おわりに ―これまでの議論を振り返る―
素朴な疑問
これまで6回にわたって(紹介文を含めると7回)、経営戦略について、お話をしてきました。その際、日常生活に見られる「素朴な疑問」、「素朴な観察」を出発点として、議論を始めてきました。どんな疑問を出発点にしてきたのか、少し復習してみましょう。
■ 紹介文
「MDを取り替える手間隙を我慢しているユーザーが、ipodの潜在顧客かもしれない・・・。」
■ 第1回
「どうして山口に、松屋が出店してきたのだろう?」
■ 第2回
「バナナチップスが、スナック菓子コーナーではなくて、果物コーナーに陳列してあるのはなぜだろう?」
■ 第3回
「ステーショナリーも、ラーメンも、インプットの組み合わせからできている。組み合わせが異なれば、異なった製品・サービス(アウトプット)が産み出される。」
■ 第4回
「山口に最近増えつつある、ちょっとお洒落なカフェは、やっていけるのだろうか?」
■ 第5回
「同じ内容のTV番組を、繰り返し流しているのは、どうしてなのだろう?」
■ 第6回
「小さな学習塾では、業務のほとんどを一人の塾長が担当していた。しかし、大きな予備校では、教える仕事と事務的な仕事の分業がなされていた。この違いを生み出している要因は、何なのだろう?」
高校生のみなさんにも、イメージが湧くような、身近な現象を取り上げたつもりです。これらをあらためて眺めてみると、みなさんにもできそうな気がしてきませんか?
ひとつの枠組みで現実をみる
これらの問いや観察に対して、この連載では、「ひとつの枠組み」を用いて理解することを試みてきました。どのような枠組みを用いてきたのか、確認してみましょう。繰り返しになりますが、「素朴な疑問や観察」も併記しておきます。
■ 紹介文
「MDを取り替える手間隙を我慢しているユーザーが、ipodの潜在顧客かもしれない・・・。」
「市場セグメンテーションとターゲット市場の選択」という枠組みを想定していた。紹介文であったので、詳細の説明は行わなかったので、参考文献を手がかりに、読者ご自身で考えてみて下さい。
■ 第1回
「どうして山口に、松屋が出店してきたのだろう?」
「戦略の定義」、すなわち「戦略とは、直面している環境を制約条件として、目標を達成するために最も適した作戦のことである」という枠組みを用いて、山口出店という企業戦略を理解しようと試みました。
■ 第2回
「バナナチップスが、スナック菓子コーナーではなくて、果物コーナーに陳列してあるのはなぜだろう?」
「ドメイン」(商品の定義)に関する議論、すなわち「自社の事業(商品)とは何か?という問いに対する答えには、製品中心に行うものと、顧客中心に行うものとがある」という枠組みを用いて、商品の陳列が持っている意味や意図について考えました。
■ 第3回
「ステーショナリーも、ラーメンも、インプットの組み合わせからできている。組み合わせが異なれば、異なった製品・サービス(アウトプット)が産み出される。」
「アイデア、すなわちインプットの新しい組み合わせに関する知識が、新しい価値を生む」という枠組みを用いて、ラーメン・スタジアムには市場競争の本質が見られるという点について議論しました。
■ 第4回
「山口に最近増えつつある、ちょっとお洒落なカフェは、やっていけるのだろうか?」
「違いを作り出すための3つの競争戦略」という枠組みを用いて、カフェが採っている競争戦略がどれに相当しているのかを検討しました。
■ 第5回
「同じ内容のTV番組を、繰り返し流しているのは、どうしてなのだろう?」
「シナジーの源泉」、すなわち「未利用資源の代表選手は、副産物、遊休資源、情報的資源である」という枠組みを用いて、CDボックス販売という戦略の経済合理性について考えました。
■ 第6回
「小さな学習塾では、業務のほとんどを一人の塾長が担当していた。しかし、大きな予備校では、教える仕事と事務的な仕事の分業がなされていた。この違いを生み出している要因は、何なのだろう?」
「組織構造」、すなわち「組織の代表選手は、機能別組織と事業部制組織である」という枠組みを用いて、小さな学習塾と大きな予備校との違いについて、理解しようと努めました。
「枠組み」とは、ひとつの概念と、その種類を表す複数の概念のセットのことです。概念という言葉が難しければ、ひとまずは、名前だと理解しておいて下さい。名前とは、お互いを区別するために用いる記号のことです。
次の3つの文章の下線部分が、枠組みを説明している部分です。複数ある概念のうち、現実と対応している概念はどれか?現実をどの名前で呼ぶと、最もぴったりくるか?この問いに答えることを、「現実をみる」と表現してきました。ポイントは、複数ある概念(例えば、機能別組織と事業部制組織)は、実は、それよりも大きな概念(例えば、組織構造)を詳しく説明したもの、種類を示すものであるという点です。読み取ってもらえるでしょうか?文章をよく読んで、復習して下さい。また、3つ以外のケースについては、読者ご自身で考えてみて下さい。
「ドメインの定義(商品の定義)の仕方には、製品中心と顧客中心の2つある。では、果物コーナーにおいてあるバナナチップスは、どちらの定義を用いているのだろうか?」
「競争戦略には、コスト・リーダーシップ戦略、差別化戦略、集中戦略の3つある。では、ちょっとお洒落なカフェは、どの戦略をとっているのだろうか?」
あるいは、
「組織構造には、機能別組織と事業部制組織の2つある。では、小さな学習塾は、どちらの組織構造を持っているのだろうか?」
「枠組み」とは、概念同士の関係を意味する場合もあります(第1回、第3回)。第1回では、「戦略」、「目標」、「環境」という3つの概念の間の関係のことを、「枠組み」と呼んでいました。第3回では、「アイデア(すなわちインプットの組合せに関する知識)」と「価値」という2つの概念の間の関係のことを、「枠組み」と呼んでいました。ぜひもう一度、該当箇所を読んで、復習してみて下さい。
学ぶということ
この連載は、高校生を主な対象として書いています。もちろん、教科書に書かれていることや先生が話すことを、正しく理解することは、とても重要なことです。その一方で、日常生活の中で、自分が疑問に思ったことや、どーしても気になる現象に出くわしたときに、「どうしてなんだろう、なぜなんだろう?」、「それを問いかけることが、なぜ意味があるのだろう?」と問いかけること、問いかけ続けることが、非常に大切です。また、「どんな仕掛けが、その現象の背後で動いているのだろう?」、「そうなる理由は、何なのだろう?」と考えることも、同じくらい大切なことです。更に進めて、自分が考えた理由が、本当に正しいのかどうか、その根拠を探すために、東奔西走することも忘れてはいけません。これら全部を実行して初めて、「勉強した!」と、胸を張って堂々と言えるのだと思います。これがなかなか難しいんですよ、ほんとに。書いている自分も、正直、完璧にできたことなど、何度あるのだろう?という感じです。
これら全てを、限られた紙面の中で行うことは、なかなか困難です。僕がお話しできたことは、ほんの一部分に過ぎず、ほとんどは読者の皆さんへの宿題ということになってしまっていると思います。しかし、学ぶことが、まだまだ残っている、ということにワクワクしませんか?ワクワクした!という人は、早速、今から始めましょう。今日の晩御飯のおかず。自分のカバンに入っている教科書や筆記用具。いつも読んでいるマンガ。ゲーム機。「素朴な疑問」を感じることのできる現象は、身の回りにたくさんあります。また、それらの疑問を、今回の連載で学んだ「枠組み」を用いて理解できないか、考えてみて下さい。
「なるほど、そうだったのか!」、「この現象は、あの枠組みにぴったりだ!」。このときの、「なるほど!」という感心、「あ~、そういうことだったのか!!」という納得感。もやもやした感覚が、一気に解きほぐされていく感覚というのでしょうか。これこそが、勉強することの醍醐味だと、僕は信じます。納得したときの爽快感は、なかなかのものですよ。
7回という限られた連載でしたが、最後まで読んで下さった読者の方々、ほんとうにありがとうございました。今度は大学で、お会いしましょう。
それでは、さようなら。



シナジーをもたらす要因