2007年4月 1日 (日)

弘文堂プレップ・シリーズ
著者リレーエッセイ紹介

プレップとは、英語の Prep で予習、予備、準備という意味です。
本シリーズは、これから法律学にチャレンジする人のために、覚えておかなければならない知識、法律学独特の議論の仕方や学び方のコツなども盛り込んだ、新しいタイプの「入門の入門」書です。
本シリーズ中に、装幀も新たに、中身の面白さもパワーアップした新刊が4冊加わりました。
このいわばシリーズ中の新シリーズの立ち上げに際して、著者4人の先生方に、本書にまつわるリレーエッセイをお願いしました。4先生それぞれの個性を楽しむと共に、各巻のあとがき番外編として、先生方の新たな一面あるいは勉強のヒントを手に入れてみてはいかがでしょうか?

プレップ行政法 高木光 (京都大学教授)
プレップ環境法 北村喜宣(上智大学教授)
プレップ租税法 佐藤英明(神戸大学教授)
プレップ労働法 森戸英幸(上智大学教授)

第1回『プレップ行政法』

京都大学教授 高木光(たかぎ ひかる)

1954年 兵庫県に生まれる
1977年 東京大学法学部卒業、同学部助手、
      神戸大学法学部助教授、同教授、学習院大学法学部教授を経て、学習院大学法務研究科(法科大学院)教授を経て、
現在   京都大学大学院法学研究科教授

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1 進々堂のテーブルセット
 <京都の学生街『百万遍』に、きりっとした喫茶店『進々堂』がある。古めかしく、かつこざっぱりとした店内、気安い値段のメニュー。お客さんが、各々のテーマの勉強に没頭している光景は、図書館の自習室を思わせる。
 『進々堂』の歴史は、喫茶店としてはとても長い。明治のおわりごろに創業したパン屋『進々堂』がその前身である。その店を、妻の兄より譲られた続木斉氏は、学生時代にフランス語とドイツ語を学び、詩作もしていた。1924(大正13)年、パンの研究をしに渡欧した彼は、パリはカルチェラタンのカフェの雰囲気に心惹かれた。帰国後、京都大学北門前に、自家製のパンを看板にして、いまの『進々堂』を開店した。1930(昭和5)年のことだ。その際に、店用のテーブルセットの製作を依頼されたのは、26歳の青年、黒田辰秋だった。
 シンプルな長机と椅子のセットは、全部で12。楢の木を使い、「拭漆」という技法で仕上げられている。テーブルの厚さを手で測ってみたら、私の小指の長さくらい、おおよそ5センチ半だった。どっしりしたテーブルは、本や辞書をどさっと置こうが、ひじをつこうが、びくともせずに頼れる存在感を持っている。200年はもつとの保証つきだそうだ。使い込まれた風合いは、踏みしめられて味の出た木の床と、とてもよく似合っている。
 開店してまもなく、『進々堂』は京大の学生や教授らにとって身近ななごみの場となっていった。同じくして黒田辰秋も、木工芸家としての腕をどんどんあげていく。>
 木村衣有子『京都のこころAtoZ-舞妓さんから喫茶店まで』(ポプラ社・2004年)の一節です。この本は、AからZの26章仕立てになっており、Tの章で『進々堂』のテーブルセットを紹介しています。自己紹介によれば、著者は1975年生まれの文筆家、ときどき書店員。『京都カフェ案内』『東京カフェ案内』『東京骨董スタイル』『和のノート 女の子向け日本文化案内』などの著書があります。現在は、東京早稲田在住ですが、京都に8年暮らし、3年前に転居後も、京都通いを続けてこの本を執筆したそうです。
 私が『進々堂』の存在を知ったのは最近のことです。2007年4月から京都大学に移籍することになりましたが、採用決定が2006年5月になされてから、出張等の機会を利用して何度か京都を訪れました。そして、京都大学のスタッフや出版社の方にいくつかのお店に案内していただいたのですが、そのうちの1つというわけです。
 木村氏の本に偶然に出会ったのはその後のことです。美術や工芸について無案内な私には、黒田辰秋の作品に直接触れられることの意味はよくわかりませんでした。しかし、店の雰囲気についての図書館の自習室という表現には感心しました。物の価値はそれに接する人の生き方によって決まるのかもしれません。

2 初めはすべて難しい
 さて、このリレーエッセイは、プレップ法学シリーズの著者が、読者の皆さんに執筆の意図を語る場として設けられました。はしがきでは書き切れなかったことや、刊行後の反応などについても触れることができ、また、他の著者へのメッセージも盛り込むことが許されるとのことで、とても面白い企画だと思います。
 プレップとは、英語の Prep で、予習、予備、準備という意味です。プレップシリーズの意図は、<法学教育で一番求められているのは、法学部学生が高校教育終了後、初めて法律学の専門教育を受ける過程までの橋渡しになるもの>であるというものでした。
 Aller Anfang ist schwer.(初めはすべて難しい)というドイツのことわざがあります。また、Wie der Anfang,So das Ende(何事も初めが大事)ともいいます。教育者としての力量が問われるのは、入門ということになるでしょう。
 新シリーズの『プレップ行政法』は、2005年1月に脱稿し、4月15日に発売となりました。本来は、2年近く前に刊行する予定でした。しかし、2004年4月の法科大学院の発足に向けての準備に忙殺されたこともあって執筆が中断してしまい、当初の章立ての半分程度を割愛する代わりに法科大学院関連の記述を加えることでかろうじて一冊の本の体裁を整えたというのが正直なところです。
 以上のような経緯があるためか、原田尚彦教授の旧版と比較すると、新版は、行政法自体についての解説は少なく、まさに「入門の入門」という内容になっています。しかしながら、怪我の功名というのでしょうか、そのような「軽め」の記述が、法律学の勉強になじみのない読者には好まれているようです。法学部の1・2年次生と並んで法科大学院の「未修者コース」の方も読者として想定していたのですが、その他に、行政書士試験の受験生にも読んでいただいているようです。私のマーケットリサーチは、ときどき同業者のブログを覗いたり、グーグルで自分の名前や著書を検索したりという初歩的なレベルですが、思わぬところでほめられると嬉しいものです。
著者としては、どんな理由であっても行政法を学ぼうと思い立ってくださることは貴重だと考えています。プレップを読まれた結果、「行政法は難しい」という通念が打破され、また多少とも「学問としての行政法」の問題意識が理解されることを期待しているのです。

3 「カフェ」と「カフエー」
 プレップ行政法は10章仕立てで、Part1の「アリとキリギリス」「愛と恋」「みつくりはつみつくり」がウォームアップ、Part3の「ハインリッヒの法則」「きまぐれな女神」「最後の授業」がステップアップのための案内を意図しています。そして、本体にあたるPart2の「喫茶店対PTA」「防御型の行政法」「取消訴訟と国家賠償」「現代行政の特徴」で、設例を出発点にして、行政法という科目で学ぶべき基本的問題点を具体的なイメージで捉えられるように努めたつもりです。
 このような「個別行政法規から一般理論へ」という手法は、学習院大学法学部で担当した講義・演習での試行錯誤を経て生み出されたものです。プレップに出てくるのは「食品衛生法」ですが、ある年度の演習では「風営法」を重点的にとりあげました。参加者のなかで、後に行政書士を開業し、風俗営業の営業許可業務を得意としている人がいるのは何かの縁であると思われます。
 さて、プレップに出てくる「カフェまったり」は、食品衛生法施行令にいう「喫茶店」に該当しますが、風営法が適用される「カフエー」は別のものです。
 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律2条<この法律において「風俗営業」とは、次の各号のいずれかに該当する営業をいう。>2号<待合、料理店、カフエーその他設備を設けて客の接待をして客に遊興又は飲食をさせる営業(前号に該当する営業を除く。)>
 「風俗営業」としての「カフエー」は、大正年間を通じて増加し、とりわけ1923(大正12)年の関東大震災後に急増したものを想定しています。これは、表向きは洋風の喫茶店ですが、「女給」が男性客を接待するサービスが「売り」というものです。永井良和『風俗営業取締り』(講談社選書メチエ・2002年)44頁によれば、カフエーは、そこで直ちに売春が行われるわけではないが、営業上の接待が売春に発展する可能性があるとみなされて警察の取締りの対象とされていたのです。
民法で「自然債務」について学ぶ際に、「カフェー丸玉女給事件」というものがでてきます。大審院の1935(昭和10)年の判決ですが、その事案を現代風にアレンジすると、以下のようなものとなります(内田貴『民法Ⅲ〔第3版〕』(東京大学出版会・2005年)112頁)。
 <Yは、バーで知り合ったホステスXの歓心を買おうと、酒の席で、「Xが将来独立して店を持つときには1000万円の援助をしてあげよう」と約束した。Xはこれを信じて店をやめて独立の準備を始め、Yに1000万円を請求したところ、Yは支払いを拒絶した。Xの請求は認められるだろうか。>
 現在の感覚からすれば、Xの請求を認めた原審を破棄して法的な保護を拒否した大審院の立場は「ホステスの人権」を軽視するものといえるでしょう。しかし、当時の法曹界では喝采を浴びたようです。永井・前掲書によれば、警視庁が「特殊飲食店営業取締規則」を制定してカフェーの本格的な取締りに乗り出したのは1933(昭和8)年ということです。戦争へ向かう暗い時代のエピソードかもしれません。また、一説によると、カフエーの女給のトレードマークは和服にエプロンだったそうです。近時流行のメイド喫茶はどのような世相の反映とされるのでしょうか。

4 参照領域理論
 プレップ新シリーズは、「環境法」「租税法」「労働法」と続いてゆきます。これらが新司法試験の選択科目であるのは何かの偶然でしょうか。
 「行政法」という科目から見ると、「環境法」と「租税法」は、「応用科目」と位置づけられます。かつての「行政法各論」がそれぞれ独立した科目となっているという感じですが、理論的にみても、「総論」のための事案の素材と例とを提供し、「総論」の内容を豊かにするものという意義を有します。ドイツのシュミット・アスマンという学者の「参照領域理論」は、大橋洋一、山本隆司両教授によって紹介され、日本でも通用するものとして支持を広げつつあります。また、労働法は、民法の応用の部分が大半ですが、労働安全衛生の部分や行政委員会の役割など「行政法的要素」も見逃せません(プレップ行政法「ハインリッヒの法則」の章参照)。
 いずれにしても、プレップ新シリーズは、比較的若い世代の著者が、「教育的配慮」を徹底して執筆している点で、これまでの教科書とは一味違ったものとなっていると確信しています。そして、私も改訂の際には、他の執筆者からのメッセージを受け止めて改善を加えてゆきたいと考えています。もちろん、読者の皆さんからの感想や助言も大歓迎です。双方向・多方向のコミュニケーションが可能な時代になりました。このリレーエッセイが、その恩恵を生かせるきっかけをなることを祈って、ひとまず、駄文を終えることにいたしましょう。次の執筆者である北村喜宣先生は、京都生まれの京都育ちです。

『プレップ行政法』の詳細は弘文堂HPよりご覧いただけます。

第2回『プレップ環境法』

上智大学教授  北村喜宣(きたむら よしのぶ)

1960年 京都府生まれ
1986年 神戸大学大学院法学研究科博士課程前期課程修了
         横浜国立大学助教授などを経て、
現在   上智大学教授

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1 京都という街
 (高木光先生のエッセイの最後でご紹介がありましたように、)「京都生まれ京都育ち」の北村喜宣です。生まれたのは、伏見。酒蔵の白壁が近所にあったような記憶があります。それから、新撰組屯所跡で有名な八木邸の近くで、しばらくすごしました。燃料商を営んでいた祖父の家で、千本通り沿いです。かつての、朱雀大路ですね。でも、ほどなく引越し、京都期のほとんどは、全国高校駅伝のスタート・ゴールや京都パープルサンガのホームスタジアムとなっている西京極運動公園の近くにいました。小学校のときは、阪急ブレーブスの黄金期。サインをねだりに、西京極球場によく通っていました。
 横浜国立大学につとめるまで、29年間(うち2年間は、アメリカ留学)、京都にいましたが、横浜市に来てから、早いもので、17年になります。年に何回かしか戻らないのですが、12月の4週目には、仕事で2回も行きました。『進々堂』というと、ボクには、喫茶店というよりも、パン屋さんのイメージが強いですね。最近では、京都駅の地下街にも店を出していて、久しぶりに買って帰りました。高木先生のエッセイを拝読したあとだったので、余計に懐かしい味になりました。
 ところで、学生時代に住んでいた頃には当たり前の風景だったものにたまに戻って出くわすと、実に新鮮ですね。南座には、顔見世のマネキがあがっていました。宮川町や祇園甲部乙部では、師走の髪飾りをつけた舞妓さんや芸妓さんに出くわしましたし、八坂神社では、をけら火の準備も進んでいました。その一方で、西木屋町四条上るの名曲喫茶『ミューズ』はなくなっていたし、河原町蛸薬師の『丸善』も閉店していました。「変わらないモノと変わってゆくモノ」。京都は、これらを上手に融合しながら、これまでも発展してきたのですし、これからも発展してゆくのでしょうね。高木先生は、そうした街におつとめになるのですね。少し、うらやましいです。

2 さまざまな出会い
 ボクは、様々なことが、「縁」でつながっていると思っています。結構、フェイタリストです。高木光先生から、バトンを渡されたのも、たしかに「縁」です。
 ボクが神戸大学法学部で行政法総論を受講したとき、そもそものご担当は、山田幸男教授だったのですが、途中で体調をくずされたため、代講されたのが、ドイツ留学からお戻りになったばかりの高木先生でした。こうした事情があったためか、成績は、随分と甘くつけていただいたような気がします。高木先生には、大学院進学後も、いろいろとご教示をいただき、修士論文では、副査のひとりになっていただきました(主査は、阿部泰隆教授)。そういえば、ゼミの後など、随分ごちそうもしていただきました。本当にお世話になりました。
 『プレップシリーズ』とのつながりは、ちょっと長い話になります。横浜国立大学につとめたあとで、学位論文をもとに、弘文堂の行政法研究双書の1冊として、1992年に、『環境管理の制度と実態』を出版しました。担当していただいたのは、丸山邦正さんと清水千香さんでした。丸山さんは、もうご退職になられましたが、出版の際に、「将来、環境法のテキストをお願いしますね。」と言われていたのです。その言葉は、自分のなかにずっとありましたが、テキストなどは大家が書くモノと思っていて、「30年早い。」と感じていました。
 ところが、上智大学でも法科大学院がスタートし、何と環境法が新司法試験選択科目に滑り込んだことから、いろいろと状況が変わり始めました。環境法の教授内容や教授方法などについては、「相場」なるものがまったくないのですが、少しは環境法の教育・研究をやっていたためか、「どのように教えたらよいのか。」という質問を、少なからず受けるようになったのです。「まだまだ早い。」という気持ちには変わりがないのですが、「とりあえず、何とかしなければならない。」と思って、業界スジでは有名人の編集部の北川陽子さんに、おそるおそる電話したのでした。
 「カモネギ状態」というか「入れ食い状態」というか、すぐに『プレップ環境法』の企画が決定します。2005年5月のことでした。『プレップ環境法』は、半年の執筆期間と4ヶ月の編集期間を経て、2006年4月に出版されました。「プレップシリーズ」については、原田尚彦『プレップ行政法』を学生時代に読み、シリーズの蒼々たる執筆陣に感慨を持っていただけに、そこに加わるということは、正直いって、たいへんうれしかったです。
 さて、なるべく親しみやすい内容にしたいと思いましたが、文章力だけでは、どうしても限界がある。そこで、3人息子が通った戸塚幼稚園のスタッフの大貫純子先生に、イラストをお願いしました。弘文堂のこの手の出版物では、前代未聞だそうです。でも、何事も、チャレンジ!

3 後ろから前から、下から上から
 一番つまらない環境法の本とは何か。人それぞれでしょうが、ボクにとっては、「法律の概要が淡々と説明してあるだけのもの」です。読んでいても、まるで紙を噛んでるようで、ワクワクしないし、著者との対話も楽しめない。そんなわけなので、いざ構成を考える段になると、悩んでしまいました。半年の執筆期間といいましたが、そのうちの2ヶ月くらいは、「あ~でもない、こ~でもない。」と構想ノートをぐちゃぐちゃにしていたのです。
 型破りの高木光『プレップ行政法』は、もちろん大いに参考になりましたが、同じことをするのではおもしろくない。環境法学の発展につながるようなメッセージを伝えることができればいい。環境法の楽しさのエッセンスをギュッと詰め込んだものにしたい。何とも、身の程知らずです。
 で、結局、「環境法を立体的に語ることにしよう。」と考えました。体系があるわけでもないし、確定した議論があるわけでもないのを幸いに、リング中央に立たせた環境法に対して、あちこちからアプローチすることにしたのです。構成を考えるにあたっては、アメリカ留学時代に、「規制研究(regulatory studies)」をテーマにして、ロー・スクールや政治学・行政学大学院などで出席した授業が、たいへん参考になりました。環境法は、総合的法律科目です。経済学や法社会学などの知識も動員しますから、総合的社会科学科目といってもいいかもしれません。

4 伝えたかったこと
 『プレップ環境法』は、8章構成。「つかみ」の部分には、悩みました。いきなり事例から入るか、それとも、ちょっと抽象的な議論をするか。結局、後者の戦略をとり、自分が考える「環境法の世界」をお示しすることから始めました。
 「人間の個別的意思決定にいかに影響を与えるか。」、「個別的意思決定の集合を通じていかに良好な環境状態を実現するか。」は、ボクが環境法を考える際にいつも意識していることです。それから、コストも重要です。環境法といっても、無限大のコストを投入できるわけではありません。バランスのとれた法政策でなければなりません。単純に、「環境を守ればよい。」というものではないことを、まず知ってもらいたいのです。
 環境法の学習の対象は、実定環境法規です。ただ、先にもいいましたように、「○×法の仕組みはこうなっています。」というような内容には、絶対にしたくありませんでした。標語的にいえば、「こうなっている」から「なぜそうなっている」ということになるのですが、ボクは、法制度や具体的規定の存在理由に対して関心を持ってもらいたいのです。また、現在ある法律や条文であっても、改正を受けていることがあります。その歴史にも、注目しています。上智大学法学部や法科大学院の授業では、テキストのほかに、独自のレジュメを配りますが、そこには、そうした観点からの多くの「質問」が書いてあります。それを受講者と一緒になって考えながら進めるのが、ボクの授業スタイルです。『プレップ環境法』では、なるべくそうした雰囲気を感じてもらえるよう工夫したつもりです。
 具体的ケースとしては、水質保全、廃棄物処理、自然保護・景観保全にしぼりました。もちろん、それ以外にも、重要な分野はありますが、プレップシリーズの役割は、網羅的解説ではありませんので、思い切って削っています。『プレップ環境法』を通読して、「環境法の歩き方」をマスターしていただければ、本格的テキストの手を借りながら、環境法の世界を楽しんでもらえると思ったからです。

5 初心にかえって
 土曜日の午前中で学校が終われば、家に帰って、昼ご飯を食べながら、そして、笑い泣きしながらヤスキヨ・コメワンの「爆笑寄席」をみて、その次に、岡八郎・原哲男の「吉本新喜劇」をみる…。ボクの小学生当時、関西の子どもの普通の過ごし方でした。お笑い系番組のディープさ(とコマーシャルのえげつなさ)において、関西は、間違いなく日本一です。これがDNAに入っているせいか、普段の授業や講演においても、どうしても「笑いをとりたい。」という衝動にかられますし、実際にも、抑えきれずにそうしています(最近、自治大学校では、受講生に「歌わせて」います)。論文執筆にあたっても、思わずサービスしてしまいます。高木先生も、同じですね。
 ただ、『プレップ環境法』を読み返すと、ちょっと力が入っているなあと思い、ピリッとしたユーモアに欠けると反省。まだまだ修行が足りません。丸山さんとの約束を果たせる力がついたときには、品位は保ちつつも、本質をグッとつかみ、楽しくかつ深く環境法を学べる書物をつくりたいという気持ちです。さてさて、何年かかることやら。
 ところで、初心に返るというのは、大事なことですね。神戸に出かけることがあると、何とか時間をつくり、「神大正門前」にある石段にすわって、神戸港をぼやーっと眺めます。振りかえれば、「出口なきトンネル」の院生時代でしたが、新しいことを学び、新しいことを発見する楽しさを追いかけたいと思ってギラギラしていた時代でした。より深く環境法を追いかけるためにも、その気持ちは大切だと思います。また出かけることにしましょう。
 次にボクがバトンをお渡しする佐藤英明先生は、神戸大学大学院法学研究科教授です。院生時代に、正味半年だけ、同じキャンパスで過ごしました。

『プレップ環境法』の詳細は弘文堂HPよりご覧いただけます。

第3回『プレップ租税法』

神戸大学教授 佐藤英明(さとう ひであき)

1962年 福岡県生まれ、東京大学法学部卒業。
1988年から神戸大学教授。
専門は所得税など。著書に『ケースブック租税法』(共著・弘文堂・2004)、『租税法演習ノート』(編著・弘文堂・2005)、『租税法判例百選[第4版]』(共編・有斐閣・2005)などがある。

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ナカ兄
 今日は、僕が著者の佐藤先生に『プレップ租税法』について色々とお伺いするという趣向です。最初に自己紹介しますと、僕は、『プレップ租税法』の登場キャラで、租税法をよく勉強している法科大学院生という役回りです。主人公の学生のひとりのイトコでもあります。それでは、先生、よろしくお願いいたします。

佐藤
 よろしくお願いします。

ナカ兄
 前回のエッセイの筆者である北村先生は、佐藤先生と神戸大学のキャンパスで一緒だったと書いておられましたが?

佐藤
 私が神戸大学に赴任した年の後半のことだと思うのですが、北村先生といえば、実はその時期のことよりも、後に環境法の非常勤講師に来て下さったときに法学部の期末試験の監督のお手伝いをしたことを良く覚えていますね。受講生の多い人気授業で大変でした。。

ナカ兄
 リレーエッセイの第1回目を書かれた高木先生も神戸大学で教えておられた時期がありますから、何となく、ここ3回は「神戸つながり」ということになりますね。

佐藤
 そういえば、そうですね。

1 本書執筆の動機と想定する読者像

ナカ兄
 それでは、本題に入って『プレップ租税法』について伺うことにしましょう。
 まず、以前、佐藤先生はこういう会話体で租税法の教科書類をお書きになる予定はないとおっしゃっていたそうですが、今回、この本をご執筆になったのはどういう理由からでしょうか。

佐藤
 弘文堂編集部の北川陽子さんが勧め上手だったからです。

ナカ兄
 ・・・。

佐藤
 「勧め上手」という答えがダメなら、企画上手と言い換えても良いかも知れません。どういう読者に何を伝える本を作りたいのかということが非常に明確だったので、お手伝いしようと考えました。もっと具体的に言うと、学部生や法科大学院生が租税法を学び始めるときに最初に読むとよい租税法の本、というコンセプトが明確で分かりやすく、魅力的でした。
 ターゲットの読者層を絞るとそれだけ売れ行きが心配になるのが自然ですから、編集者としては、ついつい、あれもこれもと盛り込みたくなるものでしょうが、この企画に関しては、専門家が読んでも面白くとか、市民講座のテキストにもなるようにとか、その手の注文がなかったんですよね。

ナカ兄
 (環境法ならともかく、租税法の市民講座って、「あなたの所得税は安くなる!」の税金セミナーとか以外にあるんだろうか・・・。)

佐藤
 何か?

ナカ兄
 いえ、何でもありません。それで、勧められて、はじめて、租税法の勉強を始める一番最初に読んでもらう本を書こうとされたわけですね。

佐藤
 そうなりますかね。
 ところで、君はどういうきっかけで租税法の勉強を始めたのですか?


ナカ兄
 僕は、たまたま時間割が空いていたので租税法の授業に出てみたら、それが面白くて。

佐藤
 ときどき、そういう人がいますよね。私が教えた神戸大学の学生の中にも、まったく何の気なしに私の授業に出てみたら租税法にすっかりハマって、一生懸命勉強した結果とうとう試験に合格して国税庁に就職したという人がいました。

ナカ兄
 へえ、それは本格的ですね。
 で、何人くらい、そういう方がおられるんですか?

佐藤
 16年間教えて、1人です。

ナカ兄
 16年で1人だけ・・・。

佐藤
 そう、ただ、その背後には、やってみると面白いと思ったかも知れないのに、そもそも租税法の授業を受けようとも考えなかった人が大勢いるわけですよね。それで、何とか最初のハードルを下げて、もう少し沢山の人に租税法の勉強をしてもらいたい、というのが、大きな執筆の動機ですね。

ナカ兄
 (なんだ、ちゃんとした執筆動機があるんじゃないか。まったく・・・。)
 それで『プレップ租税法』は租税法の勉強を始める、もっと正確にいうと、租税法の勉強をしようかどうか迷っている学部生や法科大学院生を対象にしているということなんですが、この両方ともを一度に対象にするというのは広すぎることはないのでしょうか。
 「法科大学院生向け」だと学部生には難しすぎるような気がしますし、「学部生向け」だと法科大学院生には物足りないということはありませんか。

佐藤
 それは大丈夫だと思います。
 これはある会合で大阪大学の谷口勢津夫先生がおっしゃっていた言葉なのですが、法科大学院生のほとんどは「税法未修者」ですよね。憲法や民法については法科大学院生、とりわけ「法学既修者」と学部生との差は大きいと思いますが、実は法科大学院生でも学部生のときに租税法を勉強してる人はほとんどいないわけです。ですから、こと租税法に関する限り、この両方を読者として想定する入門書は十分に成り立つと考えています。

ナカ兄
 なるほど。それでは、そういう読者に向けて、どういうことを伝えたくて本書を執筆されたのですか?

佐藤
 それは、ズバリ、「租税法は面白い」です。
 君は租税法のどういうところが面白くて勉強を進めましたか?

ナカ兄
 はい、僕は、租税法の条文が細かくてあっちとこっちとで一見関係がなさそうなのに平仄があっていたり、パズルが解けそうで解けなかったりというところに惹かれました。
 たとえば、所得税法45条3項で一時所得についてだけ家事費の例外があったりするところなんか、何故だろうとか気になったりして・・・。

佐藤
 そうそう、あれは最初見たときには不思議ですよね。でも34条2項と読み合わせると・・・。

ナカ兄
 ! 先生、ダメです。
 この対談は“「租税法の勉強を始めようかどうしようか」と迷っている人のための『プレップ租税法』”を“「買おうかどうしようか」と迷っている人”向けの販促企画ですから、租税法の中身自体についてしゃべらないように気をつけろって言われています。

佐藤
 ええ、そうでしたね。そういう細かい解釈問題が出てくると、ついツッコミたくなって。
 ところで、租税法にはそういう頭の体操というかパズル的なミクロの面白さと、もっと大枠の制度論・政策論みたいなマクロの面白さと両方ありますから、ホントに飽きないですよね。

2 「会話体」のねらい

ナカ兄
 「租税法フリーク」を自認しておられる先生に租税法の面白さを話していただくと、けっきょく本1冊分伺うことになりかねませんので、「面白さ」の具体的な内容は『プレップ租税法』でご覧いただくこととして、話を先に進めさせていただきますと、「入門の入門書」を書くにのに、あまり例のない「会話体」を使うことにされたのには、特に理由はありますか。

佐藤
 「読みやすく面白い」ということもありますが、何よりも読者の理解を深めるのに適切だと考えたからです。会話体だと、読者が理解しにくいところや間違いやすいところで、登場キャラが一度間違って、誰かがそれを訂正しながら正しい議論につないでいくというようなことが容易にできますが、普通の文体でそういうことを繰り返していると、ずいぶんうっとおしい文章になってしまうと思います。
 それから、先ほど「あまり例がない」と言われましたが、入門書に限ると会話体の本もかなりあるんですよ。法律学の分野で有名なものとしては末弘厳太郎先生の『法学入門』がありますし、分野は違いますが、小針 宏さんという方の『対話・現代数学入門』という本も、学生の頃に読んで感動しました。この本は今では『すべての人に数学を』という題名で日本評論社から出ています。
 それから、純粋な意味での会話体ではありませんが、黎明書房から出ていた『化学のドレミファ』(米山正信著)のシリーズなども、会話が中心で分かりやすく入門的な知識を与えてくれる良い本でしたね。『プレップ租税法』をこういう名著になぞらえるつもりはありませんが、自分が学生のときに良かったと思えるところは取り込んで、今の学生の皆さんのために本が書ければ、と考えました。

ナカ兄
 そうですか、そんなに色々と先行する良書があったんですね。知りませんでした。
 さて、さらに話を進めますと、先生がこの本をご執筆になるときに、一番苦労されたのはどういう点でしょうか。

佐藤
 それは何といっても、君たち登場キャラのお守りですよ。
 まったく、著者の苦労も知らないで勝手なことばっかり話すし。だいたい、君なんか、最初は目つきの鋭い、ぶっきらぼうな人物だったはずなのに、従姉妹の親友に懸想なんかするから、途中でキャラの土台から作り直さなくちゃならなくなって、いったい、どれだけ手間がかかったと思っているんですか。

ナカ兄
 あわ、あわ、あわ、そんな、懸想だなんて・・・

佐藤
 だって、本当でしょう? これから『プレップ租税法』を買う人はともかく、読んだ人はもうみんな知っているのですから、今さら恥ずかしがったって無意味ですよ。

ナカ兄
 この企画は「まだ読んでいない人」向けなんですけど・・・。

3 書くとき気をつけた点/読むとき気をつける点

ナカ兄
 他に、苦労されたところと言えば?

佐藤
 租税法の記述とネタの部分との区別ですね。たとえば「相続税の四重課税」というのは、まあ今はアメリカの連邦遺産税との関係が微妙といえば微妙ですが、とにかく、いくらショッキングでもかつて本当にありえたことです。これは租税法に関する記述だから正確でないと困る。
 これに対して、お餅と一緒に入れ歯を飲み込んだらどうなるかとか、法律相談部の夏の催しがどういうものかとかいうことは、いわばネタの部分ですから、よくは知らないこともあるけど、まあそれは「おはなし」ということでいいや、という態度ですね。このあたりの区別が読み手に伝わるように気をつけたつもりです。

ナカ兄
 あと、読者としてはどういう所に気をつけて読むとよいですか?

佐藤
 まあ、全体を通じて楽しんでいただければ良いのですが、ひとつだけあげるなら、説明がわざと打ち切られているところがある、ということですね。著者の立場から言えば、本書では、「書きすぎない」ことに気をつけました。
 神戸大学法学部で授業を担当し始めて3、4回目だったでしょうか、受講生にお願いした授業アンケートの回答に「説明するときは『原則』と『例外』にを止めてください。『例外の例外』や『そのまた例外』が出てくると、完全に頭が混乱します。」というコメントがありました。当時の私は制度の姿をできるだけ正確に伝えることに力を注いでいましたから、これは目からウロコが落ちるような指摘でした。そしてそれ以来、受講している学生が理解しうる範囲の説明に限定するということに注意するようになりました。
 その発想はこの本でも生きていて、これから勉強する人向けなのだから、先で学ぶべきことは敢えて書かない。「どうしてだろう?」「どうなっているんだろう?」という疑問を持ってもらうところで止めるという努力をしました。

ナカ兄
 でも、疑問を持っただけでほったらかしにされると読者はイライラしますよね。

佐藤
 だから、どこまでは書いて、何を書かずにおくかに苦心したわけです。

ナカ兄
 そうですね。どうしても知りたければ「気になったときに」の文献案内を手がかりに、そこだけ調べればよいわけですしね。
 それから、これは少し伺いにくいことですが、「少し失敗したかも」と思われている点がありましたら、ここだけの話ということでご紹介いただけませんか。

佐藤
 失敗というのとは違うかも知れませんが、この本の冒頭、第1講の最初が少し「堅い」感じになってしまっているんですよね。まあ、「教授」によるガイダンスですから仕方はありませんが。
 それで、この最初だけ読んで「この本はパス」と思われる可能性はあるなと、書いてから思いました。第1講をもっと、とっつきやすくしておくと、本書のねらいがもっとよく達成できたかも知れません。

ナカ兄
 たしかに、「キャラ全開」という感じになるのは、僕が登場する第2講からですね。

4 書かなかったことなど

(コンコン、とノックして入ってくる)あ、いたいた。

ナカ兄
 (従姉妹が入ってくるのを見て)あっ! あ~、なんだお前ひとりか。

ひとりっきりで悪かったわね。あ、佐藤先生、こんにちわ。あたし、是非、ひとこと言っておきたいことがあるんでお邪魔しました。この本、出来上がったのを見ると、あっちこっち削りすぎて人物関係とかが分かりにくくなっているンじゃないですか? あたしとナカ兄は単にイトコなだけじゃなくて自宅が隣り合わせで、自分の家は共働きだから、けっきょく、ずーっと、学校から帰ったらナカ兄の家で宿題を手伝ってもらったり遊んだりして兄妹みたいに過ごしていたとか、あたしと彼女は大学の附属高校の3年のときのクラスメイトで、そっからずーっと一緒の仲だとか、全部、消えてますよね。

ナカ兄
 そうそう、僕たちの家が大学近くのいつもの商店街付近だというのも、駄菓子屋のオジサンが僕に「角の家の次男坊」って呼びかけるところから推測する他はないですし。
 姫も「わたくしの出番が少ないですわ」って、カンカンでしたよ。まあ、あのヒトは出てくるだけややこしい気もするけど。

佐藤
 分量の制限があるんです。今のままでも少し多すぎるのに、君たちが言いたいことを全部書いていたら、500頁あっても納まりません。取捨選択は著者の権限です。

ナカ兄
 それに、GWの合間に3人でやる勉強会は、元は2講分あって、前半が所得税の基礎の復習、後半がこれからの予習だったのに、出版されてみたら後半だけが第4講になっています。

あの「山ごもり教団」が出てくる回ね。ホントだ、あれもなくなってる。

ナカ兄
 そうそう、あれ面白かったのに。僕もずいぶん頑張って説明したんですけどね。

佐藤
 あれは、授業で扱った話題にさらに君が解説を加えるという筋書きだったために、はじめて読む租税法の本にしては内容が難しすぎるように思えたので全部削りました。それに、そういうことを全部入れていたら『プレップ租税法①』『プレップ租税法②』となって、いつまでたっても本格的な教科書に入れないでしょう。飽くまでも『プレップ』のコンセプトは「入門の入門書」ですから、さっと通過して「入門書」や「教科書」に行ってもらわないと困るんです。

(ノックの後、入ってくる)失礼します。あ、やっぱりここにいた。だめよ、先輩の邪魔しちゃ。ほら、こっちに来なさいって。

ナカ兄
 (パッと明るくなって)やあ、そろそろ時間だから。もう、このままでいいよ。では、先生、最後にこの本のセールストークを、ひとことお願いします。

5 最後にセールストーク

佐藤
 神戸大学のサイトにも載せていますが、本書では、何よりも、読者に租税法に興味を持ってもらうということを目的とし、「租税法を知らないとこんなに大変なことになる」、「租税法を勉強するとこんなに面白い話題に触れることができる」ということを、学部生、法科大学院生、大学の教授、商店街の人々などが登場する「会話体」で書いてみました。夏学期の大学を舞台に、4月のガイダンスから期末試験直前までの期間を、時間の経過とともにストーリーが展開して行く仕掛けになっていて、ツッコミの効いた軽妙な会話や登場人物の淡いロマンスなど読者サービスも一杯ありますから、大学2年生程度の知識と能力があれば、参考書として、また、「読み物」として楽しんでいただけると思います。というのでどうですか。
 簡単にいうと、「読み物としては租税法のことがもっとも詳しく書いてあって、租税法の本としてはもっとも読み物っぽい」ということでしょうかね。

それって「読み物にしてはごちゃごちゃ租税法のことがでてきてうるさいし、租税法の本としては内容が薄い」ってことじゃないかなあ。

うん、そういうことを言う人もいるかもね。

佐藤
 ・・・君たち、そんなことを言っていると、改訂のときにどういう目にあうか、少しは考えた方がいいですよ。

でも、先生、それは、もし改訂できるほどこの本が売れたら、ってときのことですよね。

佐藤
 ・・・。

ナカ兄
 それでは、今日は長時間、大変ありがとうございました。
 最後に一言申し上げますと、佐藤先生は、次回のエッセイを担当される森戸先生とは、東大法学部の研究室で1カ月だけご一緒だったということです。
 僕との対談前に、「高木先生は昭和29年生まれ、北村先生が昭和35年、私が37年生まれだが、森戸さんで、とうとう昭和40年生まれの登場か」なんて、感慨深げにおっしゃっていました。
 昭和30年代でも40年代でも、「大昔」にたいした差はないと思うけどね。

『プレップ租税法』の詳細は弘文堂HPよりご覧いただけます。

第4回『プレップ労働法』

上智大学教授 森戸英幸(もりと ひでゆき)

1965年 千葉県生まれ
1988年 東京大学法学部卒業
        東京大学法学部助手、成蹊大学法学部助教授、
         ハーバード大学ロー・スクール客員研究員、成蹊大学法科大学院教授などを経て、
現在     上智大学教授

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 プロローグ――バトンを受けたアンカーとして

──いやいや、昭和30年代と40年代は大きな違いがありますよ! なにしろ、昭和48年とか49年生まれだって「同世代」です。松井秀喜もレオナルド・ディカプリオも松嶋菜々子も同世代。そこいくと昭和30年代って、中野浩一にビル・ゲイツに坂口良子ですから。まあビル(友達かよ!)は自分が昭和何年生まれか知らないとは思うけどさ。

・・・と、まずは前回の佐藤先生のエッセイの最後に噛みついてみました。ガブッ。だいたい佐藤先生は私になにか恨みでもあるんでしょうか、東大法学部の研究室時代は佐藤先輩の草履を懐で温めた記憶さえあるのに、エッセイの冒頭ではこんなこともおっしゃってます。こういうのを専門用語で「無茶振り」と言います。

――何となく、ここ3回は「神戸つながり」ということになりますね。

_| ̄|○

(んじゃオレもつなげないワケにいかないじゃないかっ! 神戸、神戸・・・神戸つながり・・・そして神戸・・・♪こぉーべぇー、泣いてどうなるのかぁー、じゃなくて・・・友達がいる、くらいじゃつながりとは言えないし・・・アンリ・シャルパンティエのお菓子はおいしいと思う、くらいしかないぞ・・・ん、お菓子?! そうだ、これだ!)

 一気に読む本

皆さんこんにちは。前世で神戸の菓子職人だった森戸です。というわけでなんと奇遇な、神戸つながりが4回続きました。納豆を朝晩2パックずつ食べる(ゲフッ)とこういう不思議なことも起こります。

『プレップ労働法』ですが、他の3冊の新プレップ・シリーズ同様、なによりもまず装丁がカッコいいと思いませんか? CanCamの表紙でエビちゃんが小脇に抱えてたというウワサもあります(あくまでウワサ)。ジャン・ポール・エヴァンのチョコみたいです。なのにジャン・ポール・エヴァンより安いし、あっという間になくなったりもしません。ちなみにエヴァンは日本の伊勢丹で買うと高いので、国際会議でパリに行ったとき買いに行きました、エコール・ミリテール(士官学校)のそばの店。助手論文以来全然やっていないフランス語、「ボンジュール」でいいんだよなー、と頭のなかで復唱しつつ緊張の面持ちで入店すると、「いらっしゃいませ!」と見事なネイティブの日本語でお出迎えを受けました。そこはもう商売ですから、ちゃんと日本人の店員さんを雇ってるワケですね。国境を越えた労働契約関係が成立してました。ああここにも労働法が、droit du travailが。しかし緊張して損したぞ。そして言葉が通じるからいっぱい買っちゃったじゃないか(>_<)

おっと、チョコの話じゃありませんでした。高級チョコっぽい素敵な装丁のプレップの話でした。どんな本かというと、まあ労働法の(一応)入門書です。本書の「はじめに」にも書いたのですが、とにかくまずざっと一気に読んで下さい。できれば息つぎなしで(死んだらすいません)。そうするととりあえず「労働法ってだいたいこんな感じなのねー」というのがわかってもらえると思います。それでもし「なんだ労働法ってつまんないな」と思っても、それはプレップのせいじゃなくて労働法のせいです。労働法自体があなたにとってつまんなかったってことでしょう。さっさとあきらめて選択科目を租税法か環境法に変えましょう。

なにかわからないことがあるときに該当ページをちょこっと開いて調べるための本というよりは、頭からお尻まで一気に読む本。そうやって労働法の全体像を理解して欲しい。そのために書いた本です。幸い、本書を手にした皆さんの多くも、まさに私が意図したような読み方をして頂いているようです。ネット上でたまたま見つけた(実は一生懸命探してたりして)、ロースクールに入学される予定(らしい)ある学生さんは、ブログで、

「労働法の全体像をスピーディに把握しようと思うならば、この本はオススメですね。基本的にバイトの帰りの電車内では疲れているので、法律書を読むのは止めていたんですが、この本は読めます! とても分かりやすいですし、頭に入りやすい記述がなされていると思います。」

 と書いてくれました。ありがとうございます(勝手に引用しちゃってすいません。連絡くれればメシおごります・・・ただし自然債務)。とくに、バイトで疲れた電車の中でも読める、っていうところが本当に嬉しかったですね。つまりは「少年ジャンプ」に勝ったワケですから。ってそうじゃないのか。

 また別の現役ロースクール生もこんな風に言ってくれました。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のミクシィ(mixi)で頂いたメールですが、

「教科書を読んで楽しい、面白いと思った経験は最近なかったので一日で全部読んでしまいました・・・この本で全体構造をきちんと掴んで菅野本・百選で新司法試験に突入しようと思います。」

これまた「一日で全部」、それから「全体構造をきちんと掴んで」ってところがグッと来ましたねえ。そうそう、そんな風に読んで欲しかったんだよー、って。これまた、新司法試験合格祝いにメシでもおごってあげたいと思います(やっぱり自然債務)。

ほかにもいろいろ好意的な反応は頂いています。労働法の講義を履修している学生から、そして労働法学会の研究者仲間・先輩の先生方から。でも教室にいる学生はそもそも私から単位をもらう立場ですから、そんなヒドイことは言わないでしょう(学生ラウンジでは言ってるでしょうが)。研究者の先生方も、私がこの本を差し上げてますから、まあもらっといてそんな悪いことも言わないでしょう(学会の懇親会では言ってるでしょうが)。でもここでご紹介したお二人とは全然面識がないんです。どっかのタウンミーティングみたいに3,800円払って本の宣伝をしてもらったわけでももちろんありません。ご自分の意思で私の本を手に取り、買ってくれた(ここではやっぱ装丁が効果発揮?!)。そして、まさに筆者の私が意図したような読み方・使い方をしてくれて、役に立ったと言ってくれた。文章を書いて人に読んでもらう仕事をしていてよかったな、と心から思いました。

3 「入門書」を超えて

 ところで、なんで(一応)入門書と「一応」がついているんでしょうか。謙遜? もなくはないですが、その逆もあったりします。第1に、労働法をある程度知っている人ならわかることですが、この本、型破りな感じはしますが、実は全体の項目建てというか構成は、極めてオーソドックスです。フツーです。労働法のスタンダードな教科書といえば、言うまでもなく菅野和夫先生(尊敬してやまない私の師匠です)の『労働法』(弘文堂)ですが、それと比べてみて下さい。本の厚さとおちゃらけ度はだいぶ違いますが、全体の流れは大きく違っていないはずです。まあそれも当然といえば当然かもしれません。私が最初に勉強した労働法の体系ですから。

 つまり、「入門書」だからということでなにか特別なスゴイ労働法入門術?をご紹介している本ではありません。ある意味、フツーの労働法の本です。だから、「一応」。個人的には、労働法にかぎらず、法律の勉強にそんな近道なんてないと思っています。ひととおりの知識を頭に入れた上で、それを実際に使う。基礎を身につけて、応用する。それだけのこと。それだけのことなんだけど、ただ、最初の「ひととおり」身につける、ところでつまずかないように、そこを一気に駆け抜けて貰えるように、ということでこの本を書きました。ざっと一気に読んで欲しい、というのは要はそういうことです。

 第2に、入門書と言いつつ、実は私独自の見解(一応「学説」?)もあちこちにちりばめられています。たとえば、労働協約のいわゆる「有利性原則」について(40ページ)。たとえば、ユニオン・ショップ協定の効力について(249ページ)。そのほか、網掛けのコラムでも随所でそれなりに発展的な議論の入口くらいはご紹介しています。あとは、学説ではないですが、たとえば、労働時間の「デコボコ化」と「フニャフニャ化」(200ページ)というネーミング。たとえば、ヒットチャート風・労災保険料率「ランキング」(225ページ。やっぱ「ザ・ベストテン」で青春時代を過ごした影響ですね)。

 「入門書」としての最低限の義務――つまりは現行法と現在の判例のルールをきちんと説明すること――これを果たした上で、でもやっぱりそれだけじゃ芸がないので、曲がりなりにも学者が書く本としての最低限の義務、つまりはオリジナリティですね、これもちゃんと追及したつもりです。

4 「若者言葉」じゃありません

最後に、この本では、本の帯にもあるように、労働法の適用場面を、職場でリアルに交わされていそうな「会話」を織り込みながらわかり易く解説しています。これもそれなりにオリジナルのつもりでしたが、実は『プレップ租税法』とかぶっていたようです。ベルに負けたエジソンの気分です。まあでも「会話」のタイプが違うので知的財産権法上の問題は生じないでしょう。私の本の「会話」の方がより断片的というか刹那的というか。短期コール市場的な感じです。ってどんな感じでしょう。まあ読み比べてみて下さい。

ところで、某同僚の先生から、「若者言葉をうまいこと使いこなしてるねぇ」というようなお言葉を頂きました。しかし実はこれは私としては心外だったりします。なぜかというと、第1に、この本に出てくる会話は、確かに結構くだけた感じではありますが、「若者言葉」ではありません。みなさーん、現代の「若者」は、もっともっとスゴイ言葉でしゃべってるんですよー! オジさん&オバさんにはもう理解不能ですよー。仮に理解できたとしても、格調高い?弘文堂の本には載せられないくらいの危険な語彙なんですよー。この本の会話が「若者言葉」に聞こえちゃう人はもうかなりヤバイですよー、生物学的に。

第2に、「若者言葉」でもなんでもいいんですけど、私は普段だいたい、この本の会話に出てくるような言葉をしゃべっています(さすがに女性口調ではないですが)。自分が「若者」だというつもりは毛頭ありませんが、要は自分が普段使っているような言葉で書かせてもらったということです。つまりは、「使いこなしてる」んじゃなくて、「使ってる」んです、フツーに。ってことは、この本にちょくちょく出てくる「顔文字」も? そうです、私のメールは顔文字だらけですよ。(^_^;) (>_<) (-_-) お気に入りはこのあたりですね。でもちょっと前に菅野先生へのメールに(>_<)という顔文字をつけたら、先生は「ん? カッコ、不等号、アンダーバー、不等号、カッコ、こりゃなんだ?!」とクビをひねってらしたそうです(秘書の方情報)。それ以来菅野先生にはノー顔文字メールにしています。

5 エピローグ――次のバトンは・・・

ということで、とりあえず私がアンカーですから、このリレーエッセイはひとまずここでゴールですね。行政法、環境法、租税法、労働法、と来て、さて次はなにが出るんでしょう? やっぱりすでに宣伝に登場している刑事訴訟法か? それとも新司法試験の選択科目が先になるか? 一応オッズは以下のとおりです。

プレップ刑事訴訟法...................................................7倍        
プレップ倒産法.........................................................4倍 
プレップ経済法.........................................................4倍
プレップ知的財産法...................................................3倍
プレップ国際公法......................................................4倍
プレップ国際私法..................................................3.5倍
プレップ労働法リローデッド....................................1000倍
プレップ労働法リボリューションズ..........................10000倍

『プレップ労働法』の詳細は弘文堂HPよりご確認いただけます。