最終回 取締役の違法行為の後始末~誰がどのような責任を負うのか?
第5回から前回までで、新会社法が規定する株式会社の基本的な構造の説明が終わりました。
そこで、今回はこれまでのお話を利用して、取締役が違法行為をした場合の法律上の後始末の問題を考えてみましょう。
取締役はどうして違法行為をするのか?
新会社法は、制度上、監査役などのチェック機関により取締役の仕事ぶりをチェックさせています。ですから、取締役に職務怠慢(この極限が違法行為ということになります。)があれば、それはチェックの網に引っかかるはずです。
しかし、現実に新聞やニュースなんかをみると、どうでしょうか?
粉飾決算や違法な耐震基準のマンションの建設、あるいは無謀な事業拡大をして会社に大穴を空けたりと、「ホントにきちんと仕事しているかよ?」といいたくなるような取締役の話がたくさん出てきます。
では、チェック機関があるのにも関わらず、どうしてこうした問題が生じるのでしょうか?
これには、大きく2つの原因があります。
まず、第1の原因は、取締役側に違法行為をする必要性とメリットがあるという点です。
株主は会社の業務を専門家である取締役に任せて、その選任や解任といった人事権を通じて取締役をコントロールしています。このため、取締役は、自分のクビをつなぐためには、株主の期待に添う結果を出さなくてはならないというプレッシャーを受けることになります。
では、「株主が期待する結果」とは、一体どのようなものでしょうか?
当然ながら、株主は慈善事業で会社に投資しているわけではありません。あくまでも「投資に対するリターン」が欲しくて投資しているわけです。ですから、取締役に期待する結果は、株主が投資のリターンを獲得できる状況を作り出すという結果、もっといえば、
業績(利益の配当)と株価(キャピタルゲイン)の向上
ということになるわけです。
ここで、取締役がその手腕を発揮して会社の業績を上げ、株価も上昇すれば、何の問題もありません。
けれども、会社の業績が下がった場合はどうでしょうか?
株主からすれば、取締役に対して高い報酬を払っているのは、「会社を儲けさせるため」ですから、業績は上がって当然、下がるなんてことは許されません。そこで、そのような取締役は、「無能」ということになります。
とすると、取締役は自分の地位を守るためには、「とにかく業績や株価を下げない」というのが至上命題になるわけです。この結果、「多少ルールを破っても、成果を出さなければ・・・。」という誘惑にかられてしまうわけです。
しかし、取締役がこうした誘惑にかられたとしても、違法行為がチェック機関にチェックされていれば問題は生じないはずです。
ここに、
「チェック機関自体が機能していない」
という第2の問題が位置付けられます。
ただ、新会社法がわざわざ作ったチェック機関が機能しないというのは、一見すると、不思議な気もします。
しかし、よく考えると、監査委員会以外のチェック機関の選任・解任は、全て株主総会が行います。ここで、株主総会の決議は原則として議決権による多数決です。ですから、取締役が議決権の過半数を有しているような会社(比較的小規模な会社であることが多いと思います。)の場合、取締役は自分の意向に添う者をチェック機関に据えることが法律上可能となります。
つまり、チェック機関として選任された者が、取締役に遠慮する現象が生まれるわけです。
もちろん、こうした現象は、株主がたくさんいる大規模な会社の場合には、生じにくい現象です。でも、こうした会社の場合には、今度は組織や業務の内容も複雑になるために、限られた人数の監査役などが業務全般を完全にチェックすることは難しくなるわけです。
具体的な後始末
取締役の違法行為がチェック機関の網をすり抜けた場合、それを遮るものは制度上何もありません。
ですから、結果として誰かに損害が発生し、あとはその損害の穴埋めをするしか道は残されていません。
これを具体例で考えてみましょう。
例えば、マンションの販売会社であるA会社があるとしましょう。この会社の取締役Bは、マンションの価格競争に勝ち残るために法定の耐震強度を下回るマンションを販売することにしました。そして、A会社はCさんにこのマンションの1室を3000万円で売却する売買契約を結びました(図にすると、以下のような感じになります。)。
これで、販売したマンションが違法な耐震強度であることがバレたとき、取締役Bの違法行為によりA会社とCさんがどのような損害を受けるか考えてみましょう。
A会社の損害とその後始末
まず、この場合、こんな欠陥マンションを販売していることが分かれば、A会社からマンションを買う人はいなくなります。また、場合によっては、A会社に対して監督官庁などから免許の剥奪とか営業停止処分などが行われる可能性もあるでしょう。
とすると、取締役Bの違法行為によりA会社が損害を被ることになりますから、A会社は取締役Bに対して受けた損害の賠償請求をすることができます(新会社法423条1項)。
さらに、A会社が取締役Bに対してこうした損害賠償請求をしない場合には、A会社の株主が取締役Bに対して、A会社に対して損害賠償を支払うように訴訟を起こすことができます(新会社法847条1項)。
これを「株主代表訴訟」といったりします。
Bさんの損害とその後始末
このマンションは通常の人では分からないような「隠れた欠陥」があったわけですから、Cはこのマンションの欠陥を理由としてA会社と交わしたマンションの売買契約を解除することができます(民法570条、これを売り主の瑕疵担保責任といいます。)。
この結果、CさんはA会社に対して売買代金の返還や損害賠償請求ができますから、これによりCの損害の穴埋めができるわけです。
しかし、こんなマンションを販売していることが明らかになれば、通常、売買契約の解除が殺到したり、取引先が取引を中止したりしますから、A会社にはめぼしい資産が残っていないという場合も少なくありません。
この場合、Cさんは、いくら裁判で勝訴しても、現実にはA会社から損害の埋め合わせを受けることはできません。
そこで、新会社法は、一定の要件を満たす場合には、Cさんが取締役Bに対して損害賠償を請求することを認めました(新会社法429条1項)。
ですから、取締役Bは、会社だけではなく、会社の債権者に対しても責任を負うということになります。
連載の最後に
これで全7回の連載が終わります。
おそらく、皆さん、「誰が考えたんだか知らないが、正直、条文がたくさん出てきて、制度は複雑だし、他の小部屋と違って、ちっとも面白くない!!」という方も少なくないと思います。
皆さんの気持ちは、とても良くわかります。こういっては怒られるかもしれませんが、別に理解しろとはいいませんし、今、楽しいと思う必要もありません。
しかし、忘れないで欲しいのは、この会社法という法律、実は他の小部屋の話を読む上で非常に重要な役割を果たしているのだということです。
そこで、最後にその話をして終わりにしましょう。
他の小部屋は、経営にしろ、マーケティングにしろ、あるいはもっと大きく経済にしろ、そのお話は、
市場というフィールドに会社というプレーヤーとして存在している
ことを暗黙の前提としています。
まあ、野球でいえば、巨人とか、阪神とかチームとそれが所属するリーグは既に存在していて、「どのようにプレーすれば、ゲームに勝てるのか(リーグ優勝できるのか)?」という点に分析の焦点を当てる学問といえるかもしれません。
ただ、よく考えると、チームが存在するためには、誰かがチームを作る必要があります。また、チームを作るとはいっても、その構成がサッカーのチーム構成でもバレーボールのチーム構成も何でも構わないというわけにもいきません。
ここに、チームの最低限の構成を決めるルールが必要になります。
会社の場合も同じことです。
会社も市場というフィールドで競争という名前のゲームをするわけですから、ゲームに必要な最低限のチーム構成を決めておかなくてはなりません。そして、このチーム構成を「お金」というキーワードを利用して体系的に整理したのが新会社法というルールになります。
じゃあ、チームがあればゲームができるかというと、そうもいきません。
というのも、「何でもあり」のゲームでしたら、そもそもゲームなんか成り立ちませんし、そんなゲームでは、プレーヤーも観客も勝敗に納得するわけがありません。
そこで、チーム構成のルールと同時にゲームのルールが必要になります。これが、会社の市場競争の場合でいうと、独占禁止法とか、証券取引法とか、いろいろな法律ということになります。
ただ、ゲームのルールを定めても、それを破った者が何のペナルティもないならば、意味がありませんし、ルール違反によりダメージを受けた者がダメージを回復できないなら、これまた意味がありません。
ですから、ゲームそれ自体のルールもさることながら、
「ルールを破った者(チーム)に対するペナルティを定めたルール」
も非常に重要となります。
これが、会社の場合でいえば、会社というチームの監督の地位にある取締役の責任ということになります。
最近、「自由競争」という言葉がよく使われますが、これは決して「ルールなしの競争」ではありません。
会社の規模が大きくなり、有名になるほど、その会社が競争に勝利することは、ある意味簡単になるかもしれません。しかし、そうした会社は、観客である社会からルールを遵守して競争に勝つという
「ゲームの勝ち方」や「勝者としての正当性」
をより厳しく吟味されるようになりましたし、そうしたプロセスを経て、初めて「一流の会社」として社会から認知されるともいえるかもしれません。
ですから、こう考えると、無味乾燥に見える新会社法も、経営学やマーケティングのようなゲームそれ自体を語る上で最も本質的といえる
「皆に自分が勝者であることを認めてもらう」
という1つの拠り所を与える重要な要素といえるわけです。
最終回 おわり






