映画で描かれるお金儲けというと、アラン・ドロンの「太陽がいっぱい」やスティーヴ・マックイーンの「華麗なる賭け」、ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードの「スティング」のような犯罪を主題にしたもの、あるいは、キャサリン・ターナーとマイケル・ダグラスの「ロマンシング・ストーン/秘法の谷」やリチャード・ドナー監督の「グーニーズ」、ニコラス・ケイジの「ナショナル・トレジャー」のような宝探しものなどもありますが、ここではあくまでも、経済の枠組みのなかでのお金の稼ぎ方を観ていきたいと思います。
お金を稼ぐというと、昔であれば、自分で獲ったり作ったりしたものを、業者に売ったり自分で市場に売りに行ったりという形が一般的だったのでしょうが、現代では、企業や官庁に雇われて仕事をすることで給料や賃金を稼ぐスタイルが普通になっています。映画に出てくる例でいえば、工場で流れ作業の仕事に就いた「モダン・タイムス」のチャーリー(チャーリー・チャップリン)や、長らく失業していた末に市役所のポスター貼りの仕事を手に入れた「自転車泥棒」のアントニオ(ランベルト・マジョラーニ)のスタイルが基本形と言えるでしょう。
ただ、チャーリーやアントニオの仕事は、あまり良い条件のものではありません。チャーリーは単調で余裕のない作業に追われて精神を病んでしまいますし、アントニオは自転車を持っていなければ雇わないという条件を付けられていました。それでも彼らは、暮らしていくために、そういう仕事にしがみつかざるを得ませんでした。チャーリーは、ストで閉鎖されていた工場が再開されると喜んで仕事を求めて走りました。アントニオは、仕事の条件である自転車が盗まれてしまうと、息子とともに犯人を捜してローマの町中を歩き回りました。
彼らの仕事の条件が良くなかったのは、彼らが提供するのが単純な労働力とそれに費やす時間だけであり、なにかあったら簡単に代わりの人を見つけることができるような仕事だったためです。これが、高度な知識や技能、あるいは新しいアイディアや価値を生み出していく「創造力」が必要とされるような仕事となると、話はまったく違ってきます。
例えば「クレイマー、クレイマー」の主人公、妻に去られて子育てと外での仕事の両立を迫られたテッド(ダスティン・ホフマン)のケース。彼の仕事は広告代理店で顧客企業の商品広告や企業広告のプランを策定することでした。その仕事には、豊富な知識と、キャッチコピーやデザインを作り出すセンスが求められます。その能力を顧客や雇い主に認められれば、給料も高くなりますし、オフィスの環境や仕事の時間、休日の自由度などの条件も良くなります。もちろん、失業する可能性は減りますし、新しい職場を探すのも容易になります。テッドも、慣れない家事と子育てに振り回されたせいで会社でミスを連発してクビになってしまいますが、新しい仕事はすぐに見つかりました。
また、「ショーシャンクの空に」のアンディ(ティム・ロビンス)は、無実の罪で投獄された刑務所内で、金融と財務の専門知識を活かして、看守や刑務所長を相手にコンサルティングのサービスを提供しました。彼の場合、お金を稼ぐということではありませんが、暴力の支配する刑務所ではお金よりもはるかに大切な、身の安全を手に入れることができました。「ディーバ」のヒロイン、シンシア(ウィルヘルメニア・フェルナンデス)になると、その技能と創造力はさらに際立っています。なにしろ、世界各国でリサイタルを開くような一流の歌手です。映画では直接は描かれませんが、彼女の暮らしぶりからみる限り、稼ぐお金は相当なレベルになっていそうです。
これらはいずれも、どのような技能や創造力を持っているか、そして、それを活かせる仕事に就けるかが、現代の経済においてお金を稼ぐための、きわめて大きなポイントであることのサンプルです。ただ、シンシアのような際立った才能の持ち主を別にすると、企業や役所に雇われて働いている限りは、稼げるお金には限界があります。そこで考えられる、お金を稼ぐための第二のポイントが、「リスクを取る」ということです。
そのあたりを音楽コメディ映画「ブルース・ブラザース」でみてみましょう。刑務所から出てきたばかりのジェイク(ジョン・ベルーシ)と、彼を出迎えたエルウッド(ダン・エイクロイド)の二人が、育ててもらった孤児院を守るために、かつてのブルース・バンドを復活させて資金を稼ごうと奮闘する物語です。二人は首尾よく昔の仲間を集めてバンドを復活させますが、ギャラをもらって演奏しているだけでは満足なお金は稼げません。そこで、自分たちで会場を手配してライブを企画したのです。これは、うまく客が集まれば大金を稼げますが、失敗すればただ働きどころか、会場や資材の費用など、かえって損失が出てしまう可能性もある仕事です。
これと同じようなケースは「フル・モンティ」にも出てきます。こちらでは、失業して息子の親権を失いそうになっているガズ(ロバート・カーライル)が、養育費を稼ぐために、仲間を集めて男性ストリップのショーを企画します。出演するのは、ガズ自身を含めて、特別な技能も創造力もない中年男ばかりです。彼らはショーに向けて日々練習に励みますが、客が集まらなければ、少なくともお金の面ではすっかり無駄になってしまいます。
企業や官庁に雇われて働く場合には、条件にはいろいろな違いがありますが、普通は、仕事をしさえすれば、それが最終的にどのような成果を上げたとしても、契約していただけの賃金は手にできます。ですが、自分で何か儲かる事業を企画して実行していくのであれば、大きな収入を得る可能性がある一方で、損をするリスクも生じてきます。ジェイクとエルウッドもガズたちも、損をするリスクを取ることで大きな収入を狙っているわけです。まったく違う次元の話ではありますが、「太陽がいっぱい」や「華麗なる賭け」で描かれたような、犯罪で大金を稼ごうとする計画も、刑罰を受けるリスクを取ることで大きな利益を狙うという意味合いがあると言えるでしょう。
お金を稼ぐための第三のポイントは、自分自身で仕事をするだけでなく、自分が持っているさまざまな財産に仕事をさせることにあります。「バットマン・ビギンズ」では、大富豪の御曹司ブルース・ウェイン(クリスチャン・ベイル)がどのような事情で悪と闘うバットマンになっていったかが描かれますが、彼が悪と闘うための費用は、彼が両親から株式を相続した企業からの配当によって賄われていることが示されます。手持ちの財産が働いてくれているおかげで、ブルース自身は正義の味方の仕事に専念できるわけです。
また、「ジャイアンツ」では、テキサスの大牧場に嫁いできた主人公レズリー(エリザベス・テーラー)に思いを寄せる牧童ジェット(ジェームズ・ディーン)が、牧場の女主人から遺産として譲られた土地から湧き出した石油を元手にして、石油産業を中核とする巨大な企業グループを築き上げます。これもまた、油田という財産を働かせたからこそ可能になったことです。
もちろん、お金を稼ぐのに使えるのは、ブルースやジェットのような巨大な財産とは限りません。稼いだなかからコツコツ貯めたお金を銀行に預金したり株を買ったりして、そこから利子や配当を得るというのは、誰にでも可能な稼ぎ方です。また、自分の創造力の成果を、お金を稼いでくれる財産に仕立て上げるスタイルもあります。「ディーバ」のシンシアは頑なに拒んでいましたが、自分の歌を録音してCDを売り出せば、それが売れれば売れるだけ、お金が入ってくるようになります。これは、本を書いたり、新しい商品を作り出したりといった仕事にもあてはまります。売れさえすれば、という条件付ではありますが、きわめて効率的な稼ぎ方です。
ここで見てきた、技能や創造力を活かす、リスクを取る、財産を働かせる、という三つのポイントすべてを含んでいるのが、「タッカー」のプリンストン・タッカー(ジェフ・ブリッジス)や「エデンの東」の主人公の父親アダム(レイモンド・マッセイ)が挑戦した、新しい事業を立ち上げる仕事です。事業の立ち上げのためには、斬新な商品やサービス、あるいは事業モデルを考え出す創造力が必要なのはもちろんですが、事業が失敗するリスクを取ることになりますし、多くの場合には手持ちの財産を注ぎ込むことにもなります。そして、事業が軌道に乗って企業として成立すれば、創業者にとっては、それ自体がお金を稼いでくれる財産にもなってきます。
ここまでは、私たち一人一人、個人の視点からお金の稼ぎ方を考えてきましたが、技能・創造力、リスク、財産活用の三つがカギになるということは、企業の経営にもあてはまります。いかに技能と創造力の優れた人材を確保するか、どのようなリスクを取りどのようなリスクを避けるのか、保有している資産をいかに有効に活用するかといったポイントは、まさに企業の収益を左右する最重要課題と言えるでしょう。
さらに付け加えれば、この連載で題材にしている映画についても、お金を稼ぐ事業としてみれば、やはり、同じ三つのポイントが重要です。映画を撮るには、監督や俳優をはじめ、高度な技能と創造力を持った多くの人々の力が必要ですし、プロデューサーには興行が失敗するリスクを取ることが求められます。また完成した映画は、フィルムやDVDの原データなどの形でお金を稼ぎ出す財産となり、それをどう活用するかで、その映画の収益性は大きく変わってきます。もちろん、収益性がどうなろうと、その映画自体のクオリティが変わるわけではありません。ですが、映画が事業として成立するからこそ、私たちは新しい映画を次々と楽しむことができるというのも確かです。お金を稼ぐという発想は、私たちの経済のさまざまな場面で重要なカギとなっているのです。
1月下旬にアップ予定の次回は、私たちの「豊かさ」について、映画を通じて考えてみたいと思います。
【今回の映画】
クレイマー、クレイマー(1979年、アメリカ)
原題:Kramer vs. Kramer
監督:ロバート・ベントン
出演:ダスティン・ホフマン、メリル・ストリープ、ジャスティン・ヘンリー
ブルース・ブラザース(1980年、アメリカ)
原題:The Blues Brothers
監督:ジョン・ランディス
出演:ジョン・ベルーシ、ダン・エイクロイド、レイ・チャールズ
バットマン・ビギンズ(2005年、アメリカ)
原題:Batman Begins
監督:クリストファー・ノーラン
出演:クリスチャン・ベイル、リーアム・ニーソン、マイケル・ケイン、渡辺謙