水島 治

  • Mizushima Osamu
    立命館大学法学部助教授。昭和49年、北海道にて生まれる。一橋大学大学院法学研究科博士後期課程修了。専攻は商法。

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最終回 取締役の違法行為の後始末~誰がどのような責任を負うのか?

 第5回から前回までで、新会社法が規定する株式会社の基本的な構造の説明が終わりました。
 そこで、今回はこれまでのお話を利用して、取締役が違法行為をした場合の法律上の後始末の問題を考えてみましょう。

取締役はどうして違法行為をするのか?

 新会社法は、制度上、監査役などのチェック機関により取締役の仕事ぶりをチェックさせています。ですから、取締役に職務怠慢(この極限が違法行為ということになります。)があれば、それはチェックの網に引っかかるはずです。
 しかし、現実に新聞やニュースなんかをみると、どうでしょうか?
 粉飾決算や違法な耐震基準のマンションの建設、あるいは無謀な事業拡大をして会社に大穴を空けたりと、「ホントにきちんと仕事しているかよ?」といいたくなるような取締役の話がたくさん出てきます。

 では、チェック機関があるのにも関わらず、どうしてこうした問題が生じるのでしょうか?

 これには、大きく2つの原因があります。
 まず、第1の原因は、取締役側に違法行為をする必要性とメリットがあるという点です。
 株主は会社の業務を専門家である取締役に任せて、その選任や解任といった人事権を通じて取締役をコントロールしています。このため、取締役は、自分のクビをつなぐためには、株主の期待に添う結果を出さなくてはならないというプレッシャーを受けることになります。

 では、「株主が期待する結果」とは、一体どのようなものでしょうか?
 当然ながら、株主は慈善事業で会社に投資しているわけではありません。あくまでも「投資に対するリターン」が欲しくて投資しているわけです。ですから、取締役に期待する結果は、株主が投資のリターンを獲得できる状況を作り出すという結果、もっといえば、

業績(利益の配当)と株価(キャピタルゲイン)の向上

ということになるわけです。
 ここで、取締役がその手腕を発揮して会社の業績を上げ、株価も上昇すれば、何の問題もありません。
 けれども、会社の業績が下がった場合はどうでしょうか?
 株主からすれば、取締役に対して高い報酬を払っているのは、「会社を儲けさせるため」ですから、業績は上がって当然、下がるなんてことは許されません。そこで、そのような取締役は、「無能」ということになります。
 とすると、取締役は自分の地位を守るためには、「とにかく業績や株価を下げない」というのが至上命題になるわけです。この結果、「多少ルールを破っても、成果を出さなければ・・・。」という誘惑にかられてしまうわけです。

 しかし、取締役がこうした誘惑にかられたとしても、違法行為がチェック機関にチェックされていれば問題は生じないはずです。
 ここに、

「チェック機関自体が機能していない」

という第2の問題が位置付けられます。
 ただ、新会社法がわざわざ作ったチェック機関が機能しないというのは、一見すると、不思議な気もします。
 しかし、よく考えると、監査委員会以外のチェック機関の選任・解任は、全て株主総会が行います。ここで、株主総会の決議は原則として議決権による多数決です。ですから、取締役が議決権の過半数を有しているような会社(比較的小規模な会社であることが多いと思います。)の場合、取締役は自分の意向に添う者をチェック機関に据えることが法律上可能となります。
 つまり、チェック機関として選任された者が、取締役に遠慮する現象が生まれるわけです。
 もちろん、こうした現象は、株主がたくさんいる大規模な会社の場合には、生じにくい現象です。でも、こうした会社の場合には、今度は組織や業務の内容も複雑になるために、限られた人数の監査役などが業務全般を完全にチェックすることは難しくなるわけです。

具体的な後始末

 取締役の違法行為がチェック機関の網をすり抜けた場合、それを遮るものは制度上何もありません。
 ですから、結果として誰かに損害が発生し、あとはその損害の穴埋めをするしか道は残されていません。

 これを具体例で考えてみましょう。
 例えば、マンションの販売会社であるA会社があるとしましょう。この会社の取締役Bは、マンションの価格競争に勝ち残るために法定の耐震強度を下回るマンションを販売することにしました。そして、A会社はCさんにこのマンションの1室を3000万円で売却する売買契約を結びました(図にすると、以下のような感じになります。)。

20060925143748621_0003

 これで、販売したマンションが違法な耐震強度であることがバレたとき、取締役Bの違法行為によりA会社とCさんがどのような損害を受けるか考えてみましょう。

A会社の損害とその後始末

 まず、この場合、こんな欠陥マンションを販売していることが分かれば、A会社からマンションを買う人はいなくなります。また、場合によっては、A会社に対して監督官庁などから免許の剥奪とか営業停止処分などが行われる可能性もあるでしょう。
 とすると、取締役Bの違法行為によりA会社が損害を被ることになりますから、A会社は取締役Bに対して受けた損害の賠償請求をすることができます(新会社法423条1項)
 さらに、A会社が取締役Bに対してこうした損害賠償請求をしない場合には、A会社の株主が取締役Bに対して、A会社に対して損害賠償を支払うように訴訟を起こすことができます(新会社法847条1項)。
 これを「株主代表訴訟」といったりします。

20060925143748621_0001

Bさんの損害とその後始末

 このマンションは通常の人では分からないような「隠れた欠陥」があったわけですから、Cはこのマンションの欠陥を理由としてA会社と交わしたマンションの売買契約を解除することができます(民法570条、これを売り主の瑕疵担保責任といいます。)。
 この結果、CさんはA会社に対して売買代金の返還や損害賠償請求ができますから、これによりCの損害の穴埋めができるわけです。
 しかし、こんなマンションを販売していることが明らかになれば、通常、売買契約の解除が殺到したり、取引先が取引を中止したりしますから、A会社にはめぼしい資産が残っていないという場合も少なくありません。
 この場合、Cさんは、いくら裁判で勝訴しても、現実にはA会社から損害の埋め合わせを受けることはできません。
 そこで、新会社法は、一定の要件を満たす場合には、Cさんが取締役Bに対して損害賠償を請求することを認めました(新会社法429条1項)。

20060925143748621_0002

 ですから、取締役Bは、会社だけではなく、会社の債権者に対しても責任を負うということになります。

連載の最後に

 これで全7回の連載が終わります。
 おそらく、皆さん、「誰が考えたんだか知らないが、正直、条文がたくさん出てきて、制度は複雑だし、他の小部屋と違って、ちっとも面白くない!!」という方も少なくないと思います。
 皆さんの気持ちは、とても良くわかります。こういっては怒られるかもしれませんが、別に理解しろとはいいませんし、今、楽しいと思う必要もありません。

 しかし、忘れないで欲しいのは、この会社法という法律、実は他の小部屋の話を読む上で非常に重要な役割を果たしているのだということです。
 そこで、最後にその話をして終わりにしましょう。

 他の小部屋は、経営にしろ、マーケティングにしろ、あるいはもっと大きく経済にしろ、そのお話は、
市場というフィールドに会社というプレーヤーとして存在している
ことを暗黙の前提としています。
 まあ、野球でいえば、巨人とか、阪神とかチームとそれが所属するリーグは既に存在していて、「どのようにプレーすれば、ゲームに勝てるのか(リーグ優勝できるのか)?」という点に分析の焦点を当てる学問といえるかもしれません。

 ただ、よく考えると、チームが存在するためには、誰かがチームを作る必要があります。また、チームを作るとはいっても、その構成がサッカーのチーム構成でもバレーボールのチーム構成も何でも構わないというわけにもいきません。
 ここに、チームの最低限の構成を決めるルールが必要になります。

 会社の場合も同じことです。
 会社も市場というフィールドで競争という名前のゲームをするわけですから、ゲームに必要な最低限のチーム構成を決めておかなくてはなりません。そして、このチーム構成を「お金」というキーワードを利用して体系的に整理したのが新会社法というルールになります。

 じゃあ、チームがあればゲームができるかというと、そうもいきません。
というのも、「何でもあり」のゲームでしたら、そもそもゲームなんか成り立ちませんし、そんなゲームでは、プレーヤーも観客も勝敗に納得するわけがありません。

 そこで、チーム構成のルールと同時にゲームのルールが必要になります。これが、会社の市場競争の場合でいうと、独占禁止法とか、証券取引法とか、いろいろな法律ということになります。
 ただ、ゲームのルールを定めても、それを破った者が何のペナルティもないならば、意味がありませんし、ルール違反によりダメージを受けた者がダメージを回復できないなら、これまた意味がありません。
 ですから、ゲームそれ自体のルールもさることながら、
「ルールを破った者(チーム)に対するペナルティを定めたルール」 
も非常に重要となります。
 これが、会社の場合でいえば、会社というチームの監督の地位にある取締役の責任ということになります。

 最近、「自由競争」という言葉がよく使われますが、これは決して「ルールなしの競争」ではありません。
 会社の規模が大きくなり、有名になるほど、その会社が競争に勝利することは、ある意味簡単になるかもしれません。しかし、そうした会社は、観客である社会からルールを遵守して競争に勝つという
「ゲームの勝ち方」「勝者としての正当性」
をより厳しく吟味されるようになりましたし、そうしたプロセスを経て、初めて「一流の会社」として社会から認知されるともいえるかもしれません。

 ですから、こう考えると、無味乾燥に見える新会社法も、経営学やマーケティングのようなゲームそれ自体を語る上で最も本質的といえる
「皆に自分が勝者であることを認めてもらう」
という1つの拠り所を与える重要な要素といえるわけです。

                         最終回 おわり

株式会社の仕組み(3)

 前回は、会社の業務の意思決定と執行についての新会社法の制度的な枠組みを見てきましたので、今回は、取締役の仕事ぶりをチェックする機関である「会計参与」、「監査役(会)」、「会計監査役」について、簡単に見てゆくことにしましょう。
 「あ~あ。まだやるのかよ。前回の話で疲れたよ~。」という人も多いでしょうが、もう少しだけ我慢して下さい。


どうして取締役の仕事ぶりをチェックする必要があるのか?

 会社の業務の意思決定やその執行についての新会社法の制度的デザインは、一見すると複雑です。しかし、その基本的な考え方は、

もっている権限を他に委譲する

という「分業」の発想にあります。

 こういわれると、皆さん、「今一つ、ピンと来ないなあ~。」と感じるかもしれませんので、1つ例を出しましょう。
 今、ある野球チームでピッチャーとキャッチャー以外の全員が1塁を守るとしましょう。
 この場合、1塁にボールが飛べばいいでしょうが、ボールが外野に飛べば、1累手が外野まで走って行かなくてはなりません。これでは、チームの守備は全く機能しません。そこで、チームの守備を機能させるためには、各メンバーに守備の範囲を割当てて、そこに権限と責任を与える必要があるわけです。
 新会社法が考える会社の業務の枠組みも、基本的にはこれによく似ています。
 株主が3000人いる会社で株主自身が会社の業務を全部とり仕切るのでは、全員1塁を守る野球チームみたいなもので、会社というチームがうまく機能しなくなります。そこで、取締役というメンバーに「お前は、業務というポジションを守れ!」という形で守備範囲を割り当てる必要が生まれてくるわけです。

 ただ、野球チームと会社とでは、根本的な相違が1つあります。
 それは、任せる人と任される人の間に「お金」という要素が介在するという点です。野球チームは試合に負けてもどうということはありませんが、会社は市場競争という戦いに負けると倒産してしまいます。
 また、会社の業務を取締役に任せるとはいっても、会社のお金は、取締役のお金ではなく、株主のお金です。そのため、取締役がいい加減な仕事をして、会社が倒産するようなことになれば、そのツケを最終的に支払うのは株主ということになります。
 もちろん、新会社法上、株主総会はいつでも取締役をクビにできます(新会社法339条1項)。ただ、クビにするにも、株主は、クビにするかどうかの判断をしなくてはなりません。そして、万が一でも、間違って有能な取締役をクビにしたのでは、元も子もありません。
 ここに、株主が取締役の仕事ぶりを正確にチェックする必要が生まれるわけです。

 じゃあ、チェックするのはよしとして、一体誰がその仕事をするのでしょうか?

 もちろん、会社が倒産した場合のツケを最終的に負担するのが株主であることからすれば、株主自身がそれをするのが本来の姿かもしれません。
 ただ、取締役の仕事ぶりを株主が始終監視しなくてはならないのならば、そもそも株主が取締役に会社の業務を任せた意味がありません。それに、会社の規模や業務の範囲が拡大すると、株主が会社の業務の全てについてチェックするのは難しいといえます。
 例えば、明治製菓という会社は、お菓子の会社として有名です。しかし、一方で抗うつ剤や抗生物質など医者が処方するような本格的な医薬品を製造する製薬会社としての顔をもっています。
 このように、現実の会社は、必ずしも1つの製品だけ生産しているわけではなく、全く異なる複数の製品を生産することも少なくありません。また、製品が複雑で高度な場合には、それを作るための会社の組織も複雑になります。ですから、株主が会社の業務を正確に把握するのは、皆さんが考えている以上に難しい仕事となるわけです。

 これに拍車をかけるのが、株式の「投資対象」としての性格です。
 つまり、皆さんの知っているような会社の場合、その株式はキャピタルゲインを生み出す投資対象としての性格を強く帯びています。このため、こうした会社の場合には、会社の業務に十分に精通していない人や無関心な人が株主となる可能性が高いといえます。
 これは、コンピュータソフトの知識のない人が、ソフト製作会社などの株式を買っていたりするのを想像すれば、イメージがつくのではないでしょうか。

 そんなわけですから、株主自身が取締役の仕事ぶりを正確にチェックする(チェックしようと意識させる)ことは、皆さんが考えるほどたやすいことではありません。

じゃあ、どうすればいいでしょうか?

 そう、何となく、落ち着き先が見えてきましたね。そうです。

 「取締役のお目付役」を誰かに任せてしまおう

という分業の発想を利用すればいいわけです。
 今回お話しする会計参与、監査役、会計監査人といったチェック機関も、新会社法が会社の業務運営の制度的デザインを考える際にベースにしていた分業という発想の延長線上にあるわけです。


何をチェックすればいいのか?

 さて、取締役の仕事ぶりをチェックするのはいいとして、では、どういう点に着目してチェックすればいいのでしょうか?
 まあ、考え方は色々あるでしょうが、大きく2つの点を挙げることができます。

うちの会社、どうよ?
 以前お話しましたが、株主は有限責任です(新会社法104条)。したがって、会社が倒産しても、株主は出資したお金を諦めれば、それで話は済むということになります。
 ただ、そうはいっても、倒産した会社の株主からすれば、「おいおい。出資した金を諦めれば済むなんて、涼しい顔していってるんじゃないよ!」というのが本音でしょう。
 有限責任とはいっても、株主にとっては投資したお金がフイになるわけですから、有限責任の下でも、株主が会社の置かれている状態に無関心であることが許されるわけではありません。
 そのため、株主は、常に、
 「今、会社は赤字なのか黒字なのか(いわゆる「業績」というやつです。)
 「どのくらいの財産をもっているのか(いわゆる「財産状態」というやつです。)」
といった点に大きな関心をもたざるを得ないわけです。
 そこで、新会社法は、株主がそうした情報にアクセスできるように、会社に対して各事業年度に貸借対照表、損益計算書その他会社の財産や損益の状況を示す書類(これを「計算書類」といいます。)の作成を義務付けています(新会社法435条2項、詳しくは、会計の小部屋なんかを見てください。)。

 ところで、会社の業績や財産状態というのは、よく考えると会社の業務の成果を表す指標なわけです。ですから、それを取締役の仕事ぶりとの関係で整理すると、
 「会社の業績や財産状態=会社の業務の成果=取締役の業務運営の成果」
という関係にあることが直感的には分かるはずです。
 この結果、業績や財産状態が、
 「良ければ(悪ければ)、取締役がきちんと仕事している(仕事してない)」
という推定が働くといえます。

 こういうと、皆さん、「なら、株主は計算書類に基づいて取締役のモニタリングをすればいいのであって、別にチェック機関がどうこうと騒ぐ必要はないのでは??」と思うかもしれません。
 まあ、確かに、それも一理ありそうですが、こうした皆さんの直感には、実は、

「作成された計算書類の記載が、真実ならば」

という暗黙の仮定が置かれています。
 というのも、確かに、新会社法上、計算書類の作成義務は会社に課されています。しかし、会社は生身の人間ではない以上、自分で計算書類は作成できません。また、計算書類を作成するには、会社の業務や財産などについて相当詳細な情報が必要です。
 とすると、法律の条文上は会社が計算書類の作成をするわけですが、実際には、その取締役が作成することになるわけです。
 何か、いや~な予感がしてきましたね。
 そうです。仮に会社の業績や財産状態が悪いとしても、取締役がそれを計算書類に正直に記載すれば、株主から「おまえら、ちゃんと仕事しとるのか!クビだ!」といわれかねません。
 そのため、取締役は、
 実際よりも良い業績や財産状態を計算書類に書こうとする誘惑
にかられるわけです(俗にいう、「粉飾決算」っていうやつですね。)
 ここに、

計算書類に対するチェック

が必要になるわけです。

取締役はちゃんと仕事しているの?
 計算書類が正確に作成されている場合、株主はそれに基づいて取締役の仕事ぶりを評価することができます。
 しかし、計算書類に現れる数字は「会社が既にやったことの結果」に過ぎません。ですから、計算書類が正確に作成されたとしても、それは株主が取締役の怠慢を事前に防止するためには余り役に立ちません。
 そこで、計算書類という「結果」の評価もさることながら、問題の芽をより早い段階で摘み取るべく、

取締役の業務運営を直接にモニタリングする必要

が生まれるわけです。


具体的なモニタリング機関を見てゆこう!!

会計参与
 会計参与とは、取締役と共同して計算書類を作成して、計算書類の正確性などを確保する機関です(新会社法374条1項)。
 ですから、会計参与は会計の知識のない人では困るわけです。そこで、新会社法は、会計参与となる者に公認会計士又は税理士の資格を要求しています(新会社法333条1項)。
 会計参与という機関は、新会社法で初めて採用された制度ですから、その意味で目新しい制度といえます。
 しかし、計算書類の作成は時間と労力が必要ですから、新会社法の制定前も中小企業などでは税理士に計算書類の作成を任せたりしていました。ですから、そうした面からすると、会計参与という制度は、何もない所から突如として出現したわけではなく、むしろ従来の実務に制度的な枠をはめて整備し直したものと見ることもできます。
 そんなこともあり、会計参与は株主総会が選任しますが(新会社法329条1項)、全ての会社について任意的機関となっています。

監査役
 監査役とは、取締役や会計参与の職務を監視・監督する機関のことです(新会社法381条1項)。新会社法では、取締役に会計参与、監査役を加えた者を総称して「役員」といいます(新会社法329条1項)。
 監査役は、株主総会の決議により選任されますが(新会社法329条1項)、
①委員会を設置していない取締役会設置会社
②委員会を設置していない会計監査人設置会社
③譲渡制限会社及び委員会設置会社でない大会社

の場合には、必要的機関ですが(新会社法327条2項・3項、同法328条1項。)、それ以外の会社の場合には任意的機関となっています。

 では、監査役と会計参与の違いは、具体的にどのような点にあるんでしょうか?
 違いは色々ありますが、最も根本的な違いは、会計参与の場合には、取締役と共に計算書類の作成を行いますが、監査役の場合には、会社の会計面のチェック(これを「会計監査」といいます。)と取締役の業務のチェック(これを「業務監査」といいます。)の2つのチェックを行う点にあります。
 つまり、

監査役の仕事=会計監査+業務監査

なわけです。
 ですから、監査役は会計参与よりもチェック範囲が広いといえるかもしれません。

会計監査人
 会計監査人とは、会社の計算書類をチェックする機関のことです(新会社法396条1項)。

 会計監査人は、株主総会の決議により選任されますが(新会社法329条1項)、
 ①委員会設置会社
 ②大会社

の場合には、必要的機関(新会社法327条5項、同法328条)、これ以外の会社の場合には任意的機関となっています(注)

 会計監査人の仕事は計算書類のチェックですから、チェック対象という側面からすれば会計参与と似ています。このため、新会社法上、会計監査人は公認会計士又は監査法人でなくてはなりません(新会社法337条1項)。
 ただ、両者は、
 ①会計参与は取締役と共に計算書類の作成をするのに対し
  て、会計監査人は作成された計算書類のチェックをする点、
 ②税理士資格では、会計監査人になることはできない点、

などに違いがあります。

監査委員会
 さて、これまでの話は、委員会を設置していない会社の取締役に対するモニタリングのお話でした。
 そこで、最後に、委員会設置会社におけるチェック体制を見ておきましょう。

 前回もお話ししましたが、委員会設置会社は、指名委員会、報酬委員会に加えて、
 ①執行役・取締役の職務の監督
 ②監査報告書の作成
 ③株主総会に提出する会計監査人の選任・解任案の決定

を行う監査委員会を設置しなくてはなりません(新会社法404条)。
 上記の①から③を見れば分かると思いますが、監査委員会の仕事は、監査役とほぼ同じものとなっています(実際、権限や義務も監査役の場合とほぼ同じです。)。
 つまり、委員会を設置していない会社の監査役は、委員会設置会社の監査委員会に対応しているわけです。

 監査委員会は、3人以上の構成員(これを「監査委員」といいます。)で構成されますが(新会社法400条1項)、監査委員は、
 ①取締役の中から取締役会の決議により選定され(新会社法
  400条2項)、
 ②その過半数が社外取締役(新会社法400条3項)、

でなくてはなりません。
 したがって、監査委員会は、監査役よりも会社の業務運営の内部からチェックを行うことが期待されているといえます。
 また、委員会設置会社の場合には、監査委員会の設置義務に加えて、会計監査人の設置義務も課されています。ですから、委員会設置会社の会計については、二重のチェック体制が敷かれているわけです。

今日のまとめ

 これで、新会社法における取締役の業務運営に対するチェック体制のお話は終わりです。
 「おれ、もうパス。」という、あなたのために、これまでお話ししてきた会計参与、監査役、会計監査人、監査委員会の4つを大まかに比較した<チェック機関対照表>を作ってみました!!

<チェック機関対照表>

     会計参与  監査役 会計監査人 監査委員会
選任
機関
        株主総会 取締役会
公的
資格
税理士
公認会計士
  不要 公認会計士
監査法人
  不要
役割 計算書類の作成 会計監査+
業務監査
会計監査 会計監査+
業務監査

 さて、いずれにせよ、これで「新会社法は、色々なチェック体制を制度的に整備しているから、取締役が法律違反みたいな問題を起こすことはありません。」と締めくくれれば、この連載も「一件落着」とめでたく終わることができます。
 しかし、実際には、いろいろな要因が絡み合って、取締役の怠慢や違法行為がチェックの網に引っかからないこと(場合によっては、チェック自体機能していない)も少なくありません。
 そこで、次回は、起こってしまった問題の法的な後始末についてお話することにしましょう。
(最終回は5月17日更新予定)

株式会社の仕組み(2)

 株主総会は、会社の出資者である全株主により構成される意思決定機関ですから、本来、その会社の全ての意思決定をすることが可能なはずです。ただ、ソニーとか、トヨタとか皆さんのよく知っているような会社の場合、株主も相当な数になりますから、全ての意思決定を株主総会が行うというのは、必ずしも現実的ではありません。
 そこで、新会社法も、株主総会に会社の意思決定権を与えつつも、業務の意思決定権は株主総会と別の機関に委ねるという制度的なデザインを採用しています。
 というわけで、今回は、新会社法における会社の業務の意思決定の制度的なデザインを簡単に見てゆくことにしましょう。
 少し話が難しいかもしれませんが、ここが今回の連載の「ヤマ場」になります。

会社の機関のラインナップ

 新会社法も、旧会社法と同様、株主総会の他に会社の業務の意思決定を行う機関として取締役を設置しなくてはなりません(新会社法236条1項。このように法律上設置が義務付けられている機関のことを「必要的機関」といいます。)。

 しかし、新会社法の場合には、取締役以外の意思決定機関は、

 ①譲渡に際して会社の承認を必要とする株式を発行している会社
  (これを「譲渡制限会社」といいます。)か、そのような制限が課
  されていない会社(これを「公開会社」といいます。新会社法
  2条5号)か。
 ②最終事業年度の貸借対照表に資本金として計上した額が5億円
  以上又は負債の部に計上した額の合計額が200億円以上の会
  社(これを「大会社」といいます。新会社法2条6号)か、そうでな
  い会社か。
 ③会計監査人の設置が強制されている会社(これを「会計監査人
  設置会社」
といいます。新会社法2条10号)か、そうでない会社
  か。

といった要素の組み合わせにより、多様な機関の組み合わせが認められています。
 とりあえず、基本的なラインナップの一覧を以下のような表にまとめてみました。

(1)公開会社の機関のラインナップ
Law1_edited (2)譲渡制限会社の機関のラインナップ Houritu1_1
 上記の表を見るだけで、「なんだ。こりゃ~。」と嫌になってしまう人もいるかもしれません。
 まあ、その気持ちはよ~く分かります。ただ、少し落ち着いて見ると、それぞれの選択肢を構成しているパーツは結構だぶっていますから、そう考えると、少しはやる気が出てくるでしょうか?
 ともあれ、今回は上記の表にある「取締役」、「取締役会」、「委員会」、「執行役」というパーツについて、ざっと見ていきましょう。

取締役ってなに?

 先ほども話したように、新会社法上、取締役は必要的機関ですが、その人数は1人以上であれば何人でもかまいません(新会社法326条1項。但し、取締役会設置会社は3人以上設置しなくてはなりません。新会社法331条4項)。ただ、実際には比較的小規模な会社でも、取締役が複数いることが多いと思います。

 では、新会社法上、取締役になれるのは、どのような人なのでしょうか?
 実は、新会社法は取締役なることのできる条件を直接に規定していません。ただ、取締役になることのできない原因を規定しています(これを取締役の「欠格事由」といいます。新会社法331条1項。)
 新会社法が取締役の欠格事由として定めるのは、以下の4つです。

 ①法人
 ②成年被後見人成年被保佐人
 ③新会社法・証券取引法・破産法など会社に関連する法律に規定
  される罪を犯し、刑に処せられ、又は刑を受けることがなくなった
  日から2年を経過しない者
 ④③以外の罪を犯して禁固以上の刑に処せられ、又は刑を受ける
  ことがなくなるまでの者(但し、執行猶予中の者は除きます。)

 上記①から④の欠格事由に該当しない限り、誰でも取締役になることができますから、未成年者が取締役となることも法的には可能です(但し、法定代理人の同意などは必要です。民法5条1項)!!
 ただ、日本の会社における取締役は、従業員にとっての「キャリアの終着点」という色彩が伝統的に強く、従業員が取締役を兼ねている場合も少なくありません。このように会社と密接な関係を有している取締役のことを「社内取締役」、こうした関係を有していない取締役のことを「社外取締役」(新会社法2条15号)といいます。

会社の業務の意思決定と執行の関係はどうなっているの?

 昼食を食べるとか、買い物に行くとか、私たちは日常生活でいろいろな活動をしますが、こうした活動は細かく分析してゆくと、「何をするかの意思決定→意思決定したことの実行」という2つの段階から構成されています。
 会社の業務も、こうした私たちの日常の活動と同様に、「業務の意思決定→決定された業務の実行(これを業務の「執行」といいます。)」という2つの段階から構成されています。
 ただ、私たち生身の人間はこの2つの段階を同じ人間が行うわけですが、会社は生身の人間ではないですから、私たちと全く同じというわけにはいきません。そこで、新会社法も、必要的機関である取締役を出発点として、この2つの段階を分けて制度的なデザインを行っています。

 まず、取締役が1人しかいない場合には、この取締役が業務の意思決定とその執行を一手に引き受けます(新会社法348条1項、同349条1項本文)。
 この場合の会社の業務の意思決定と執行は、
      「意思決定=執行=取締役」
となります。

 では、取締役が複数いる場合には、どうでしょうか。
 この場合、会社の業務の意思決定は取締役の合議(多数決)により行われ(新会社法348条2項)、決定された業務の執行権限は各取締役に与えられています(会社の業務についての裁判上及び裁判外の行為をする権限のことを「代表権」といいます。新会社法349条2項。)。
 したがって、この場合の会社の業務の意思決定と執行は、
  「意思決定=取締役の合議、執行=各取締役」
となります。

 もっとも、この場合に全ての取締役が代表権をもつと会社の業務執行が混乱する可能性もありますから、特定の取締役だけに代表権を付与することもできます(この取締役を「代表取締役」といいます。新会社法349条3項。詳しくは、後でお話します。)。

取締役と取締役会

 取締役が複数いる場合、会社の業務の意思決定は取締役の合議により行うとお話しました。
 しかし、新会社法は会社の意思決定を行う機関として、取締役全員により構成される「取締役会」という機関を設置することを認めています(新会社法362条1項)。ちなみに、取締役会を設置した会社のことを「取締役会設置会社」といいます(新会社法2条7号)。
 この取締役会という機関は、旧会社法では必要的機関でした。
 しかし、新会社法の場合には、
 ①公開会社(新会社法2条5号)
 ②監査役会設置会社(新会社法2条10号)
 ③委員会設置会社(新会社法2条12号)
以外の場合には設置が強制されていません(新会社法327条1項)。
 ですから、上記①から③に該当しない会社は、取締役会を設置するか否かを自由に決定することができます(このような機関を「任意的機関」といいます。)。
 ただ、そもそも取締役が複数いる場合、その合議により業務の意思決定ができるわけですから、「別に、あえて取締役会を作る意味はないのでは?」ともいえそうです。そこで、新会社法は、個別にいくつか条文を作って、取締役会設置会社の場合には、新会社法で株主総会の決議が必要ないくつかの事項を取締役会の決議で足りるとしました。
 株主総会の開催には多額の費用や時間が必要ですから、こうしたメリットは会社にとっては非常に魅力的であるといえます。ですから、現実には、新会社法の下でも多くの会社は取締役会を設置すると予想されます。

 さて、取締役会を設置した場合、会社の業務の意思決定とその執行はどのような仕組みで行われるのでしょうか?

 新会社法上、取締役会の職務としては、
 ①業務執行の決定
 ②取締役の職務執行の監督
 ③代表取締役の選定及び解職
の3つが規定されています(新会社法362条2項)。

 重要なのは③です。この結果、取締役会は取締役の中から代表取締役を選定しなくてはなりません(新会社法362条3項)。つまり、後述する委員会を設置しない限り、取締役会設置会社は代表取締役も設置しなくてはならないわけです。
 先ほども話しましたが、代表取締役は会社の業務執行を担当するわけですから、このことを考慮すると、取締役会設置会社の業務の意思決定と執行は、
    「意思決定=取締役会、執行=代表取締役」
となります。
 そうした意味では、取締役会設置会社は、取締役しか設置していない会社よりも業務の意思決定と執行の分業が進んでいるということがいえるわけです。

 というわけで、取締役会設置会社の構造を図にすると、以下のような感じになります。
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代表取締役ってなに?

 さて、先ほどから「代表取締役」という言葉が何回か出てきましたが、この代表取締役についてもう少し詳しく見てみることにしましょう。
 新会社法上、代表取締役は業務執行を行う1つの機関ですが、先ほどもお話したように、取締役しか設置していない会社の場合には任意的機関、取締役会設置会社の場合には必要的機関となっています。
 いずれにせよ、代表取締役を設置した場合、会社の裁判上・裁判外の全ての行為は代表取締役が一手に引き受けることになります。ですから、代表取締役は会社の業務の意思決定に対しても事実上強い発言力や影響力をもつことになります。

 ところで、既にレクレの他のコーナーを読んだ人ならわかると思いますが、経営学などの世界では、「経営者」(もう少し広い意味で「経営陣」という場合もあります。)という言葉がよく出てきます。
 ただ、この経営者という言葉、実は新会社法上の用語ではありません。ですから、同じように会社を対象としている学問であるにも関わらず、新会社法の本には経営者という言葉は殆ど出てきません。ですから、皆さんが、経営学なんかのコーナーを読んでから、このコーナーにやってくると、「おいおい。取締役の話ばっかりで、経営者はどこに行ったんだ?」と思うかもしれません。
 「経営者とはなにか?」という問題は、よく考えると難しい問題です。ただ、それは学者たちに任せるとして、皆さんが、このレクレの他のコーナーを読むときには、「経営者≒代表取締役」、「経営陣≒代表取締役+取締役」くらいでイメージしてもらうといいと思います。

 さて、話を元に戻しましょう。
 代表取締役を選定するのはいいとして、では代表取締役になれるのは、どんな人なのでしょうか?
 こう聞くと、意外と多くの人が「社長でなければ、代表取締役になれないのではないか?」と思っていたりします。実際、社長さんの名刺の肩書きには、「○○会社 代表取締役社長△△」と書いていたりします。ただ、新会社法上は、代表取締役は取締役であれば足り(新会社法362条3項)、別に社長である必要はありません。
 このように、新会社法は代表取締役の資格と社長のような職制上の名称をリンクさせていませんから、取締役であれば部長でも代表取締役になれますし、逆に代表取締役でない社長もいます。
 こういうと、皆さん、「じゃあ。代表取締役部長と取締役社長、どっちがえらいんだ?」と思うかもしれません。何を基準に「えらさ」を評価するのかという問題はありますが、少なくとも新会社法上の権限を基準とすると、代表取締役部長の方が業務執行権をもっているという意味で「えらい」といえるかもしれません。

 こうした関係が比較的きれいに出てくるのが、社長と会長の関係です。
 皆さんの周りの会社では、社長の上席に「会長」という役職がよく置かれます。この会長という役職は、社長であった人が引退して会社のご意見番的な立場になったことを対外的に表明するために就任する役職といわれたりします。こうしたニュアンスがきれいに現れるのが、「代表取締役社長、取締役会長」という職制上の名称と新会社法上の地位のズレなわけです。
 ただ、実際には、代表取締役社長が会長就任後も代表取締役であり続けることも結構あります。
 この場合には、会長という役職は引退という意味を帯びることはありません
 例えば、同族経営の会社の場合、代表取締役社長である父親が息子に社長職だけを譲り代表取締役会長になることがあります。これは、一見すると、父親が引退して息子が跡を継いだという見方もできます。しかし、これまでの話から考えると、こうした人事の実質的な意味は「息子は社長にするが、会社の切り盛りは依然として父親が行う。」という意思表示といえるわけです。
 「代表」というたった2文字の肩書きのズレ、皆さんが思っている以上に大きな意味をもっていることが少しはイメージできたでしょうか。

委員会と執行役

 先ほどもお話ししたように、取締役会は会社の業務の意思決定と取締役の職務執行の監督という2つの機能を1つの機関が担当しています。
 ただ、この場合、取締役会が業務の意思決定と取締役に対する監督の2つの役割を担うわけですから、取締役会が高いパフォーマンスを維持することは難しいといえます。また、職務の意思決定を行う機関がその構成員の監督をするわけですから、「きちんと監督できるのか?」という気もします。

 そこで、こうした問題を解決するために、取締役会の意思決定機能と監督機能をそれぞれ別の組織(これを「委員会」といいます。)にするという発想が生まれることになります。

 新会社法は、会社が取締役会の設置に加えて、取締役3名以上(うち過半数は社外取締役。新会社法400条1項、3項)により構成される
 ①指名委員会:取締役の選任及び解任についての議案の内容を
  決定する委員会(新会社法404条1項)
 ②監査委員会:取締役らの職務執行を監査する委員会(新会社法
  404条2項)
 ③報酬委員会:取締役の報酬内容を決定する委員会(新会社法
  404条3項)
の3つの委員会を設置することを認めています。
 この3つの委員会を設置した会社を「委員会設置会社」といいます(新会社法2条12号)。

 では、委員会設置会社の業務執行の意思決定とその執行は、一体誰が行うのでしょうか。
 新会社法では、委員会設置会社の取締役会は、業務の意思決定を行う「執行役」の選任と業務を執行する「代表執行役」を選定しなくてはなりません(新会社法402条1項・2項、同法420条1項)。
 この結果、委員会設置会社の業務の意思決定とその執行は、
  「意思決定=執行役、業務執行=代表執行役」
ということになるわけです。

 以上のことから、委員会設置会社の構造を図にすると、以下のような感じになります。取締役会設置会社と比べると、かなり複雑な構造になっているのがわかりますか?
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今日のまとめ

 さて、今日は、新会社法における業務の意思決定とその執行の仕組みを見てきました。
 正直、皆さん、「いろいろな言葉が出てきて、頭が混乱する。もう少し選択肢の少ない簡単な制度にできないのか。」と怒り爆発かもしれません。
 ただ、新会社法が業務執行の意思決定とその執行のバリエーションに幅を持たせた結果、それぞれの会社は、その規模や業務の内容などの様々な事情に見合った機関の選択が制度的に可能になるというメリットを享受することになります。そして、そうしたメリットは、とりもなおさず、「迅速な会社経営」を制度的に実現するものといえるわけです。
 そんなわけですから、多少の面倒くささは許してあげてください。

 さて、次回は、新会社法における会社の業務のチェック体制についての制度的な枠組みを見てゆくことにしましょう。
(次回は3月18日更新予定)

株式会社の仕組み(1)

 前回は、合名会社、合資会社、合同会社、株式会社という法律上の4つの種類の会社についてごく簡単にみてきました。
 ただ、前回の最後にもいいましたが、会社の種類が4つあるからとって、世の中にそれらの会社が同じ割合で存在するわけではなく、その多くは株式会社です。ですから、株式会社は、法律学という学問領域の観点からだけではなく、私たちの実生活という観点からも非常に重要な会社ということがいえるわけです。
 そこで、これから何回か使って株式会社の仕組みをもう少し詳しく見てゆくことにしましょう。

株式会社の経営の仕組みを見てみよう

 株式会社の仕組みを考える前に、まず株式会社の経営はどのような仕組みで行われているのかを大まかに見ておきましょう。
 まず、以前もお話ししましたが、株式会社とはいっても、元手がなければどうにもならないわけですから、元手を出す人、つまり社員、が必要なことは以前説明しました。ちなみに法律の世界では、株式会社の社員のことを「株主」といいます。
 株主は株式会社に対して元手を出しているわけですから、本来、その株式会社の経営を全部取り仕切ることができるはずです。実際、合資会社や合名会社の場合には、社員が経営を取り仕切ることが前提とされた仕組みが採用されています。ですから、株式会社の経営の場合にも、株主全員がどこかに集まって(株主が集まって会社の経営を取り決める会議のことを「株主総会」といいます。)、会社の経営をどうするか相談して決めるのが本来の姿ともいえます。
 しかし、株主は有限責任のおかげでリスクが押さえられていますから、「この会社がうまくいきそうだ!!」となれば、大して経営に興味のない人たちも集まってきて、結果として非常に多くの人が株主となることになります。例えば、2005年3月31日現在、ソニーには、国内外の法人と個人併せて783,263人、NTTドコモでも361,924人の株主がいます。東京ドームでも大体45,000人入れば大入り満員です。ですから、仮に株主総会の議場に来る株主が全株主の数%であったとしても、みなさんの知っているような有名な会社の場合、株主がみんな集まって経営の意思決定を全部するなんてことは、とてもじゃないがやってられません!!
 じゃあ、どうすればいいでしょうか?
 一番手っ取り早い方法は、株主総会での決定事項を本当に重要なものだけにして、会社の日常的な業務についての意思決定を誰か他の人に任せてしまえばいいわけです。これだと、株主は年1回くらい集まって会社の基本方針とか大まかなことだけ決めれば何とかなりそうです。会社の業務の意思決定とそれを実行する人のことを「取締役」といいます。ちなみに、有価証券報告書には取締役の記載もあるのですが、これを見ると、ソニーで12人、NTTドコモで13人ですから、株主数に比べれば非常に少ない数になっています。
 ところで、こんな話をすると、アレッと思う人もいるでしょう。
 そう、実は社長、専務、課長といった言葉は法律の世界の言葉ではありません!!これは、それぞれの株式会社が独自につけた名称(肩書き)で「職制上の名称」とかいわれます。ですから、取締役が1人もいない株式会社は法律上許されませんが、社長や部長のいない株式会社は法律上問題ありません。例えば、銀行なんかだと、普通の会社の社長に相当する人を「頭取」といったりします。
 ちょっと話がずれましたが、結局のところ、株式会社の経営の意思決定は、法律上、株主(株主総会)と取締役が分担して行う構造になっています。
 ですから、株式会社の仕組みは、この株主と取締役の関係を中心として見ていけば、ある程度のアウトラインがつかめるわけです。

株式と株主

 これまで、株主は株式会社に対して出資をしているのだと何度もいってきましたが、では株式会社に出資をするとは具体的に何をすることなのでしょうか?
 この答えは、一言でいえば、株主になろうとする人が会社の発行する「株式」という名前の株主の地位を買うことです。
 ただ、株主の地位を買うなんていわれても、今1つピンとこないのではないでしょうか。大体、「・・・の地位を買う」といわれても、そもそもイメージがつかないかもしれません。しかし、私たちは意外とこの「地位を買う」ということをよくやっています。
 野球の試合を例にしてこれを考えてみましょう。
 皆さん、今度の日曜日に千葉マリンスタジアムへ野球の試合に行くとします。ただ、野球の試合に行くといっても何もなしではいけません。当たり前ですが、チケットが必要です。そこで、皆さん、1枚3000円でチケットを買ったとしましょう。
 さて、ここで皆さんが買ったのは何でしょうか?
 こんなことを聞くと、「おい、馬鹿にしているのか!!チケットを買ったに決まっているだろ!!」と言われそうですが、別に馬鹿にしているわけではありません。よ~く考えてみてください。皆さんが買ったチケット、所詮は紙切れに過ぎません。では、皆さん、紙切れを3000円で買ったのでしょうか?いいや、普通、そうは考えません。
 ここまでくるとピンときますかね。そう、皆さんの買ったのは、単なる紙切れではなく、その野球の試合を観戦する権利、いいかえれば「観客の地位」、なんです。
 実は、この理屈と非常に近いことが、株式の場合にも当てはまります。つまり、株主の地位を買うということは、株主としての会社に対する権利(これを「株主権」といいます。)を買うことを意味しています。
 ですから、以上のことからすると、
「株式会社に出資する=株式を買う=株主の地位を買う=株主権を買う」
という関係が成り立つわけです。

 では、株主権はどのような内容からできているのでしょうか。法律の世界では、これを共益権自益権という2つの権利に分解して考えます。
 共益権というのは、平たくいえば、会社の経営に参加する権利です。
 例えば、株主が株主総会に参加する権利やそこで多数決に参加する権利(これを「議決権」といいます。)などがこれに含まれます。
 自益権というのは、株主が会社から一定の経済的利益を受ける権利のことです。
 例えば、会社が利益を上げた場合にその分け前(これを「配当」といいます。)をもらう権利などがこれに含まれます。
 以上のことを簡単にまとめると、以下のような感じになります。


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株式を買うことの意味

 株式を買えば、誰でも株主になれます。では、どうして株式を買うのでしょうか。この問題は、手っ取り早くは、「株式を買うメリットは何か?」ということを株主権という側面から考えれば、わかりやすいと思います。
 まず、共益権という観点から見てみましょう。
 株式を買うと、会社の経営に参加して多数決に加わる権利を取得します。特に、株主総会は取締役を選任したり解任したりする権限をもっていますから、株主は会社の経営に大きな発言権を有しているということがいえます。
 ここで、株主総会の意思決定が多数決で行われるのは、私たちの直感からして「まあ、そんなもんか。」という感じでしょうが、多数決の方法が少し変わっています。
 通常、私たちが多数決というと、頭数による多数決を考えますが、株主総会の多数決は、頭数ではなく、株主がもっている株式数による多数決により物事を決定します。
 具体例で考えてみましょう。
 今、Aさん、Bさん、CさんがX会社の株主だったとします。ここで、Aさんは3000株、Bさんは1500株、Cさんは1000株の株式をもっていたとします。ここで、ある問題に対して賛成と反対の多数決を採った結果、Aさんは賛成票を、Bさん、Cさんは反対票を投じました。
 普通の多数決ならば、1対2で株主総会としての意思は反対ということになります。しかし、法律上の多数決は、株式数による多数決ですから、3000株(票)対2500株(票)ということになり、株主総会としての意思は賛成となります。これは、「会社が発行した株式の過半数の株式を所有した人の意思が会社の意思になる」ということを意味しています。
 ですから、ある人が、ある会社を自分の思ったように運営したいと思う場合、その人はその会社の株式の過半数を買い集めるという行動をとることになります。これが企業買収の基本的な発想となります。
 次に、自益権という観点から見てみましょう。
 自益権の中心的な内容は、会社から配当を受ける権利です。つまり、会社がより多くの利益を生み出せば、株主に対する配当も多くなるはずです。とすれば、株式を所有している会社の業績が良ければ、株主は配当により一定の経済的利益を得ることができます。また、最近では、配当の他に株主優待券が提供されることも増えています。例えば、航空会社や映画会社などの場合、一定の株式を保有する株主に対して自社の航空券や劇場の割引券や無料券が提供されます。
 ですから、会社の経営に興味がなくとも、株式をもつことそれ自体に一定のメリットがあるといえるわけです。
 では、株式を買うことの経済的メリットはこれだけでしょうか。実は、株式をもつことの最大の経済的メリットの1つは「株式を売ることができる」という点にあります。
 具体例で考えてみましょう。
 今、皆さんが、X会社の株式を1株3000円で買いました。ところが、この会社がヒット商品を出して急成長した結果、1株5000円になりました。
 このとき、皆さんはもっている株式を売れば、差し引き2000円儲かるわけです。このような株式の売買差益のことをキャピタルゲインといいます。株式を所有することの最大の経済的メリットの1つは、このキャピタルゲインにあります。

株式欄を見てみよう!!

 皆さん、新聞とか雑誌とか、最近ではインターネットとかで「株式欄」というのを見たことがありますか?
 まあ、殆どの人が「知っているけど見たことない。」というでしょうから、今回特別によくある株式欄の一部を以下の図のような形で取り出してきました。実際の記載事項などは、それぞれの新聞や雑誌により微妙に違いますが、まあ、最低限、以下のような感じで数字が書いてあるはずです。


①東証第1部

トヨタ自動車 4460 4480 4410 4540 ▲90 6495800
②銘柄 ③始値 ④高値 ⑤安値 ⑥終値 ⑦前日比 ⑧売買高

 せっかくですから、それぞれの用語の意味について簡単に説明しておきましょう。

① 市場名:その株式が登録されている証券取引所の名前です。証券取引所に登録(これを「(株式の)上場」といいます。)されている株式は、よく駅前とかにある証券会社で売買できる株式です。
 ちなみに、証券取引所は、東京、大阪、名古屋、福岡、札幌の5つがあり、東京証券取引所(略して、「東証」といいます。)が日本最大の証券取引所になります。また、東証は1部と2部から構成されていて、東証1部は昔からの会社とか大企業、東証2部は東証1部ほど大きくない会社が登録されています。
② 銘柄:登録されている会社の名前のことです。ですから上記の図は、トヨタ自動車という会社のある日の株式の値動きが記載されていると読むわけです。
③ 始値:相場開始時(9:00)の値段です。
④ 高値:今日の売買取引で一番高かった値段です。
⑤ 安値:その日の最安値です。
⑥ 終値(おわりね):市場の取引終了時(15:00)の値段です。
⑦ 前日比:前日の終値と比べて、いくら上がったか、下がったかを表しています(△は上がったこと、▲は下がったことを表します)。
⑧ 売買高:1日にどれだけの数の売買が行われたかを表します。この日は約650万株の売買でした。普通、取引量の多寡がその株式の人気のバロメーターとなります。

 以上からすると、上記のトヨタ自動車の安値で買って高値で売るとすれば、理論上、1日に1株70円儲かる(これがキャピタルゲインですね。)ことになります。
 「な~んだ。70円かよ。」っていわないでください。1株70円ですから、10万株だと1日700万円儲かる計算になります。
そう考えると、このキャピタルゲインというのは、馬鹿になりません!!

今日のまとめ

 さて、いろいろ話してきましたが、最後に今日のお話のまとめをしておきましょう。
 株式会社に必要なお金は、私たちが株式を購入して株主になることで調達されるわけです。そして、法律の世界は権利や義務の分析が主体ですから、株式を買うということは株主権を買うという側面に着目しますが、現実の社会では、株主権という権利の側面よりも株式がキャピタルゲインを生む財産としての側面が重視されることが少なくありません。
 さて、今日はこうして株式と株主のお話をしましたが、次回は会社の日常の経営を行う取締役に焦点を当てることにしましょう。
(次回は2006年1月17日更新予定)

会社の種類

 前回は、Aさんが抱える問題がどのように解決されるのかという問題を「会社」という名前の箱を作ることで上手く解決できるということを見てきました。
 そこで、今回は、最初に会社と法律との関係を簡単に見た後に会社の種類について考えてみることにしましょう。

会社と会社法

 さて、前回の話の最後に会社に対して資金を提供する出資者が社員となるんだという話をしました。
 ただ、出資というのは、「会社が倒産するかもしれないというリスク」を前提として命の次に大切なお金を会社に提供する行為ですから、出資者は出資によって自分が「会社に対してどのような権利をもつことができるのか。」とか「できた会社はどのように運営されるのか。」とか「会社が得た利益は、本当に自分たちに分配してくれるのか。」といったことに強い不安をもつはずです。
 では、こうした出資者の様々な不安を解消するにはどうしたらいいのでしょうか。
 1つの方法として、出資に際して会社と出資者の間で「契約」を交わすという方法があります。例えば、会社が出資者との間で「社員となったあかつきには、・・・という権利を与えます。」というような感じで1つ1つの事項を交渉して決定し、それを契約という形で文書化すれば、出資者の不安は解消するはずです。
 しかし、この方法には、大きな問題があります!!
 契約によって会社と出資者の関係を明確にするためには、両者が全ての事項を書き漏らすことなく契約書に規定するという作業がどうしても必要になります。しかし、人間の能力には自ずと限界がありますから、全ての場合について社員の権利などを契約に漏らさず書くといった作業は非常に困難といえます。また、仮にそれができたとしても、「契約の作成に、えらい手間と費用がかかる!!」(=費用面を考えるとやらない方がいい)ということになります。これじゃ~、元も子もありません。
 そこで、第2の方法として、会社の組織、運営方法、社員の権利などのアウトラインを予め法律という形で国家が規定しておいて、残りの細かなことだけ会社と出資者との交渉で決めるという方法が考えられます。この方法だと、第1の方法よりも手間暇を省くことができますから、会社も出資者もその分だけ楽になります。このようにして会社の組織や運営方法、社員の権利なんかを規定した法律が「会社法」というやつです。
 ただ、この会社法という名前の法律は、これまで六法全書にも載っていませんでした。というのも、従来、会社法は商法の「第2編会社」(これを単に「旧会社法」ということにします。)というところの規定を総称した呼び方に過ぎなかったからです。ただ、今年、法改正が行われて、この商法第2編会社が商法から飛び出して、文字通り「会社法」(これから「新会社法」ということにします。)という独立した法律になりました(両者を併せて単に「会社法」ということにしましょう。)。
 そういう意味では、この連載、不幸にも!?法改正の過渡期というやっかいな時期に当たることになりました。ですから、皆さんにとっては何かややこやしいと感じるかもしれませんが、旧会社法と新会社法を上手くミックスしながら話を進めることにしましょう。

分類の着眼点~有限責任と無限責任

 私達は日常生活の中で、「食品会社」とか、「外資系の会社」とか、いろいろところで会社を分類します。また、分類の視点も、業種、規模、営業地域など、人により、場所により、目的により、様々なものが用いられます。
 こうした会社の分類ということは、私達同様に会社法も行っています。ただ、会社法の場合には、私達が日常生活で用いている会社の分類の視点とは少々異なっていて、「会社が倒産したとき、会社の債務を社員がどこまで負担するのか」という視点から会社を分類しています。ただ、これだけでは、皆さん、何をいっているのかピンと来ないでしょうから、もう少し具体的な例でこの分類基準の意味を考えてみましょう。
 今、AさんとBさんがX会社に100万円ずつ、合計200万円、を出資したとします。出資によって、この200万円はAさんとBさんのお金からX会社のお金になるわけで、X会社はこのお金を元手にして事業を行うわけです(これは前回のおさらいですね。)。しかし、運悪く、X会社が1000万円の債務を抱えて倒産したとしましょう。ここで、X会社のもっている財産を全て処分したら1000万円の負債を債権者Yさんに返済できるならば問題ありません。しかし、通常、X会社が倒産するような場合、その財産を全て処分したとしても、1000万円の負債をYさんに返済するというのは難しいといえます。例えば、1000万円のうち300万円はX会社の財産を処分してYさんに返済できたが、残り700万円は返済できないような状況を思い浮かべてくれればいいわけです。これは、見方をかえれば、会社が倒産した場合に債務全額の支払を受けられない(こうした状態を法律の世界では「債権を満足できない」といったりします。)債権者が出現するということを意味しています。
 では、Yさんは、X会社から返済してもらえない債務の残額をAさんとBさんに請求できるのでしょうか(図示すると下のような感じになりますかね。)?
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 これに対する答えとしては、
①出資額に関わらず、Yさんに対して700万円払わなければならないという場合、
②出資した100万円さえ諦めれば、Yさんに対して一切支払をしなくてよいという場合、
の2つが考えられます。
 法律の世界では、①のように、出資額によらず、社員が会社の債務を全て支払わなくてはならないということを無限責任、②のように、出資したお金さえ諦めれば、会社の負債額に関係なく社員は会社の債権者に対して会社の債務の支払をしなくてよいということを有限責任といいます。

具体的に会社を分類する

 さて、無限責任と有限責任という視点を用いると、世の中にある会社は、①社員全員が無限責任、②社員全員が有限責任、③両者の混合タイプ、という3つのタイプに分類されます。
 先ほどの例に当てはめていうと、AさんとBさんがYさんの請求によりX会社の未返済額700万円を支払わなくてはならいのが①のタイプ、AさんBさんいずれも出資した100万円を諦めるだけでそれ以上の支払をしなくてもよいというのが②のタイプ、Aさんは出資額によらずX会社の未返済額700万円を支払わなくてはならないが、Bさんの方は100万円の出資を諦めればそれ以上支払わなくてもよいというのが③のタイプ、ということになります。
 そして、法律の世界では、それぞれのタイプに
 ①のタイプの会社=「合名会社」
 ②のタイプの会社=「株式会社」
 ③のタイプの会社=「合資会社」
という名前を付けることにしました。これが、旧会社法上の会社の種類ということになります。
 ただ、こういわれて何か物足りない感じがするあなた、結構、いいカンしていますよ!!
 というのも、皆さん、よく町中の工務店などの看板で「有限会社○○○工務店」という名前を見たことありませんか。そうです。この「有限会社」というのも、旧会社法上の会社の1つなんです。この会社は、社員全員が有限責任なので、タイプ的には②のタイプの会社ということになりますが、社員総数などが限定されている株式会社の小型バージョンのような感じの会社です。ですから、以上をまとめると、旧会社法上の会社は、合名会社、株式会社、合資会社、有限会社の4種類ということになります。
 しかし、新会社法ができたおかげで、この話がそのまま通用しなくなりました。というのも、新会社法では有限会社が株式会社に一本化されることになったので、有限会社という種類の会社は法律上なくなってしまったからです。
 ただ、その代わりといっては何ですが、今度は「合同会社」という会社が新しく生まれました。これは、社員全員が有限責任の会社であるという意味では②のタイプの会社なんですが、社員間で利益の分配などが柔軟に取り決めることができるという点で株式会社や有限会社よりも融通のきく会社形態ということになります。服に例えると、株式会社や有限会社は余り客の好みや体型を柔軟に対応できない既製服のようなものであるのに対して、合同会社は客の好みや体型に割と柔軟に対応できるオーダーメイドのようなものと思ってください。
 したがって、新しい会社法上の会社は、合名会社、株式会社、合資会社、合同会社の4つということになります(表にすると、以下のような感じです。)。

旧会社法      変更点        新会社法
合名会社    →そのまま→      合名会社
合資会社    →そのまま→      合資会社
株式会社    →そのまま→      株式会社
有限会社    →株式会社に吸収→   〃
           →新設→         合同会社 

 さて、以上のように新会社法と旧会社法で法律上の会社の種類についての話は一応ケリが付くわけです。
 では、現実の世界では、これら4種類の会社は同じ数だけ存在しているのでしょうか。
 まあ、直感的に考えて、そんなことはなさそうですが、事実、日本に存在する会社の殆どは株式会社と有限会社なんです!!
 このことは、総務省統計局というところが出している「事業所・企業統計調査」の中の会社の種類別総数からもはっきりとわかります。これによると、平成16年(2005年)現在、日本の会社総数は1,530,386社ですが、そのうち株式会社は694,272社(45.4%)、有限会社は815,314社(53.3%)で、両者で全体の98.7%を占めています。実際、合名会社や合資会社というのは、皆さんの身の回りでは、観光地の干物屋とか温泉地のおみやげ屋みたいな「ごく限られたところ」でしか目にしないような非常に珍しい会社といっても過言ではありません。
 ただ、このように合名会社や合資会社の数が少ないというのは、よく考えればそれほど不思議なことではありません。
 というのも、先ほども話したように、無限責任というのは、結果的として社員が会社の債務を個人的に保証しているのと同じような状況が出現することになります。ですから、家族経営のおみやげ屋のように事業も小規模で、かつ社員相互に特別な信頼関係があるような場合は別として、そうでない場合には誰も無限責任の社員にはなりたくないわけです。
 ともあれ、日本の会社の現状を見るとき、株式会社はその数の上からも、皆さんの日常生活とのつながりという観点からしても非常に重要なものといえます。
 そこで、次回は、株式会社の基本的仕組みを見てゆくことにしましょう。

(次回は11月17日更新予定)

会社を使って問題を解決する

問題の原因を考える

 前回は、Aさんが個人で事業をする場合に生じるいくつかの問題を考えてみました。
 どの問題も、Aさんの事業にとっては死活問題につながる重要な問題ばかりですから、ここは是が非でも解決しなくてはなりません。そこで、問題の解決方法を考えるわけですが、「そういわれても、どうすりゃいい?」という話は、よくある話です。
 そこで、今回はこうした点を少し丁寧に検討してみることにしましょう。
 まず、当たり前のことですが、世の中に存在する問題というのは、必ずそこに原因があるはずです(必ずしも1つとは限りません。)。そこで、問題の解決策を考えるために、まず最初に「問題が生じた原因がどこにあるのか。」ということを考えてみることが非常に重要です。
 もちろん、原因を考えると言っても、そんな特別なことをしろと言っているわけではありません。前回のAさんの置かれている状況をよ~く見て、非常に素朴なところから始めればいいわけです。
 まあ、そうはいっても、多くの人は「Aさんの業種や業績が悪かったのかとか、Aさんの人格に問題があったのかとか、いろいろ考えてみましたが、分かりません。」というかもしれません。しかし、そういう人は、殆どの場合、考えすぎです。よく学問の話というと、決まって「何か難しい話だ。」とか「いろいろ知識がないとついて行けない話だ。」とか言う人がいます。でも、そういう人に限って、知識が増えても理解が進まないという現象をよく目にします。
 もちろん、知識は必要ですし、難しい話もあるかもしれません。でも、所詮、社会科学など、気難しそうに偉そうな顔をしていても、分析の対象は私達の生きている現実の世界に過ぎません。宗教家のように、あの世の話をしているわけでも、数学者や理論物理学者のように、えらく抽象的な話をしているわけでもありません。ですから、もっと素朴に、もっと素直に、肩の力を抜いて考えてください。
 まあ、ちょっと話がずれましたが、話を元に戻しましょう。
 1つの状況から複数の問題が生じる場合、その原因は問題が生じる全ての状況の根底にある共通した要素であることが多いといわれています。そこで、私達も全ての場合に共通した要素が何かということを考えてみましょう。そうすると、考える要素はそれほど多くはありませんし、それほど難しい話ではありません。
 そう、もうわかるでしょう。全ての問題に共通する要素は、「Aさんが直接に事業をしている。」という非常に当たり前の事実なのです。

「ブラックボックス」の出現

 さて、問題の原因が、「Aさんが直接に事業を行っている」ということだとすれば、問題を解決するのは、それほど難しい話ではありません。
 Aさんが直接に事業を行わない状況を作ってみればいいわけです。そこで、今、事業を行うために必要な行為(例えば、お金を借りたり、物の売買など何でも構いません。)を全てできる「ブラックボックス」のような物を考えます。Aさんは、事業に必要な資金や財産などを全てこのブラックボックスの中に入れ、このブラックボックスが相手と取引を行うというような状況を考えてみることにしましょう。もちろん、ブラックボックス自体は意思をもたないので、その行為はAさんの意思に基づいて行われます。
 ですから、AさんがXさんにゲームソフトを提供しようと決め、その契約をブラックボックスとXさんとの間で行わせることができます。いずれにしても、取引を行うXさんからすれば、取りあえずブラックボックスの中にはお金がはいっていますから、そのブラックボックスに物を売ったとしても代金はブラックボックスからもらえばいいわけです。つまり、Xさん側から見ると、Aさんと契約するのも、Aさんの作ったブラックボックスと契約するのも、実際上殆ど差がないという状況が生まれているわけです。
 しかし、Xさんから見て殆ど差がないということが、Aさんの側から見た場合に何らの差も存在しないということを意味しているわけではありません。
 当たり前のことですが、Aさんの側から見た場合、Xさんはブラックボックスとの契約なのであってAさんと契約するわけではありません。ですから、形式上、AさんとXさんとは直接の契約を結んでいないという状況が生まれます。つまり、XさんはAさんに対して契約条項(例えば、期日にお金を返せとか、物を引き渡せなど。)を実行するように請求できないということになります。
 ここまでの話が飲み込めていれば、前回の3つの問題のうち、1つがすぐに解決します。そう、前回の最後に述べた事業の引継ぎという問題です。先程も述べたように、ブラックボックスの出現により、Aさんは事業に関係する取引の直接の当事者とはならない関係が生まれます。ですから、Aさんは、自分が事業から引退したいと考えれば、そのブラックボックスごと誰か他の人に譲り渡してしまえばいいわけです。ブラックボックスの中には、事業に必要なお金も財産も入っているわけですから、ブラックボックスを譲り受けた人は、譲り受けたその日から事業を行うことができますし、XさんはもともとAさんと契約したのではないですから、別にブラックボックスの持ち主がAさんから誰かに変更したとしても、Xさんの置かれる立場に大した変更は生じません。
 つまり、Aさんはブラックボックスを引き受けてくれる人がいれば、すんなり身が引けるというわけです。

資金の問題を解決する

 これまで見てきたように、今の段階ではブラックボックスの中にはAさんのお金しか入っていません。したがって、事業の引継の問題が解決したとしても、Aさんが直面する資金面の問題は解決されない状態が依然として続くわけです。では、次にブラックボックスを利用して、資金の問題を解決する方法を考えてみましょう。
 まず、Aさんが事業をやらせているブラックボックスは、それ自体は特に個性や意思をもっているわけではありません。そうした意味で、ある種、無色透明な性質をもっているということができるかもしれません。さらに、ブラックボックスの中に入ったお金や財産も誰のものと特定されない、無色透明なものということができるかもしれません。そこで、資金の問題をこうした観点から考えてみましょう。
 先程も言いましたが、現時点において、ブラックボックスの意思決定権は、Aさん1人で独占している状態となっています。
 ただ、Aさんは、何も1人でこの権利を独占している必要はありません。そこで、「その権利を一部を売って、代金をブラックボックスの中に補充しよう。」ということを考えます。そこで、AさんはBさんの所に行って、「ブラックボックスに100万円入れてくれたら、ブラックボックスの意思決定権の一部をあなたに差し上げますよ。」と持ちかけたとしましょう。もちろん、ブラックボックスの意思決定権をもらうということは、ブラックボックスが稼いだ利益の分け前にもあずかれるということです。ブラックボックスが行っている事業が結構儲かっていたりすれば、当然、「美味しい話だ!!」ということになり、100万円をブラックボックスの中に入れるということも十分に考えられるわけです。
 この結果、ブラックボックスの中にお金を入れた人は、AさんとBさん2人に増えるわけですから、それだけブラックボックスの中のお金は増えてゆきます。それに、ブラックボックスの中に入ったお金は、どれも無色透明になって誰のものか分からない、つまりブラックボックスの外から見ると、Aさんのお金でも、Bさんのお金でもない、「ブラックボックスのもっているお金」に変身するわけで、ブラックボックスの資金量が増える、つまり、Aさんの資金力の問題が解消される、わけです。
 こうしたプロセスにより生じる結果は、ブラックボックスの意思決定を行う側からすると、ちょうど「ブラックボックスの意思決定を行うメンバーが増加した。」状況が生まれるということを意味しているわけです。

信用力の問題を解決する

 Bさんがブラックボックスの中に100万円を入れると、結果としてブラックボックスの中にあるお金の量が増えます。では、ブラックボックスの中に入っているお金の量が増えるということは、一体何を意味しているのでしょうか。
 こういっただけでは、ピンとこない人のために、Bさんが1人ではなく100人出現した状況を考えてみましょう。ブラックボックスの中に1人100万円ずつお金を入れるわけですから、100人いれば1億円がブラックボックスの中に入っているはずです。ブラックボックスの中にいったん入ったお金は、ブラックボックスのお金ですから、結果として、ブラックボックスと取引をする人たちは、自分のブラックボックスに対する代金を「より確実に」払ってもらえるだろうという期待がより膨らむことを意味します。
 これって、なんか似たような話を聞いたことありませんか。
 そう、前回の話しを読んでくれていた諸君はすぐにピンと来るはずです。
 え?なに?ピンとこない・・・。それはきっと考えすぎです。
 もっと単純に考えてください。ブラックボックスの中にお金を入れる人が増えれば増えるほど、ブラックボックスがお金を払ってくれる確実性が増すわけです。これは、言い方を変えると、ブラックボックスの信用力がAの信用力を超えるということを意味しています。つまり、Aさんの資産に対しては1000万円を融資する銀行はないが、同じ事業をしているブラックボックスに対しては、中身の1億円を前提にして1000万円を融資する銀行が出てくるわけです。
 ここに、Aさんが陥る信用力の問題が、ブラックボックスの出現により解消されます。

ブラックボックス、その名前は?~「会社」

 さて、前回のお話で、Aさんが事業において直面していた問題は、このブラックボックスの出現により瞬く間に解消されてしまいました。
 このブラックボックス、かなり優れものです。そこで、ブラックボックスというのも何ですから、名前を付けてあげましょう。まあ、名前でブラックボックスの中身や性質が変わるわけではないので、名前なんぞ、「ポチ」でも、「ヨン様」でも何でもいいんですが、法律家達は、このブラックボックスに「会社」という名前を付けています。
 ちなみに、法律の世界では、AさんやBさんのように会社に対してお金を提供する(貸しているわけではありません。)ことを「出資」、出資をしてブラックボックスの意思決定権を手に入れた人のことを「社員」といいます。
 ここで、ちょっと注意してもらいたいのですが、法律の世界の「社員」と世間一般でいう「社員」とは全く異なるものです。というのも、法律の世界で「社員」という場合、それは会社に対する「出資者」という意味ですが、世間で「社員」というと、それは単に「会社で働いている人」、つまり「従業員」とか「サラリーマン」、を意味します。
 ですから、「私の父は、トヨタの社員です。」という場合、法律の世界とそうでない世界とでは、全く意味が異なります。
 こうして、会社という存在は、個人で事業を行う場合に生じやすい問題を上手く解決してくれる有り難い存在ということがいえるわけで、そこに事業を行う人にとっての会社の必要性というものが生まれてくるわけです。
 さて、例の如く、だらだらと話してきましたが、会社という存在がそれなりの役に立つことがわかったとして、次回は、もう少し具体的に会社の中身を見てゆくことにしましょう。

会社って必要なんでしょうか?

世の中に、会社あり!

お昼に友達と食べるハンバーガーからミサイルまで、この世に存在するほとんど全てのものは会社という存在が作り出しています。
また、皆さんやその家族のほとんども、その生計を会社に依存しています。
そう考えると、会社という存在は、現代の私達にとって「当たり前にあるはずのもの」ということができるかもしれません。
しかし、ここから翻って、
では会社という存在がどうしてこの世に存在するのだろうか?
という素朴な疑問をぶつけられると意外と答えに窮するものです。

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ごあいさつ

 お昼に食べるハンバーガーから戦場の空を飛び交う戦闘機まで、私たちの住む世界にある殆ど全てのものは会社という存在によって生み出されています。
 しかし、よく考えれば当然の話ですが、会社という存在が何も水や空気のように太古の昔からこの世に存在したわけではありません。
 また、会社でなければハンバーガーが作れないというわけでもありません。
 

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