奥田 真也

  • Shin'ya Okuda
    大阪学院大学流通科学部助教授。
    1973年生まれ。一橋大学大学院商学研究科博士後期課程修了。博士(商学)。専門は会計学。

recre-Contents

著作権表示

  • © 2005 KOUBUNDOU, Ltd. All Rights Reserved.

会計の今後―国際化と非財務情報

 さて、約1年続いてきたこの連載も今回で最後となりました。まず今回までの講義を簡単におさらいします。まず、会計とは、企業が主に金銭に関する情報を用いて、コミュニケーションを行っている側面を勉強する学問である、ということを説明しました。その際には財務諸表と呼ばれる成績表が用いられていました。それを作成するための技術が複式簿記です。そして、そうやって作られた財務諸表は、法的に強制されて開示することもありますが、自発的に開示することもありました。また、成績表の内容を保証したり、あるいは読み解いたりする専門家が活躍していることも勉強しました。さらに、企業内部でも、会計情報を用いたコミュニケーションがあることも勉強してきました。
 最終回になる今回は、会計の研究あるいは実務で注目を浴びているのキーワードを簡単に紹介したいと思います。限られた紙面という制約と、私の限られた能力というより強い制約を加味して、ここでは二つのキーワードに絞って解説をしたいと思います。一つ目のキーワードは他の分野でも良く聞くキーワードである「国際化」です。そして二つ目のキーワードは「非財務情報化」です。

国際化
 「国際化」というキーワードは社会科学のどの分野でもある程度重要な話題となっていますが、会計もその例外ではありません。但し、特に財務会計の領域において、国際化の問題は2007年問題といわれるほど注目を浴びています。そこで、この問題がどのようなものなのか簡単に解説しておきましょう。
 第三回の複式簿記を説明した回で、日本の簿記や会計と外国の簿記や会計とは大きく異ならない、と書きました。しかしながら、この程度の差であっても微妙な差があるのは事実で、異なっていない方がコミュニケーションの進展に役立つ事は間違いありません。しかしながら、従来は各国独自の法制度や商慣習が優先され、各国が独自の会計上の約束をもっていました。この約束は会計基準と呼ぶのですが、これが異なることで、各国企業の成績表は微妙に異なる成績がついていたのです。このことが理由で、日本の基準で作成した財務諸表を見たら黒字だが、米国の基準では赤字である、というような事例がしばしば見られるようになってきました。
 これに対して金融市場のグローバル化が進む中、会計基準やそこから導かれる財務諸表が各国間で異なるのは不都合がある点が大きくなってきました。そのため、日本でも世界各国の基準と歩調を合わせるために1990年代後半から矢継ぎ早に制度改革が行われました。これは「会計ビッグバン」とも呼ばれるほどの大改革でした。
 さらに、最近特に国際化が話題になっているのは、EU(ヨーロッパ連合)において、会計基準を統一化されたことによる影響です。言うまでもなくEUには多数の国が含まれ、その各々は独自の会計基準をもっていました。ところが、2005年よりEU内においては基本的に国際財務報告基準と呼ばれる同一の会計基準が適用される事となりました。そして、国際財務報告基準はEUに所属する国の企業だけにとどまらず、EU域内において資金調達を行う企業にも2007年より適用される事となったのです。日本企業でも、グローバル展開している企業は、EU域内で資金調達を行っており、この規制の対象となったのです。
 ただし、もし日本基準が国際財務報告基準と同等の基準であると認められれば、日本企業は国際財務報告基準に基づいた会計処理はしなくて良いのです。しかし、同等と認められなければ、国際財務報告基準に基づいた会計処理を行い、その会計処理に基づいた財務諸表を公表する事が求められるようになります。この同等性評価はつい最近、2009年まで行うことというように、期限が延期されました。ただし同等と認められるにせよ、認められないにせよ、日本の会計基準や会計慣行が国際財務報告基準と無関係ではいられないでしょう。その意味で、会計の国際化は否応なしに進んでいっているのです。

非財務情報化
 もうひとつ最近の会計トピックで注目を集めているのが、非財務情報、つまり金銭情報以外の情報に関する研究です。ここまで、会計は主に財務情報を扱う、としてきたにもかかわらず、なぜ急に財務情報以外の情報が出てきたのか、唐突に感じられる人も多いと思います。しかし、会計情報はあくまでコミュニケーションツールのひとつである、という最初の立場からすれば、そのツールとして、金銭情報だけに限る必要はありません。それ以外の情報でも、コミュニケーションに役立つのであれば、積極的に利用すればかまわない、ということになります。
 ではなぜ、最近になって非財務情報を使ったコミュニケーションに注目が集まってきたのでしょうか。ひとつは、お金で測れないが、重要なものがあるという認識が広がってきたからです。情報技術の進展や経済のソフト化が進む中、現時点で金銭価値は無くても、将来金銭価値を生みそうなものに注目が集まるようになってきました。その中で注目を浴びている分野の一つが、知的財産の分野です。企業は研究開発活動などで、現時点では製品やサービスにつながっていないとしても、将来の競争力の「芽」になるような情報や特許など目に見えない財産をもっている場合があります。こういった財産の金銭評価は難しいのですが、企業の将来を見極めるために、投資家は是非とも知りたい情報といえるでしょう。それに呼応する形で企業も「知的財産報告書」という名称で、知的財産に関して詳しい内容を公表する例が増えてきています。
 上の話は、経済的側面からのみの評価でしたが、それ以外でもお金で測れない、あるいは測ってこなかったものにも注目が集まるようになってきました。そのなかで大きく注目を集めているのが、環境情報と社会責任情報です。地球温暖化問題に代表されるように、環境問題は重要な社会問題のひとつです。それに対して、一部企業は積極的に対処しており、環境にやさしい製品やゼロ・エミッション活動など、環境に負荷をかけない企業である、という広告をしばしば見かけると思います。これらの活動を包括的に説明するために、環境報告書と呼ばれる報告書を公表したり、自らが環境にかけている負荷などを金銭評価する環境会計を実施したりする企業が増えています。
 また、残念ながら、毎年のように大規模な企業不祥事が発覚し、事件化しています。情報漏れなどの小さな不祥事であれば、報道されない日がないといっていいほどです。このような中で、経済的側面による成果を上げることに加えて、社会にとって迷惑をかけない、あるいはもっと積極的に、社会に対して共存していくという姿勢を見せることが重要視されるようになってきました。このような、企業が社会に対する責任を負っていることから行う活動をCorporate Social Responsibility(CSR)活動と呼びますが、こういった活動を企業は積極的に行い、開示するようになって来ています。このような活動を報告しているのがCSR報告書やサステイナビリティー報告書と呼ばれるものです。
 これら報告書の提出は法で強制されたものではありません。よって、第4回で勉強した自発的開示のひとつの例になります。つまり、投資家を含めた外部のステークホルダーと企業とのコミュニケーションに、金銭価値以外の手段が用いられている例といえるでしょう。
 企業外部とのコミュニケーションだけでなく、企業内部のコミュニケーション、つまり管理会計の分野においても非財務情報の重要性は増してきています。財務情報と非財務情報のバランスをとった手法として、バランス・スコアカードと呼ばれる手法が、研究上も実務上も注目を集めています。この手法は、金銭価値に重きを置く財務の視点以外にも、顧客の視点や、社内ビジネス・プロセスの視点、学習と成長の視点、といった多数の視点から目標を設定し、それらをバランス良く実現しようとするものです。財務以外の視点は企業毎に異なるようですが、各々の視点はその企業が長期的に成長するのに必要不可欠な要素が選ばれています。そして、それらの視点が相互に関係しており、どれか一つを欠いても長期的に見れば損を生み出してしまうものが選ばれます。
 例えば、サービス業で経費削減のためにサービスを低下させれば、一時的には利益が向上するかもしれませんが、中長期的には顧客満足が下がり、その結果、利益が減少してしまうかもしれません。ところが、財務指標だけに注目していると、そういった中長期的な目標が疎かになってしまう可能性があります。逆にお客様は確かに神様ですが、その要望に全てこたえようとすると、顧客満足はあがっても、コストがかさむわりには、利益があげられなくなるかもしれません。そこで、各々の相互関連性を確認しつつ、各々の目標を設定することで、中・長期的にバランスをとった成長を成し遂げるための手法が注目を集めているのです。

最後に
 高校生に対する講座という事で、特に最後の方では、会計の中の話にとどまらず、ファイナンスや法律、経営といった分野との関係についてふれてきたつもりです。会計や簿記はお金の数え方、計算の仕方を勉強する以上に、どんなことを勉強するのだろう、と思っている人は多いと思います。しかし、単にお金の数え方でとどまらずに、お金を数えるという事が他の分野、ひいては社会とどうつながっているかということを書いてきたつもりです。
 また、高校生までの勉強とは違う大学の講義の特徴を知ってもらいたかったということがこのような書き方をしてきた狙いとしてあります。大学の講義一つ一つはもちろんそれ自体で完結しているのですが、それ以外との講義も深く関係しているという事を知ってもらいたかったのです。高校まででは、例えば数学と理科の物理は関係していたでしょうが、数学と社会や英語と理科といった科目間の関係を意識してこなかった。私の受験時代を振り返ると、社会科の中でもそれほどの関係を意識してきませんでした。
 しかしながら、大学にはいると、各科目間の関係を意識して勉強する必要があると思います。ただ、そのくくりは、それほど明示的に提示されている物ではありません。会計や経営、金融といった大きなくくりの中でさらに講義が細分化されています。この大きなくくりの中ではある程度各々の講義の関係が提示されていますが、大きなくくりを越えた関係になると、明示的に関係が示されていないことが多いと思います。7回の講義で提示した会計と他の講義との関係はほんの一例に過ぎません。また、各大学で提示されている関係もあくまで一例だと思ってください。むしろ自ら大学が提示したくくりを越えた関係を見いだして、なにかを見つけ出せるような学生になって欲しいと思っています。
 これらの目論見が成功したかどうかはここに来てもらった読者の皆様の評価に任せるしかありませんが、ビジネスを知る手段の一つとして会計を(も)学んだら面白そうと思ってもらえれば、この講義は成功だと思います。

管理会計-企業内部のコミュニケーションを支える会計

 前回までは主に企業やそれを経営する経営者と株主に代表される投資家とのコミュニケーションに用いられる会計について話を進めてきました。つまり、主に企業と企業外部にいるステークホルダーとのコミュニケーションについて説明した事になります。なお、株主は企業の所有者なので、企業内部といえるかもしれませんが、ここでは直接業務に携わっていないという意味で企業外部としておきます。このような会計分野は財務会計と呼ばれます。つまり、前回までは財務会計について勉強してきた事になります。
 ところで、会計情報は企業内部でもコミュニケーションに用いられます。つまり、社内の行動を金額で評価して、記録し、報告されるのです。このような会計分野は管理会計と一般的に呼ばれます。今回はこの管理会計について説明を行いたいと思います。
 管理会計は企業の内部で実施する会計ですので、どのように会計数値を用いるかは会社によって千差万別です。これは、基本的な成績表である財務諸表が統一されている財務会計と大きく異なる点です。このため、各々の企業の状況に応じて適用される管理会計手法は異なってきます。
 この、短い紙面で管理会計を全て概観するのは難しいですので、計画と業績評価の二点に絞って、管理会計を概観しようと思います。この2つに絞る理由は、企業の管理に於いてしばしばPlan-Do-Seeというサイクルが重要視されるからです。これは、企業経営に於いては、計画をたて、それを実施し、実施された内容を評価しよう、ということの繰り返しであることを端的に示したものです。そこで、今回は、PlanとSeeの部分において管理会計がどのように用いられているかを概観したいと思います。

計画のための管理会計
 計画の際になぜ会計が重要なのかを考えてみましょう。マーケティングの小部屋や経営の小部屋では企業がどのようにして競争に立ち向かっていくのかの視点が書かれています。それらの視点を用いて、企業は戦略をたてるのですが、その際に会計情報は欠かせない情報であるといえます。
 例えば、経営の小部屋のドメインの回では、文房具メーカーのコクヨが、家具を販売している例が紹介されていました。その文房具メーカーが初めて家具の販売に進出するときの事を想像してみましょう。ドメインという観点から家具の販売への進出が合理的である事は分かったと思います。ただ、そう思いついたからといって、その戦略に実効性がなければ、この思いつきは単なる絵に描いた餅です。
 では、実際に家具を売るとすると、どのような事を考えなくてはいけないでしょうか。家具は文房具より場所をとるでしょうから、今までよりも大きな配送センターが必要となるでしょう。そうなると、配送センターを新たに設けるための場所が必要となり、そのために資金の手当てが必要となるでしょう。売る相手は今までと同じとしても、家具を他のメーカーから買うにせよ、作るにせよ、新たな仕入先を開拓せねばなりません。そのためには人員も必要でしょう。そして、人員を増やすという事は新たに人件費がかかる事を意味します。
 実際にこれらの事を考慮に入れた上で、コクヨは家具の販売を始めたと思います。この例から分かるように、優れた戦略を実際に儲けに結びつけるためには、様々な制約条件を考慮に入れねばなりません。ただ、それらの制約条件をただ列挙してもあまり意味がありません。たいしたことがない制約に無意味におびえたり、逆に本当は重大な問題であるのに、過小評価してしまったりするかもしれません。そのようなことを防ぐには、見込まれる売上・収入とそれに必要と思われる費用や支出をきちんと計算することが一つの方法となります。このような計算のために用いられるのが「予算」、つまり計画表の作成です。
 ここで一口に予算と述べましたが、予算にも様々な種類があります。そこで、ここでは期間の長短で分けて考えていきたいと思います。一番長い期間の計画を立てる予算は長期予算と呼ばれ、大体5年程度以上の先を見越すような予算のことを指します。ここでは、企業全体の方向性が大まかに示される事となります。自社のドメインを再定義して、新たな事業への進出を考える、あるいは他種類の事業を抱えている会社であれば、各事業の将来性を図った上で、各々の事業にどれだけの経営資源を投下するのかのバランスを再考する、等がこの長期予算で主に考慮に入れられる事項になります。
 次の長さのものとしては、3-5年程度の計画として中期経営計画がしばしば立てられ、予算化されます。この計画では、主に各々の事業単位での戦略について考慮に入れた予算が組まれます。このレベルでは各事業の強みや弱み、機会や危機等が分析され、その各々に対処するための、製品開発や新販売先の選択、あるいは売れなくなったラインの閉鎖などの意思決定が行われます。
 一番短い予算は一年あるいはそれ未満で組まれる短期計画です。このレベルでは通常、各部署毎に予算が組まれます。販売部署であれば、販売目標数や金額が、製造部署であれば、生産目標数や一製品あたりのコストなどが予算として重要な項目となります。ここまでくるとかなり具体的に行動の規範となりえます。
 ただ、このような三種類の予算の分け方は一般的な製造業の場合に当てはまるものであり、全ての会社に当てはまるものではありません。鉄道や電力会社といった公益産業の場合は、施設を作るという意思決定をしてから、実際に稼働し、収益を上げ始めるまでに長い時間がかかるでしょうから、長期的な意思決定が重要となるでしょう。これに対して、技術革新が早く、技術が陳腐化しやすいIT業界では3年先の意思決定といえば、かなり長期の意思決定となるでしょう。このように、業種や競争状況、企業の成熟具合などに応じて、各々異なった対応が迫られ、それに対応する必要がある、というのが管理会計の特徴といえるでしょう。

業績評価のための管理会計
 さて、計画というのは建てたからといってそれだけで意味があるものではありません。小学生の頃に夏休みの予定表を書かされる宿題がありましたが、その予定表通り実際に6年間勉強出来ていれば、今頃もっと良い頭が良かっただろうにとか思っている人は多いのではないでしょうか(筆者だけかもしれませんが)。これはつまり、計画は立てただけではだめだという事です。その計画がきちんと実施されているかどうかをチェックする必要があるということです。そして、その達成度合いに応じて報酬が与えられたり、叱責されたりして初めて動こうとする人もたくさんいるでしょう。先ほどの宿題の例で言えば、宿題を出さなくて怒られるのが嫌だから、しぶしぶ宿題をやった、という経験をもっている人は多いと思います。ただ、そのような場合でも結果として宿題をやったわけですから、少しは学力という成果に結びついているでしょう。このような仕組みが会社にも必要である事は容易に想像がつくと思います。
 ただ、ここで計画からずれている、それだけの理由で褒められたり、逆にしかられたりしてよいわけではありません。その理由の一点が、計画からずれた原因がその計画の実施に責任を負っている人の責任でない事でずれた可能性があるからです。例えば、地震や大雪で輸送コストが値上がりしてしまい、その結果工場でのコストがかさんでしまったとしましょう。もちろん、ある程度このような事態も予測しないといけないでしょうが、それにしても限度があります。そのようなときに、コストがかさんだ、その事実で叱責や場合によっては給料が下がるなどすると、現場のやる気がそがれる事は、簡単に想像がつくと思います。
 逆に計画よりも順調だったら、それだけで手放しで喜んで良いかというと、そうではありません。例えば、円安になると輸出される製品は相対的に安く海外で販売出来ます。その結果、輸出産業の売上や利益が上昇するという事は良くあります。そのこと自体は企業にとって喜ぶべきことですが、その成果は企業自身の努力によってもたらされたものではありません。そうであるにもかかわらず、円安で儲かった部門に大きな報酬が与えられると分かっていたとすると、その部門は本来頑張らねばならない努力をしなくなる可能性があります。もし、そのように努力を怠ってしまったら、円高に振れたときにダメージが大きくなってしまいます。このような事を防ぐためにも、幸運によって得られた成果を報酬と結びつけるのは早計である、という事が分かるでしょう。
 また、会社は儲ける事が大きな目的だと書きましたが、一つ一つの部門に対して、利益というもので評価をする事が必ずしも良い事であるとはいえません。例えば顧客から苦情を受ける部署の業績評価を利益で行ったらどうなるでしょう。壊れた商品の代わりの商品を用意すれば、当然費用がかかり、利益が減ります。すると、その部門は顧客からの苦情を出来る限り無視するように行動してしまうかもしれません。すると会社の対応に不満を覚える顧客は増えるでしょうし、その顧客は二度とその会社の製品を買ってくれないかもしれません。それどころか、友達や周り近所の人にその会社の悪口を言いふらすようになり、周りの人までその会社の商品を買わなくなるかもしれません。これは、会社全体で見れば利益を損なう行動といえるでしょう。しかしながら、個々の部門としては間違った行動とはいえません。
 上の三例はすべて、個々の責任の範囲が不明確であるが故に起こってしまった事であります。責任の範囲を超える事に責任を負わされると、本来その人が背負うべき責任のところにしわ寄せがいってしまう可能性があるのです。そのような事を防いだ上で、責任の範囲内のことはきちっと評価するような制度が会社には必要なことがおわかりいただけたと思います。

おわりに
 管理会計を予算と業績評価という二側面から書いてきましたが、実際にはもっといろいろな場面で管理会計は適用されていますし、様々な手法も開発されています。そもそも予算を策定する前に、どのような活動が原因で費用が発生するか分からなければ、予算が立てられませんし、管理も出来ません。また、製品を開発する際にどのような機能がどのような値段で市場に求められているかを見極めた上で、商品の設計を行い、コストと販売価格を決めるということもしばしば行われます。他にも企業内部の様々な局面で会計情報は用いられていますが、それらは実際に大学に入ってから学んでもらえればと思います。
 さて、今回までで財務会計と管理会計という会計の基礎となる部分の紹介は終わりにします。最終回である次回は、今後の会計で重要となってくるであろうキーワードとその内容を概観するつもりです。キーワードとしては、国際化と非財務情報化をとりあげる予定です。
(最終回は4月17日更新予定)

会計のプロ-会計制度を支える専門家

 前回までで企業はどのような成績表をなぜつけなければいけないかを勉強してきました。ところで、もう一度、企業のつける成績表と学校でつける成績表の違いを確認してみましょう。

   企業 学校
成績表をつける対象 企業 生徒
成績表をつける人 企業 先生
成績表が欲しい人 投資家 生徒

 ここで、気付いて欲しいことは、企業においては、(1)成績表をつける対象とつける人が同じ、(2)成績表をつける対象と欲しい人が異なるという点です。この結果、次のような問題が生じます。(1)から生じる問題は、企業は本当に正しく成績表を正しくつけているのかどうか分からないということです。これは、もし学校の成績表の作成が自己採点のみだったらどうなるか、を考えてみればすぐに分かる問題だと思います。これに対して(2)から生じる問題は、そもそも自分の成績でないので、イメージがわきにくい、あるいは理解がしにくいということです。これは、他人の成績の素点だけ見せられても、その成績が良いのか悪いのか、理解出来ないというのと同じだと思います。また投資家の多くはプロでないため、会計やファイナンスを深く勉強しているわけではありません。そのため、貸借対照表やら損益計算書やらを見せられても、数字の羅列以外の何の情報も見いだせない可能性があります。
 そこで、(1)(2)の問題を解決するプロが世の中で必要とされます。(1)の問題を解決するプロが公認会計士と呼ばれる人達です。また(2)の問題を解決するプロが証券アナリストと呼ばれる人達です。今回はこの2つについて、どのような仕事をする人達なのか、簡単に紹介をしたいと思います。
 さらに学校の先生の場合、教員免許を取り、教員試験に合格したプロですが、企業の場合、別に専門教育を受けていなくても企業の会計担当者(経理担当者と呼ばれることが多いですが)になることが出来ます。このため、経理担当者ですら会計が得意でない場合が往々にしてあります。このため、こういった人達を支えることも一つの職業として成立しています。その職業で一番有名なものが、税理士であります。また、企業の会計を支える職として、会社法の会計により会計参与という職が新設されました。これらについても今回紹介したいと思います。

会計の正しさを保証する人達-公認会計士
 既に述べたように、企業の成績表は企業自身がつけ、公開します。自分で自分の成績をつけるのですから、外部の人から見た場合、内容の信頼性が必ずしも保証されません。このような場合、当人でない他の人が「その成績表間違っていないよ」と言ってくれれば、成績表の信頼性は増すでしょう。まさしく、そのような役目を担っているのが会計監査なのです。つまり、企業が作った情報を外部者にチェックしてもらい、「この成績表の作成法は間違ってません」と宣言してもらうことで、成績表の信頼性を保証するのです。このようなチェックを行うことを財務諸表監査といいます。また、企業の成績表を外部からチェックして、信頼性を担保することを普通の人が行っても、信頼出来ないでしょう。そこで、高度な専門的知識と倫理が備わっている人が必要とされます。ここで登場するのが、公認会計士、またはその人達が集まった監査法人です。彼らが、財務諸表監査を独占的に請け負っています。
 ところで、本来外部の人である会計士と経営者がつるんで、会計士が経営者の嘘をあえて見破らなかったり、嘘の付き方を教えていたとしたらどうなるでしょう。そのような悪巧みがばれたら、悪巧みをした会計士や経営者が罰せられるのは当然ですが、監査という制度そのものの信頼性も落ちてしまうでしょう。なぜなら、投資家にとって、誰が裏でこそこそやっているか分からないので、会計士みんなを信じられなくなるかもしれないからです。
 残念ながら、近年、米国でも日本でも、監査制度の信頼性を揺るがす事件が起こりました。米国ではエンロン・ワールドコムといった会社の会計不正を監査法人が見破れなかったことが大問題になりました。日本でもカネボウの不正会計問題で、会計士がチェックを行うという意味で適切な役目を果たしてこなかったことが大きな問題になっています。そこで、会計士業界、あるいは監査という制度の信頼性を取り戻すために、今様々な制度改革が進行しつつあります。
 なお、公認会計士になるには、公認会計士試験を突破しなくてはなりません。この試験は来年度に変更されますが(新たな試験制度についてはこちらを参照してください。http://www.fsa.go.jp/cpaaob/)、試験科目としては、会計・監査・企業法を中心に、経済学や経営などが試験科目として課されています。課される範囲が広く、かつ深い内容が要求されていますので、会計士試験は日本の資格試験の中で、最難関試験の一つであるといわれています。逆に言えば、それだけ要求され、期待される知識水準の高い仕事といえるでしょう。

企業の真の姿を見抜く人達-証券アナリスト
 次に、情報の利用者を助けるプロについて話を移しましょう。大学受験のための模試の成績が帰ってきても、その点数を見ただけではその成績が良いのか悪いのかわかりにくいと思います。ところが、解説を見て、その問題の難易度などが分かれば、自分の成績が相対的に良いのか悪いのか、判断しやすくなるでしょう。企業の成績表についても同じことがいえます。プロでない人が、一個一個企業の財務諸表を調べて、良い会社かどうか判断するのは難しいでしょう。そこで、登場するのが、証券分析のプロである、証券アナリストなのです。
 証券アナリストは、大きくセルサイド・アナリストとバイサイド・アナリストに別れます。セルサイド・アナリストは主に証券売買を仲介する立場である証券会社に属しています。そして自分が属す証券会社が注目している会社の収益性などを、証券を買う人達にわかりやすく伝えることを仕事としています。これに対して、バイサイド・アナリストは機関投資家など、証券を用いて資産を運用する立場の機関に属しています。かれらは自分が属す機関の収益を上げるために、企業の分析を行うことを仕事としています。
 我々一般人も証券を売買することがあり、その時に証券アナリストの意見を聞くことができます。その際良く用いられるのがアナリストレポートと呼ばれる、企業を分析した内容をまとめた書類です。これは一般投資家でも手に入れることが出来ます。投資家は、この情報を一つの判断材料として、自分がどの証券を売買するかを意思決定することになります。なお、投資はあくまで自己責任が原則です。アナリストレポートに書いてあることを鵜呑みにして、その結果投資で損をしても、それはアナリストの責任ではなく、投資家本人の責任です。もちろん、信頼出来ない情報しか書けないアナリストは、後々に評判を下げるでしょう。しかしながら、わざと嘘の情報を書かない限り、予想が外れたことに対して、直接の責任はありません。そのことだけは確認しておいてください。
 証券アナリストは国家資格ではありません。ですから、誰でも証券アナリストを名乗り、その仕事を行うことは可能です。ただ、証券アナリストとしての必要不可欠な能力があることを保証するために、証券アナリスト協会(http://www.saa.or.jp/)が検定試験を行っています。そして、その試験では会計知識を問われる「財務分析」の他に、ファイナンスの知識を問われる「証券分析とポートフォリオ・マネジメント」と経済学の理解を問われる「経済」の三科目が科されます。
 証券の代表的なものに、会社のオーナー権である株式、会社に対する債券である「社債」があります。よって、会社の経営状況がどの程度であるのかを詳しく知るために、会計の知識が必要とされます。また、株式は単独で保有するのでなく、多数保有することで様々なメリット(ファイナンスの小部屋「助け合う株式たち」を参照のこと)が生じます。このようなメリットを理解するため、ファイナンスの知識も必要不可欠です。また、企業は経済全体の中で存在しているわけですから、証券の値動きの予測には、経済の知識も必要不可欠です。そこで、証券アナリストはこういった知識を統合して、どの証券が値上がりするのか、あるいは値下がりするのかについての予測を行うことになるのです。

企業を助ける人達-税理士と会計参与
 上記の二つは企業、つまり情報の作成者を助ける人達ではありませんでした。ただ、会計制度はかなり複雑なので、その制度の理解を助ける人達も重要です。そこで、企業の外側から企業の会計処理に関するアドバイスを行う人として、税理士を紹介します。また、企業の内部に入り込んで会計業務を支えるプロとして、会計参与という職も紹介します。
 まず税理士についての説明から始めましょう。今回まで説明してきませんでしたが、企業が会計帳簿をつける理由の一つが税金納付のため、というものです。企業の所得に課せられる税金である法人税は、会計帳簿から計算することが基本です。中小企業では一部、複式簿記による会計帳簿をつけないで納税していますが、こういった会社はいくつかの税務上の特典を受けられません。そこで、多くの企業は会計帳簿をつけて、自社の管理と納税の双方に役立てています。
 ここで、法人税の元となる課税所得の計算は、会計利益の計算に必要なルールに加えて、法人税法や通達で規定されているルールにも従って計算しなくてはいけません。会計のルールを覚えるだけでも結構複雑そうなのに、それに加えて税法のルールまで覚えるとなると、普通の人にはちょっと手に負えなさそうです。
 そこで、納税のためのアドバイスを行う専門職が必要とされます。その役割を担うのが税理士なのです。税理士になるためには会計知識をはじめとして、様々な税法の知識が要求されます。(具体的には、国税庁の次のURLを参照してください。http://www.nta.go.jp/category/zeirishi/siken/gaiyou/gaiyou.htm)。このような難関の試験を突破した税理士は、税務上のアドバイスを行うことを国家から独占的に行うことを認められています。
 ところで、公認会計士にしても税理士にしても、あくまで企業の外部者としての立場であり、彼らが直接、会計帳簿の信頼性を保証するという役割は担っていなかったことに注意してください。会計帳簿を正確につけ、財務諸表を正確に作る義務は、一義的には経営者の責任なのです。
 ところが、会計制度は複雑になってきていますし、それをきちんと守らせる圧力も日に日に強まっています。このような環境の中で、特に会計に関して専門知識のトレーニングを受けていない中小企業の経営者が正確な会計処理を行い、財務諸表を作るのは困難であることは容易に想像がつきます。そこで、企業内部から経営者を助ける役割をもった職(正確には機関)がこの度の会社法改正で創設されました。それが会計参与です。
 会計参与になることが出来るのは、公認会計士や監査法人と税理士および税理士法人のみであります。つまり会計のプロのみがなれるのです。この職に就いた人は、経営者と一緒になって財務諸表を作成することが求められています。つまり、この職に就いた人が作った財務諸表は、会計のプロが作ったものであると誰の目にも明らかです。そのことで、企業の成績表の信頼性をあげようというのが、会計参与という職が創設された理由といえるでしょう。

 さて、今回までで、企業と投資家・株主をつなぐ役目をする会計のお話は終わりです。ところが、会計の役割は企業と企業の外部との間をつなぐ以外にもあります。企業の内部においても、様々な人がおり、その人の間の情報伝達が行われています。この情報伝達の際に、会計情報は重要な役割を担います。企業内部における会計情報の役割を研究する分野のことを、管理会計といいます。次回は、この管理会計について説明を行いたいと思います。
(次回は2006年2月17日更新予定)

成績表の公表方法-情報開示(ディスクロージャー)について

 第3回までで成績表の種類や作り方について簡単に学んできました。今回は、そういった成績表がいつ、誰を狙いとして公表されるのかについて学んでいくこととします。ここでも学校の成績表を思い出してみてください。学校の成績表は、学期末に、親及び本人を対象として必ず提示されます。このように決まった時期に必ず提示されるような成績表の開示の仕方を強制的開示と呼ぶことにします。これは、強制だから必ずしなくてはいけませんし、また開示があることが成績表を出す側にも、見る側にも予想されています。さらに、フォーマットも決まっています。だから子供は成績表を親に必ず見せざるをえません。隠せないのです。企業が強制的に開示させられる財務諸表をはじめとした各種報告書は、これと同じようなことがいえます。つまり、公表せざるを得ないし、その時期も分かっているし、その公表の仕方もある程度型にはまったものになっています。
 これに対して、何か良いことをして表彰をされたり、逆に悪いことをして親が先生に呼び出しを食らったりする形で、学期途中にある程度成績が提示されることもあるかと思います。このような形の成績のつけられ方は、定期的なものではないので、予測することも難しいです。その一方で型にはまったものでもないので、いろいろな方法で成績の善し悪しを伝えることが可能です。企業にとっても同じで、型にはまらない、独自の方法とタイミングで情報開示を行うこともあります。このような開示の方法を自発的開示と呼び、最近注目を集めています。
 今回は、情報開示(ディスクロージャーとも言います)を、強制的開示と自発的開示の二つの観点から、簡単に勉強したいと思います。ただ、学校の成績表と異なるのは、成績をつけられ人と成績をつける人はどちらも会社という点で同じです。また、成績表を見たい人は株主に代表される投資家という人達であります。第一回目で簡単には触れたところですので、確認をしておいてください。

強制開示を規定する二つの法律-商法(会社法)と証券取引法
 会社をなぜ設立するのかについては、法律の小部屋の解説の方が詳しいと思いますので、そちらを参考にしてください。そこでも書かれていることですが、株主は大事なお金を増やしてもらうために経営者に預けているのです。彼らは経営者がどのようにしてお金を増やしているのか、そこに重大な関心を持っています。それを知るためには成績表が是非とも必要となります。ただ、その成績表のフォーマットがある程度決まっていないことには、成績表を読むこと自体困難になります。そこで商法(まもなく会社法になりますがそのあたりの記述も法律の小部屋を参考にしてください)では、「計算書類等」という名前で会社の成績表を作り、公表することを規定しています。つまり、会社であれば必ず成績表を作る必要があるということです。
 ところで、商法(会社法)にはもう一つ成績表を作らせる理由があります。会社に対してお金を請求してくる相手は株主だけではありません。会社は、銀行などからお金を借りて、事業を営む場合があります。こういうお金を貸した人達のことを債権者、借りた側の立場を債務者と呼びますが、お金を借りた場合、債務者たる会社は、その分を債権者にきちんと返さなければなりません。ところが、債権者に対して返せるだけのお金がないのに、会社が株主に儲け分だと称してお金を渡してしまったらどうなるでしょう。債権者が会社にお金を返して欲しいと思ったときには、会社のお金は全部株主のものになってしまうかもしれません。そうなったなら、債権者はお金を返してもらえず、泣くに泣けません。
 そこで商法(会社法)では、計算書類等を作る中で配当可能利益というものを計算させます。これは、「この範囲の中やったら、好きに配当してもええよ。でもこれを超えて配当したらあかんで。」というものです。そして、この配当可能利益の範囲から、どの程度配当を支払うのかを経営者は決定します(会社によって、経営者が決定出来る場合と、経営者は配当額の案を提案しか出来ず株主に決定してもらう場合がありますが、ここではそこまで考えないことにします。)。
 さて、会社の規模が大きくなると、いろいろな人から資金を集める必要が生じてきます。そこで証券取引所や店頭市場で広く株式を売買してもらい、資金を集めようとします。このような状況を株式の公開と呼びます。この状態になれば、通常の会社よりも遙かに多くの株主、そして潜在的な株主の注目を浴びるようになります。このため、商法(会社法)より厳しい情報開示ルールを設定する必要があります。そのルールを決めている法律が証券取引法です。なお、証券取引法は、証券取引に関するもっと多様なことを規定していますが、ここでは企業の情報開示についてのみとりあげることとします。
 証券取引法上では、公開企業は毎年一回必ず有価証券報告書という書類を提出することになっています。そこでは「財務諸表」と呼ばれる企業の成績表のみならず、もっと詳しい企業の経営状況や役員の概況などについても公開されています。企業の株式を買おうとする人、つまり投資家はこういった書類を読んで、投資を行うときの判断材料とすることとなります。有価証券報告書はEDINET ( http://info.edinet.go.jp/EdiHtml/main.htm ) で公開されており、誰でも閲覧することが出来ます。一度興味ある会社の有価証券報告書を見てみてはいかがでしょうか。
 さて、新聞の株式欄を見てもらうと分かりますが、各企業の株価は毎日、ある程度値段が上下しています。このようにリスクのあるものにどう投資するかはファイナンスの小部屋をごらんになって欲しいのですが、一ついえることは、企業の将来の業績見通しの変化が株価を上下させる要因となっているということです。
 これは逆に言えば、他の人が知らない情報をもっていれば、企業の株価の上下が他人より先に読めることになります。もしこれが悪い情報であれば、人より早く売ってしまうことで損失を回避出来ますし、良い情報であれば、早く買うことで、後の値上がり益を享受出来ます。ですので、もし企業の内部やそれに近い人が自分の会社の情報を使って株を売買したら、他の参加者は大損をする可能性が出てきます。そうなるとその市場の株を買おうとする人が極端に減ってしまうかもしれません。このように他の人が知らない情報を使って株式を売買することをインサイダー取引といい、証券取引法では厳しく罰しています。
 しかしながら、会社内部の人がいつまでも株式を売買出来ないかというとそうではありません。重要な情報について外部の人と差がなければ問題ないわけですから、企業にとって重要な事態が明らかになったら、速やかに情報を開示することが必要となります。このような規制を適時開示といいます。これは必ずしも法律に則ったものではありませんが、東京証券取引所をはじめとした取引所の規制ですので、会社を公開し続けるためには、守らないといけません。そこでこういった要請も強制開示の一つといえるでしょう。

自発的開示とIR(インベスターズ・リレーションズ)
 以上で、強制的に開示する場面とその内容について触れてきましたが、最近は強制開示に値する以外の開示が増えてきました。そのような開示は自発的開示と呼ばれます。ここでは法律に縛られない分、自社の状況をよりわかりやすく解説が行われています。
 この自発的開示における主要な手段の一つが事業報告書やアニュアル・レポートと呼ばれるものの作成と開示です。これらに記載されている主要な情報は有価証券報告書などに記載されている情報と大きな相違はありません。しかしながら、多くの場合は有価証券報告書よりカラフルであり、より見やすいレイアウトとなっていると思います。これは必ずしも会計や投資のプロではない一般投資家に対して、わかりやすい情報提供を心がけたものといえるでしょう。
 また自発的開示ではインターネットの利用も盛んです。有名企業の多くは、その企業のトップページに、「投資家・株主の皆様へ」あるいは「IR情報」といったリンクを設けていると思います。そのリンク先を訪れてみると、企業によっては、有価証券報告書や事業報告書・アニュアル・レポート等がダウンロード出来るようになっていると思います。あるいは、業績がグラフなどで簡潔に示されているかもしれません。また社長が自らの言葉で株主に事業の概況や戦略、今後の方針を語りかけている企業もあると思います。一度興味のある会社のホームページを訪れてみると、その会社のことがより分かるようになると思います。
 さて、自発的開示に関連する重要なキーワードとして、IR(インベスターズ・リレーションズ)があります。これは、直訳すれば、投資家との関係ですが、投資家との関係を良くするための活動一般を指す用語と思ってください。投資家は将来または現在の株主になります。そのような投資家を引きつけておくことは、企業のファンを増やすことになり、企業の乗っ取りなどを防ぐ効果や、業績が多少悪化しても株を売ろうとしない株主を増やすことで、株価を高めに維持する効果があるといわれています。自発的開示も、このIR活動の一環なのです。このほかにも株主としてのファンを増やすための、多種多様なIR活動があります。たとえば、大手芸能の事務所として有名なホリプロは、株主総会後の懇親会において自社タレントを参加させることで、話題を集めました。他にもゲームソフトメーカーのナムコは同じく株主総会後の懇親会で、ゲームの体験コーナーを設けることで話題を集めています。こういったIR活動は、情報開示とは少し違いますが、企業が自らに関心を持ってもらうために株主に行う活動、という意味で、情報開示活動と似た効果を持っているといえるでしょう。

会計制度を支える人達-会計のプロ
 さて、以上で、どのような場面で会計情報を公開しないといけないか、あるいはどんな場面で会計情報を公開するのかについて簡単に述べてきました。しかし、これだけいろいろなことが要請されると、間違いなく全てのことに応えるのは難しそうです。また、公表された情報に嘘がないかどうか確かめるのも難しければ、そもそもその情報が何を意味しているのか分かるのも難しそうです。このような場面で登場してくるのが、会計に関するプロであり、会計に関する資格保有者です。会計に関する資格は、他の経済・経営分野よりも充実しており、活躍する場面も多種多様に及んでいます。これは、会計知識の専門性が高く、かつ経済全般に与える影響が大きいからです。そこで次回は、会計のプロにはどのような仕事があるのか、どのような点で会計制度を支えているのか、について紹介しようと思います。

(次回は12月17日更新予定)

成績表のつくり方-複式簿記について

成績のつくりかた
 第二回目では、会社の成績表たる貸借対照表(たいしゃくたいしょうひょう)と損益計算書(そんえきけいさんしょ)を中心に、その内容を解説してきました。今日はこれら二つの表を作るために必要な技術である、複式簿記について解説したいと思います。
 簿記というとなにやら難しい用語のように思えますが、実は日常生活でも皆さんは簿記に触れる機会があります。みなさんは小遣い帳をつけていますか?あるいはご両親のうちのどちらかが家計簿をつけていたりするでしょうか?こういった小遣い帳や家計簿も「簿記」の一種です。ただ、これらの簿記は「単式簿記」と言われ、大学で通常学ぶ複式簿記とは異なります。ですが、複式簿記も単式簿記も、毎日間違いなく帳簿をつける必要がある、という点では変わりません。その点を心にとめた上で、先に進んでいきましょう。

まずは貸借対照表を作ってみよう
 では、複式簿記がどのような点で成績表作りにとって不可欠なのか、実例を使いながら説明しましょう。ここでは、ITベンチャー「レクレ企画」を設立したAさんに登場してもらいましょう。彼は自分でこつこつ貯めたお金と親からの借金を元手に、念願の起業を行いました。会社は自分のアパートだとします。Aさんが起業した日(2005年4月1日)の資産と負債の状況は以下の通りとします。

2005年4月1日のAさんの資産と負債
 現金:40万円
 パソコン(備品):30万円
 借金:40万円
 元手:30万円

 この状況を分かるために、レクレ企画が保有する財産(資産)を左側に、借金(負債)を右側に書いて、表を作ってみました。その結果出来た表が以下の表です。

                 レクレ企画
               2005年4月1日

資産
  現金:40万円
  備品:30万円
負債
  借金:40万円
 
  
  
  

 ただ、このように資産と負債を並べただけでは、レクレ企画が純粋にいくら資産をもっているかが分かりません。そこで、前回学んだように、この差を資本と名付けて表を作ってみました。その結果出来上がった表が下のような表になります。これで、簡単な貸借対照表は出来上がったことになります。

                 レクレ企画
           貸借対照表 2005年4月1日

資産
  現金:40万円
  備品:30万円
負債
  借金:40万円
 
資本
  資本金:30万円
  

 さて、レクレ企画は無事に一ヶ月の営業を終えたとします。その時にAさんはレクレ企画が保有している資産と負債を全て挙げてみることにしました。その結果、レクレ企画の資産と負債は以下のようになっていることが分かりました。

2005年4月30日のレクレ企画の資産と負債
 現金:20万円
 売掛金:60万円
 パソコン(備品):50万円
 借金:60万円

ここで、再び、貸借対照表を作ってみると、以下のようになることが分かります。

                 レクレ企画
           貸借対照表 2005年4月30日

資産
  現金:20万円
  売掛金:60万円
  備品:60万円
負債
  借金:60万円
 
資本
  資本金:80万円
  
 さて、この結果、資本金が一ヶ月で50万円増えていることが分かると思います。ここで、Aさんがもしレクレ企画のために新たな出費をしていないとしたら、この金額はレクレ企画が増やした価値、つまり儲けたことを意味します。つまり、この50万円がレクレ企画の「利益」なのです。

日常の取引を記録してみよう
 上のやり方で「利益」を計算することは出来ました。ところがこのやり方は大きな問題があります。それは、どうやって「利益」が作り出されたのか、その過程が分からないという問題です。上の例で、レクレ企画は確かに儲けています。しかし、どうやって儲けたのでしょう。ちゃんとサービスを提供して、その結果儲けたのでしょうか。それとも、仕事をするのが面倒くさくて、宝くじを買った結果、たまたま儲けたのでしょうか。同じ額だけ儲けたとしても、将来につながる儲け方という意味では、サービスを提供して儲けた方が「良い」儲け方であるはずです。
 ところが、儲けが出てきた理由をきちんと把握するのは、言うは易く行うは難しなのです。我々が普通に生活していても、毎月の支出をきちんと把握するのは簡単なことではありません。普通のサラリーマンであれば、収入は毎月一定しているでしょうが、会社では売上が毎日異なるのが普通でしょうから、これも一定していません。収入と資質の差とはちょっと違いますが、収益と費用の差が利益なのですから、会社の場合、記録もつけないでどの程度儲けたかを測るのはほとんど不可能なことが分かると思います。
 それではどうやって記録をつければよいのでしょうか。そこでレクレ企画の一ヶ月に何があったかをもう少し観察してみましょう。レクレ企画の一ヶ月の仕事の流れは次のようだったとします。

4/10 プログラム作成の仕事を60万円で請け負った。
4/15 上記仕事のために、パソコンの周辺装置を30万円分買った。10万円は現金で払ったが、残金はツケ(借金)とした。
4/20 上記仕事のために、消耗品を10万円分買い、使用した。代金は現金で支払った。
4/25 請け負ったプログラムを請負先に渡した。代金は来月末に受け取る予定である。

 4/10は仕事を請け負う約束をしただけなので、会計上記録する必要はありません。他の日には資産または負債が変動しているので、それについて記録する必要があります。上記のような流れを一回一回表にまとめてみると、次のようになります。

日付         資産  負債  資本
 現金  売掛金  備品  借金   
4/1 40万円   30万円 40万円 30万円
4/15 -10万円   +30万円 +20万円  
4/20 -10万円       -10万円
4/25   +60万円     +60万円
4/30
(残高)
20万円 60万円 60万円 60万円 80万円

 このように毎日、資産または負債の変動を記録していると、最終的に出来上がる資産と負債の数値は、上に上げた4月30日段階の貸借対照表の数字と同じになることを確認してください。
 ところで、資本が減ったのは4月20日の消耗品使用のための支払いをしたときです。また、資本が増えたのは4月25日において、プログラムを引き渡した、つまり会社に売上が計上されたときです。ところで、前回資本を増やす活動は「収益」、減らす活動は「費用」に属するといいました。この2つの活動はまさしく、収益と費用に属します。つまりこのレクレ企画には、売上という収益が60万円、消耗品費という費用が10万円発生したことが分かります。収益と費用を引いた差額が利益でしたので、利益は50万円と計算出来ます。この額は資本の増加によって計算された利益と一致していることを確認しておいてください。

間違いのない帳簿をつけよう-複式簿記の始まり
 このように、レクレ企画の場合、きわめて単純な例であったため、資産と負債の変動をいちいち表にするということでも何とか貸借対照表と損益計算書が作成出来ました。しかしながら、大きな会社になったら、このような場当たり的な記録のつけかたでは、間違いが生じたときにどこで間違いが生じたか、分からなくなります。
お金の計算が間違っていたら大変です。例えば、「今年の利益は100万円でした。でも、どこかに間違いがあったら150万円かもしれないし、50万円かもしれません。」というような成績表をだしてきたら、その会社はちょっと信用のおけない会社といえそうです。そこで、なんとか誰がやっても間違いがないような仕組みを思いつかなくてはいけません。 ここで、登場するのが複式簿記なのです。
 では、複式簿記ではどのように上の事実を記録するのでしょうか。複式という言葉は、一つの事象を二面的に記録するということを意味しています。簡単な例を挙げてみましょう。4月10日には備品10万円分を買うために現金10万円を払っています。これは、備品という資産が10万円分増えたため、現金という資産が10万円減ったことを意味しています。つまり、ある資産の増加が別のある資産の減少をもたらしたと考えられます。他の例でも見てみましょう。この日は備品が他にも20万円分増えていますが、これに伴い、借金、つまり負債も20万円増えています。つまり、資産の増加と負債の増加が同時に発生しています。また、4月25日は、売掛金という資産の増加と売上という収益の増加が同時に発生していますし、初日は資産の増加と資本の増加が起きていると見なすことが出来ます。
 これらのように資産の増加(減少)は①資産の減少(増加)、②負債の増加(減少)、③資本の増加(減少)、④収益の発生(費用の発生)、のいずれかを生むと複式簿記では考えます。また、負債の増加は①資産の増加(減少)、②負債の減少(増加)、③資本の減少(増加)、④費用の発生(収益の発生)を生むと考えます。これらを同時に記載することが、複式簿記の特徴なのです。
 ここで、記載の仕方もルールがあります。貸借対照表で資産は左側に書いてきました。これも実はルールで、資産が増加したときは左側に、その資産の具体的内容(勘定科目といいます)を書き、さらに金額を書きます。逆に負債が増加したときは右側に勘定科目を書き、金額を書くことになっています。そして、その時に同時に発生した内容は、その反対側に書くルールになっています。また、簿記では左側・右側とは言わずに、借方・貸方と呼ぶことになっています。そして、一個一個の取引を上のようなルールに従って、記録することを記帳すると言います。具体的には4月1日から25日は以下のように仕訳します。

日付       借方       貸方
 勘定科目  金額  勘定科目  金額
4/1 現金
備品
40万円
30万円
借金
資本金
40万円
30万円
4/15 備品 30万円 現金
借金
10万円
20万円
4/20 消耗品費 10万円 現金 10万円
4/25 売掛金 60万円 売上 60万円

 このように記録を行うと決めておけば、左側(借方)と右側(貸方)の金額が必ず一致します。よって、双方の数字をチェックすることで、帳簿の記録間違いの可能性が格段に減ります。また、例えば資産が増えたのに減ったと記録しかけたとしても、そのまま記録しようとすれば、相手側の勘定を間違ったところに記録することになるので、この場合も間違いに気がつきます。よって、記録間違いを犯す可能性が格段に減るのです。
 また、複式簿記ではどんな複雑な取引が発生しても資産・負債・資本・収益・費用の増減によって記録することが出来ます。そしてこれは即座に貸借対照表・損益計算書という二つの成績表作りに直結しています。つまり、どんな複雑な取引であっても、それに対応した成績表が簡単に作れることを意味します。このように、複式簿記は、記録間違いを減らすことが出来る上に、どんな複雑な事態も記録し、成績をつけることが出来るルールなのです。
 このルールは非常に強力であり、そうであるがゆえに世界中ほとんどどの国でもこのルールに沿って成績表は作られています。逆に言えば、一番根本の部分では会計のルールは世界共通です。通常の言語であれば日本語と英語では文法が全く異なりますから、双方の言語を話す人達が、互いにミュニケーションをとるのは大変困難です。ところが、日本の簿記(会計)と米国の簿記(会計)は、関西弁と標準語程度の違いしかないといっても過言ではないと思います。つまり、微妙な表現は異なりますが、大まかにお互い理解することは全く問題がない程度の違いなのです。この点からも会計は世界共通の「事業の言語」といえるでしょう。

記録から成績表をどう作るのか-簿記一巡
 さて、上のような仕訳という形で記録を行うことから、実際に成績表たる貸借対照表・損益計算書を作るまでを「簿記一巡」と言い、簿記の学習において抱えないプロセスとなります。ただ詳しい話はたくさん簿記書が出ているので、ここでは概略だけにとどめます。まず、仕訳をしただけでは、どの勘定科目にどれだけの残高があるか分かりません。そこで、各勘定科目毎にまとめた帳簿を作ります。これを元帳といい、仕訳した内容を元帳に書くことを転記といいます。実際の会社であれば、コンピュータが自動的にやってくれますが、これにより、各勘定科目毎に現在いくらあるかが分かるようになります。
 仕訳と転記は毎日行いますが、この作業に誤りがないかどうかをチェックするために、試算表と呼ばれる表を作ります。複式簿記では、①借方と貸方の合計金額が必ず一致する、②資産の増加は借方等、各勘定科目毎に借方か貸方か決まっている、というルールがありましたので、このルールに沿っているかどうかをチェックすれば、間違いがあるかどうかが分かるのです。
 さて、以上の作業を一定期間繰り返します。そして、いよいよある期間における成績表を作ります。成績表を作る作業のことを決算といいます。決算では、帳簿の記録に間違いがないかどうかをチェックした後に、実際の資産や負債の状況をチェックし、そのチェックした状況と帳簿の内容がずれてしまった部分を修正します。そうした後に、資産・負債・資本勘定をまとめて、貸借対照表を作成し、収益・費用勘定をまとめて損益計算書を作成するのです。この決算の手続きも書き出すと大変長くなってしまいますので、実際に簿記の授業を受けてみて、手順を覚えてください。

 さて、今回は成績表の作り方について概略を見てきました。次回は、経営者がなぜ成績表を公表するのか、あるいはしないといけないのか、について解説したいと思います

会社の成績表-財務諸表について

成績のつけかたの重要性
 第一回目で、会計とは、会社の成績をつけて、その成績を元に経営者と投資家がコミュニケーションを図ることだと説明しました。そこで、今回はどのような科目で成績がつけるかについて説明します。成績というのは、ある人の状況を他の人に報告する際の視点と考えることが出来ます。「A君は○○の成績は良いけど、××の成績は良くないよ」というようなことが会社と株主の間でもなされていると考えてください。
 ところで、成績のつけかたはその人の行動を大きく左右します。大学受験を考えてみると分かるように、受験したい大学の試験科目にない科目は、ついつい手を抜いてしまうかもしれません。逆に受験科目になっていれば、その科目が嫌いでも勉強に力が入るでしょう。会社も同じで、成績をつけられる行動はがんばるでしょうし、そうでない行動はつい手を抜きがちになるでしょう。その意味で、会社がどのような科目で成績をつけられているのか、逆にどのような科目ではつけられていないのかを勉強することは、会社の行動を勉強する上で重要なことであると思います。
 まず、最初に押さえておいて欲しいことは、会社の成績は金銭単位で測ることが基本である、ということです。金銭単位で成績をつけるということは、会社はお金をもっていてなんぼ、儲けてなんぼ、の世界だ、と考えていることを意味します。もちろん、人はお金だけで生きているのではありません。会社もお金だけを考えていればいいわけではありません。社会的な評判も重要ですし、法律を守ること、社会的な責任を果たすことももちろん重要です。しかしながら、こういったことは、あくまで副次的な役割であり、会社は会社である以上、お金を儲けるということが根底にある、と考えるのが会計を学ぶ上で前提だということは忘れないでください。

成績のつけかた
 では、金銭で会社の成績をつけるとして、どのように成績をつけていくのでしょうか。これは、日常的に我々が行っている評価と大きくは異なりません。ある人を金銭で評価する方法としては、大きく分けて二つあると思います。一つが「金持ちやなー」という評価をする方法、もう一つが「儲かっとるなあ」という評価をする方法です。前者の評価を載せている表が貸借対照表(たいしゃくたいしょうひょう)と呼ばれる表で、後者の評価を載せている表が損益計算書(そんえきけいさんしょ)と呼ばれる表です。それではこれらについてさらに詳しく考えていきましょう。

貸借対照表(たいしゃくたいしょうひょう)-「金持ち」の程度を測ろう
 最初に「金持ちやなー」という言葉がどういうことを意味しているか深く考えてみましょう。金持ちは、現金をたくさん持っていることでしょう。また、土地や建物といった不動産もたくさんもっているかもしれません。株式や有価証券といった金融商品もたくさんもっていると思います。こういったモノはもっていればもっているほど、経済的に価値があるという意味でうれしいでしょう。このように、もっていてうれしいモノ、経済的に価値のあるものを会計上は資産と呼んで、会社の成績をつける際に一番基本となる科目の一つと考えます。
 この資産に含まれるモノは現金や土地建物といった物の他にもあります。例えば、ツケで商品を売ったときに発生する売掛金(うりかけきん)は簿記で習って初めて聞く資産だと思います。この他にも発明の独占的利用権である特許権は無形資産と呼ばれる資産と考えられています。このほかにも、様々な科目が資産に含まれます。
 ところで、こういった資産が多ければ、その人、あるいは会社は本当にお金持ちなのでしょうか。答えはNoです。借金に借金を重ねて、土地や建物をたくさんもっていても、それは真の金持ちとはいえないはずです。借金のように、将来他人に対して、何らかの経済的負担をしなくてはいけないという状況は、仕方のないこととはいえ、当然うれしくない状況です。このようなうれしくない状況があるということも、当然きちんと成績表につけておく必要があります。そこで、将来経済的負担があるということを、負債という名前をつけて、成績表に載せます。
 負債という科目に含まれるのはいわゆる借金だけではありません。ツケで物を買ったときに発生するのは、売掛金の逆の買掛金(かいかけきん)も負債です。将来退職していく人達に退職金を支払わなければいけませんし、商品を売ったらそれが壊れたときの保証などもしなくてはいけません。このように将来の発生するかもしれないことに備える、ということは一般的な意味での借金ではありません。しかしながら、これらによって将来何かを負担しなければならないことが分かっていますので、その負担を予測して、成績表に載せる必要があります。このように、様々な要因に対して、負債が計上されるのです。
 ところで、資産は正の経済的価値のあるモノ、負債は負の経済的価値のあるモノですから、この両者の差が、会社における純粋な意味での経済的価値ということになります。よって、この差のことを純資産、あるいは資本と呼びます。また、会社は株主の持ち物であるということを重要視して、株主持分、あるいは株主資本と呼んだりもします。ここで、資産と負債・資本の関係は次の式で表されます。

     資産―負債=資本

損益計算書(そんえきけいさんしょ)-「儲け」の程度を測ろう 
 次に「儲かっとるなー」という言葉はどのような状態を指しているのかについて考えてみましょう。この言葉はお金が増えているときに使う言葉であると思います。この逆の言葉は「損した」であることは分かると思います。損をしたとは、自分にとっての価値がなかったということを意味する言葉であることが分かると思います。逆に儲かっているという言葉には、自分にとっての価値が増えているという状態を意味することもここから分かると思います。
 ここで、会社がもっている純粋な価値は、資本であったことを思い出してください。よって、儲かっているとは、この資本が増えている状態のことを示します。さて、「儲かっている」、という用語を会計用語では利益といいます。利益が計上出来ているとは、資本が増えていることを意味します。逆に、「損をした」とは、会計用語で「損失」と言います。なお、マイナスの利益が損失と考えてもらっても差し支えがありません。よって、利益は次のように表すことが出来ます(正確には利益に基づかない資本の変動を加味しないといけないのですが、ここでは簡単化のためにそれを省略します)

     現時点の資本-前の時点の資本=利益(あるいは損失)

 ところで、このように考えるだけでは、なぜ儲かったのか、あるいは損をしたのか、その理由が分かりません。これは、瞬間の成績が分かっても、その理由が分からないことを意味します。それでは、この儲けがたまたまなのか、そうでないのか、あるいはどうやればもっと儲かるのか、など細かい分析が出来ません。そこで、儲かった理由、損をした理由をもう少し深く考えてあげることとしましょう。
 会社は金銭評価をされるわけですから、資産を増やす、あるいは負債を減らすことで、出来るだけ資本を増やそうとします。具体的には、商品を売ったり、金を貸して利子をもらったりします。ここで、その会社が何で儲けを得ているのかは、非常に重要な情報です。商品を売って儲けたのか、たまたまリストラで100年前からもっている土地を売って儲けたのかで、同じだけ儲けていても、将来で儲けられるかどうかの可能性が全然違います。前者であれば、翌年以降それほど業績が落ち込む可能性は少ないでしょうが、後者であれば、翌年同じだけ儲けを得ることは、同じような土地をもっていない限りほとんど不可能です。そこで、そこで、こういった資本を増やす活動成果に注目する必要があります。このため、会計ではこのような活動成果に収益と名付けて、それらの行動を把握しようとします。
 ところが、収益を獲得するのは、タダという訳ではありません。そのためには物を買ったり、人を雇ったり、広告をしたりと、何かとお金がかかります。このような活動は、資産を減らすあるいは負債を増やすという形で、結果として資本を減らすことになります。よって、実際には儲けにつながっていない活動があったら、それを削減しなくては利益が増えません。そこでこちらの活動もちゃんと見てあげる必要があります。こういった資本を減らす原因となった活動には、費用という名前を付けます。費用には、給料や広告費、売ったことでなくなった商品の買値で評価する売上原価などが含まれます。そして、収益と費用の差額が企業の「儲け」である利益となります。これを式で表すと次のようになります。

     収益-費用=利益

 このように、二つの成績表を用いて、企業の成績が把握されることを確認しておいてください。

キャッシュフロー計算書-第三の成績表
 さて、今まで二つの成績表である貸借対照表と損益計算書を見てきました。ところで、このどちらも、経済的価値に着目した成績表です。その結果、まさしくお金、あるいは現金が増えたかどうかは分かりません。それが分かるための成績表として、最近キャッシュフロー計算書が日本でも導入されました。ですが、これは上級の話題ですので、そういうモノがある、ということだけ知っておいてもらえれば、会計のさわりとしては十分だと思います。

 

さて今回は予定を変更して、第三回でやる予定だった内容を第二回でやりました。次回は、成績表のつけかたである、複式簿記のさわりを解説する予定です。

実力のある会社とは?

会計はなぜ必要か?

突然ですが、“実力のある会社”とは、どのような会社でしょうか。
これを考える前に、学生の学力の測り方を考えてみましょう。
学生であれば、テストをやって成績がつけば、点数が上がった、下がったと言うことはある意味一目瞭然です。そして、頭のいいと言う意味で実力のある人がテストの点数が良い可能性は高いでしょう。

ただ、テストの形式や点数配分によって同じ程度の実力があったとしても、点数に差がつくことがあるかもしれません。国語が得意な人は国語の配点が高いテストや入試では有利でしょうが、数学の配点が高い入試ではあまり有利ではないでしょう。このように、実力は単にテストの順番を見ればわかるのでなく、テストの形式によって同じ人であっても実力が違って見えるということがわかると思います。

また、テストの形式や配点が一緒であったとしても、単純にテストの点だけで実力がはかれるとは限りません。たまたまテストの問題についてのヤマがあたった人は、たまたまそのテストの点数が良くなるかもしれません。人によっては本当の成績が悪かったにもかかわらず、テストの点数が良かったと友達に嘘をついているだけかもしれません。
同じようなことは企業でもいえるでしょう。
実力のある企業は、実力をきちんと反映する成績表があるとすれば、その成績表の点数が良いはずです。
このような成績表がどのようなものかを学ぶことが、会計を学ぶということになります。

ところで、成績表を作り方、利用の仕方がきちんとわからなければ、企業がどのような意味で実力があるのか否かがわかりません。さらに自ら実力があるといっている企業でも、本当の意味で実力がある会社かどうかもよくよく考えてみないとわかりません。成績の良い理由がなにか偶然であった可能性も否定できません。また逆に、成績が悪いからからといって、その会社が悪い会社であるとは限りません。もちろん、実力のある会社は実力のない会社より成績がよい可能性は高いでしょう。しかしながら、成績の悪い理由が突発的な事故であれば、翌年以降は大きく成績が改善する可能性があります。

また嘘をついて儲かったと言っているだけの企業もあるかもしれません。そのような場合、この嘘を見抜けなかった場合、その企業の実力に対する判断を誤ってしまうでしょう。もちろん、嘘が発覚したら、大きな代償を払わないといけないことは学生の試験と同じです。場合によっては、嘘をついた人が逮捕される可能性もあります。ただ嘘をついた人が逮捕されたとしても自業自得ですが、嘘を見抜けなかった人はは大きな損をするかもしれません。このようなことがおこらないようにするために、成績表をつけるためのルールが必要だと言うことはわかると思います。

ところで、会計が学校の成績表と大きく違うことが一つあります。それは、学校の成績表であれば、成績をつけるのは先生ですから、つけられた学生の方は成績表を偽造でもしない限りごまかしようがありません。しかしながら、企業の場合、成績をつけるのは企業自身です。このため、皆にわかるルールがなければ、企業の成績が本当に意味のあるものかどうか、わかりません。このため、最低限のルールを学ぶ必要が成績表をつける側、見る側双方に必要となります。

そして、そのルールの上で、企業がより自分を実力があるのだと納得させる、あるいは株主が経営者のメッセージを理解するという行動が行われます。このように、人と人とが互いを理解し合うためには言語が用いられるのと同様に、事業を行う上で、より早く、より深くお互いを理解し合うためには、会計が言葉のような機能を果たします。このことから会計はしばしば「事業の言語」と呼ばれます。
このような「事業の言語」としての性質を理解し、その文法をきちんと学ぶことが、会計を学ぶ上で重要であると思います。

会計の世界の主たるプレーヤー
では、成績をつけられるのは誰か、成績表を見るのは誰か、そしてその間でどのようなコミュニケーションがあるのかについての解説に移ります。ここまで、企業が成績をつけると行ってきましたが、企業というのは人ではありませんから、誰か企業を運営し、その成績をつける人がいます。そのような人は経営者と呼ばれる人達です。

会社の社長や重役と呼ばれる人達と考えておいてそれほど大きな間違いはないと思います。彼らは会社をより儲けさせる役目を担っています。そして、そのためには大きなお金がかかり、自分のもっているお金だけでは足りないことがままあります。そこで、より多くのお金を集めようとし、それをうまく活用することでお金を増やそうとするのです。この時、同じお金であれば、より多くのお金を増やせる方が、良い経営者であるといえます。この額をきちんと計算し、伝えるのが会計の役目ということになります。

次に、計算した儲けを報告すべき対象、つまり企業の成績に一番興味があり、みたいと思っている人は誰でしょう。ここでは、企業にお金を増やそうとしてお金を託した人と考えます。このような人達を投資家と呼ぶことにします。お金の託し方には大きく分けて二通りあります。一つ目は基本的には毎回一定額を利子として返してもらう方法と、二つ目は儲けに応じてお金をもらえる方法です。自分がもらえる額が儲けにより密接に関係しているので、後者の方がより儲けに対して敏感になるので、ここでは後者のようなお金の託し方をする人のみを考えることとします。

このようなお金の託し方をする方法が株式投資です。そして、託した証拠を受け取った人が株主と呼ばれる人達になります。彼らは企業が儲かれば、その一部を配当という形で受け取ることが出来ます。また、企業の経営者があまり実力がない、つまり儲けられないと分かった場合、経営者を首にして、新たな経営者に自らのお金を託すことも出来ます。逆に経営者の能力が十分だと見なせば、さらにお金を出して、もっと儲けてもらおうとするかもしれません。このような判断をする際には、経営者の能力をきちんと見極める必要があります。このために必要となるのが、企業の成績表たる会計なのです。

このよう考えれば、会計が経営者と株主に代表される投資家との間のコミュニケーションを図るための言語としての役割をもっていることが分かると思います。
 
今後のこのコーナー
それでは、今後の会計学の部屋で何を勉強するのかについて、簡単に予告を行います。

まず、第2回目は複式簿記について簡単に説明したいと思います。複式簿記は「事業の言語」たる会計の根幹となるものです。成績表をつける際に、その評価方法が定まっていなければ、成績をつけようがありません。その成績評価の方法を勉強するのがこの回だと思ってください。

第3回目では財務諸表とよばれる、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の三つについての解説を行います。これらは企業の成績表に位置づけられる物です。各々の成績表にどのような成績が載っているのか、そしてどのような関係があるのかについて分かってもらえれば、と思います。

第4回目では財務会計・ディスクロージャーについて解説します。会計は企業と資本市場との間のコミュニケーションを図るためのツールであるということは、すでに簡単にふれました。この点について、もう少し詳しくこの回で解説したいと思います。国が強制的にコミュニケーションをとらせる商法・証券取引法と言った制度会計と、企業が自発的コミュニケーションをとるという自発的開示とがあることを解説していくつもりです。

第5回目は 公認会計士と証券アナリストといった、会計に関するスペシャリストの役割について解説します。かれらは企業と投資家とのコミュニケーションの仲介者としての役割をもっています。かれらがどのような役割を果たせば、経営者と資本市場にコミュニケーションがより円滑になるのかについて説明します。

第6回目は管理会計とよばれる、企業内のコミュニケーションツールについて説明します。この回までは経営者と資本市場との関係を説明していましたが、会計の役割はそれだけではありません。この回では経営者と従業員といった企業内部の関係をより円滑にするためにも会計は用いられている、ということを知ってもらおうと思います。

最後に第7回目では会計の今後を、国際化・非財務情報という二つのキーワードから解説したいと思います。経済のグローバル化が推進している中で、会計も国際化が迫られています。そこで、会計の国際化、特に国際会計基準や会計基準の国際的統一化についての話題を簡単に解説します。また、ここまで基本的に会計といえば、貨幣で測定出来る物のみを取り扱ってきましたが、貨幣で測定出来ない物も会計学では取り扱われ始めています。それらを非財務情報と呼びますが、これらについて簡単に解説していきたいと思います。

はじめに

 このコーナーでは、会計は主に金銭的価値という数字を用いて、企業を巡る様々な利害関係者(ステークホルダー)の間のコミュニケーションを促進するツールである、という視点から会計を説明するつもりでいます。
 つまり、いったい誰と誰が何のために会計を利用するのかをわかりやすく解説していくことを目的とします。
 会計は金銭価値で主にコミュニケーションを行うため、一見すると無味乾燥で面白くない、あるいは堅くてとっつきにくく、人間味がないと思われがちです。
 しかし、実際には関係者間の駆け引きも含めた様々な思惑のもと、会計数値が作られています。
 そのように人間味あふれる背景を理解して会計を学ぶことが出来れば、会計は親しみやすい分野であり、また実用上も有用であることが分かると思います。
 またそのような会計像を伝えられるようにがんばっていきたいと思います。