を製造・販売することで、どれか一つの商品が売れなくなっても会社の受ける影響が大きくならないように、リスクを分散するわけです。
ところで、会社が人材やお金といった経営資源を、複数の商品分野にどれだけ配分するのが効果的なのかを判断するために、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(以下PPMと略します)という方法があります。具体的には図 1のように各商品分野の市場成長率を縦軸に、その市場での自社の商品販売額の占める割合(これを売上シェアといいます)を横軸にとります。そして自社の商品をこの図の中に位置づけていくのです。

【図 1】プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)

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たとえば明治製菓という会社は「きのこの山」や「Fran」といったチョコレートで有名ですが、ほかにスナック菓子の「カール」や、ガムの「キシリッシュ」、さらに「銀座カリー」というレトルトカレーや、プロテインやビタミンなどスポーツ・健康食品など多数の分野の商品を製造・販売しています。
このうちチョコレート市場では、明治製菓はロッテや森永製菓といったライバル企業を抑えて、売上がトップです。またスナック菓子市場では、売上シェアは第3位です。しかしチョコレート市場全体の成長率は健康・ダイエットブームや少子化の影響で近年低下しており、スナック菓子市場の成長率も同様の理由から低下傾向にあります。
一方、スポーツ・健康食品市場は高成長が続いていますし、レトルトカレー市場も、食事に手間をかけない人々の増加や高級レトルトカレーの新発売によって拡大傾向です。
さてチョコレート分野について考えると、市場全体の成長率は低いですが、明治製菓の売上シェアはトップで高いですから、④に位置づけられます。④に位置づけられる商品分野は、市場の成長率が低いので新規参入する会社が少なく競争はそれほど激しくならず、売上シェアは高いので一般的に収益性も高いことから「金のなる木」とよばれます。
一方、市場の成長率が低くて自社の売上シェアも低い商品分野は、③に位置づけられます。低成長の市場では売上の拡大を見込みにくく、今の売上シェアの低い商品が挽回するのは難しいので、「負け犬」とよばれ、製造・販売の中止を検討した方がよいグループです。
また、レトルトカレーや健康食品のように市場全体の成長率が高い分野では新規参入する会社が多く、競争は激しくなります。でもこの分野では明治製菓の売上シェアはそれほど高くはありません。このような場合は②に位置づけられます。市場が高成長なので、今の売上シェアが低くても商品開発などいろいろな工夫をすれば、売上が一気に増える可能性があります。将来性はありそうだけど成功するかどうか、今はまだわからないので「問題児」とよばれます。
最後に、市場が高成長で売上シェアも高い商品は、①に位置づけられ「花形製品」とよばれます。高成長の市場のためにライバル会社も多く、高い売上シェアを維持するために積極的な商品開発や広告が行われ、社内の注目を浴びるからです。
自分の会社が扱うさまざまな商品分野をPPMの図に位置づけると、どの商品分野に優先的に人材やお金といった経営資源を配分すべきかが一目瞭然になるわけです。

売れるためには何をする必要があるだろう?

ここまで確認したうえで、いよいよ、スナック菓子の売上を増やす、というマーケティング戦略を具体的に考えていくことになります。
ここでは、どんな戦略があるか思いつくままに挙げてみましょう。
たとえば塩味以外にコンソメ味を作るなど味付けを増やす、大きい袋だけではなくて1回で食べきれる小袋も販売するといった方法が考えられます。これらは製品(英語でProduct)戦略といいます。
価格を低くつけたり、逆に高級感を出すため高価格をつけるという方法もあります。これらは価格(英語でPrice)戦略といいます。
また売る店を増やすという方法や、逆にデパートでしか販売しない、詳しく商品を説明するために訪問販売しか行わないという方法もあります。これらは売る場所に関する戦略ですから、流通チャネル(英語ではPlace)戦略といいます。最後に人気タレントでテレビコマーシャルをするとか、街中で試供品を配るといった方法もあるでしょう。これらは販売促進(英語ではPromotion)戦略といいます。
こうしたマーケティング戦略は英語の頭文字をとって、4つのP戦略とか4P’s戦略ということがあります。
次回はこのうち製品(Product)戦略について考えてみましょう。

参考文献・おすすめの1冊
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日経産業新聞編『市場占有率2005年版』(日本経済新聞社、2004年)
マーケティングの教科書ではありませんが、電気製品や食品をはじめ、さまざまな商品分野について販売上位企業のランキングや売上シェアを紹介してあり、有名な企業名もたくさん出てきます。
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相原修『ベーシックマーケティング入門(第3版)』(日本経済新聞社、2003年)
マーケティング全般を体系的に、しかしとっても分かりやすく簡潔に説明してある教科書です。

はじめに

 マーケティングの小部屋では、マーケティングという、企業が商品を売るための仕組みづくりを解説していきます。
 もし今、あなたが菓子メーカーの販売責任者として、社長さんから新商品の売上目標を与えられたら、どんな販売戦略を立てるでしょうか?
 こんな疑問点について、このコーナーで考えていきます。
 各回の予定は以下の通りです。

第1回:ライバル製品に勝つには何をするべきだろう?
第2回:どんな製品が売れる? 製品(Product)戦略
第3回:安く売ればいいの? 価格(Price)戦略
第4回:どこの店で売るか? チャネル(Place)戦略
第5回:どうやって売る? テレビ広告は効果的?販売促進(Promotion)戦略
第6回:これからのマーケティング1:One-to-Oneマーケティング
第7回:これからのマーケティング2:環境にやさしいエコロジカル・マーケティング